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恋愛ドラマで女性たちを虜にしたと思えば、シリアスな役で視聴者を圧倒する迫力をみせる。30代に入り、ますます演技に凄みを増した佐藤健は、クールで近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、YouTubeや公式LINEで見せる少年のような素顔も話題だ。YouTubeは220万人以上、公式LINEは500万人に迫る登録者数を誇る。一方でSNSとは一定の距離を取り、独自の付き合い方を貫く。謎多きトップ俳優が語る「孤独」、そして「本当の自分」とは。

エゴサしても「面白くない」「雨気をつけてね!」

こんなふうにときおり、佐藤健(の公式LINE)からメッセージが届く。毎日ではない。ほとんどが短文で、ちょっとした一言だ。だからこそ本当に直接連絡が来たような気分になる。

「自動返信って、僕ならつまらない。友達とのやりとりみたいに使ってるし、いただくメッセージも、けっこう見てますよ」

Twitterをしない理由は、「自分に興味がないから」だと言う。

「つぶやかないのも、基本的にエゴサをしないのも、面白くないからなんですよ。佐藤健について検索したところで、なんだろう、僕にとってはあまり意味がない気がする。でも、作品が公開になった時とかは、データ集めの意味でTwitterを見ることがあります。『この作品については、こういう声もあるんだ』とか、『みんなこんなふうに観てるんだ』という感想は把握していたいと思うから」

今年でデビュー15周年。デビュー当時はTwitterもまだ日本法人がなく、SNS市場は夜明け前だった。佐藤が俳優としてキャリアを積み上げている間に、SNSは日本中を席巻していく。映画『何者』では、SNSの世界に浸かる若者を演じた佐藤だが、当の本人はSNSから少し距離を置いているように見える。

「出始めの頃は、いろいろ見てました。昔はけっこう悪口とか、アンチコメントがたくさん来ましたよ。ほとんどがそうだったと思う。でも、あの頃ネットの世界って、モラルがなかったですよね? 悪いことを書くための場所みたいな。今でもネットいじめとか誹謗中傷とか、なくなってはいないけど、少しずつ『ここも公共の場なんだ』っていう意識も生まれているような気がします。でも僕は、いろいろ言われてた時も、『病みそうだからやめよう』とか思ったことはないんですよね。どちらかというと、そういうものを見ることに飽きてしまったんだと思う。それに、幸運なことに僕にはやるべきことがあったから」

ネガティブなコメントに目を通す暇もないほど、仕事に集中した。関わる作品に、その都度ベストを尽くす。それが、佐藤の生き方だ。

「ずっと忙しく仕事をさせてもらったおかげで、余計なことを考えることも、誰かの言葉に右往左往することもなくて。何を言われようが、『今、自分の芝居をどれだけいいものにできるか、それだけを考えよう』っていうふうに思えた。そもそも僕は、自分のことを率先して話すタイプじゃないんですよ。だからTwitterとかインスタとか、たぶん向いてないんです。友達と話してても聞き役になることが多くて、愚痴を言うとか、しょっちゅう近況を話すとか、そういうことはないかな」

嘘をついている限りは「孤独」
周囲を威嚇する鋭い目つき。頑なだった青年が少しずつ心を開き、ふと笑顔をこぼす。秋に公開予定の映画『護られなかった者たちへ』で演じた主人公は、まさにはまり役だった。コロナ禍において難産の末に生まれた作品として、思いもひとしおだ。

「僕が演じた利根は、周り全員を敵だと思っているような人。不器用で、熱くなったら止められなくて。でも一本芯が入っていて、自分にとっての正義を強く持っている。境遇は全く違うけど、通じ合うものがありました。コロナで撮影が思うように進まなくて、どうなるのかなと不安もあったけど、最近は、この生活も悪くないなと思ってます。Netflixでドラマや映画を観たり、本を読んだり、謎解きしたり、やりたかったことができている。一人でいることは嫌いじゃないので」

現在の生活のなかで「孤独」を感じることはあるのだろうか。

「僕は家族や友達に恵まれて育ちました。でも学生の頃、友達と仲良くしていても、なんか本音で言い合わない、つまり、何か隠しごとをしたり、嘘をついたりしている限りは、ずっと『孤独』なんじゃないかな、と思ったことがあったんです。そういう意味で、すごく孤独を感じた。やっぱり本音で話し合えない限り、人って孤独なんだなあって。そこに気づいてからは、友達との向き合いかたがちょっと変わりました。だから、本当に友達だと思える人には、絶対に嘘をつきたくない。本当のことを話そうと決めてます。今は物理的には、思うように人と会うことができないかもしれないけど、孤独を感じることはないかな」

実際に人が周りにいても、孤独になり得る。むしろ、そのほうが寂しい。その寂しさを解決する方法が、「全部を打ち明ける」ことなのだと佐藤は言った。

「友達は、同業者だったり、別の仕事をしている人だったり。本当に心をゆるして付き合える相手の存在は、ありがたいですよね」

本人の公式YouTubeでは、千鳥・ノブや神木隆之介など、友人たちと撮影した動画も公開している。そこでは、演技で見せる緊張感とは対極の、リラックスした姿が垣間見える。

自分自身の性格をどう認識しているかと問うと、苦笑しながら一言「省エネ」と答えた。

レッテルに本質はない

「単にめんどくさがりなんです。クールとかじゃなくて、エネルギーを節約してるだけ。それも目的があってというよりは、本当に子どもの頃からの性格です。『近寄りがたい』とかよく言われるんだけど、毎回『誤解だよ』って言ってます。僕だって、あなたのことを近寄りがたいと思ってるんです、って。なんというか、お互い人見知りなだけなんじゃないかなと。もちろん誰とでも仲良くなれるわけじゃない。でも、何か壁をつくっていたり、警戒して『近寄んなよ』って思ったりしているわけじゃないんですよ。興味のある相手なら、隙あらばこっちも話したいし、仲良くなりたいと思ってはいるんですけど、何せ省エネで。気を使うあまりに小心になってるのかも。そんな感じでツンとしてるように見えるのかな」

芸能人であるかぎり、レッテルやイメージを押しつけられることもある。例えば今でも「イケメン俳優」と言われることに対して、抵抗を感じるのだろうか。

「いや、気にしてないです。どんなレッテルにしても、そこに本質がないことがわかれば、ことばに左右されたり、悩んだりということはないですね。『イケメンって言われているうちが華かな』くらいで」

「35歳までに結婚する」と自身を奮い立たせている

過去のインタビューで、35歳までに「家族」をつくりたいと答えている。現在、32歳。今は、どういう心境だろう。

「うーん(笑)、それは、どうしてそう言ったかというと、自分自身を奮い立たせたわけです。そう言わないと、いつまでも、ずるずるするだろうなっていう未来が見えたので、『僕は35歳までに結婚します』と。今も、希望としては変わらないです……って言ってますけど、難しそうだな……」

東日本大震災に端を発する出来事を描いた『護られなかった者たちへ』は、「絆」が一つのテーマとしてある。世界中に新型コロナウイルスが蔓延し、日本が再びの危機にさらされている今、この映画に出演したことで、佐藤には確信したことがあるという。

「映画では、血のつながりも、何のゆかりもなかった人たちが、まるで家族のような絆を見つけていくさまが描かれています。それはとても奇跡的に見えるかもしれないけれど、演じた僕からすると、すごく自然で、簡単なことでもあるように思えた。たぶん、人と人ってそういうもので、心を開くことさえできれば絆は生まれて、そうすれば孤独から……何ていうんですかね、抜け出せることもあるんじゃないかな」

佐藤は、メッセージ性を持って作品に参加することはない、という。 役柄にしっかりと向き合い、佐藤自身が感じとったことを、スクリーンを通して表現していく。

「完成した映画を観たときに、命の重さや尊さというよりも、『誰かが、“誰かに生きていてほしい”と思う気持ち』に一番心を打たれました。自分が演じていても、そこで生まれる絆の温かさが素晴らしいよな、って思うことができたんです。僕が演じて教えられたこと、感じたことが、少しでも観てくれている方にも伝わったらいいな、と思います」

これから何か挑戦したいことはあるのか、ハリウッドを視野に入れているか、と最後に尋ねると、謎めいた微笑みを見せた。

「展望ね。具体的なことは控えるんですけども、ざっくり言うと、とにかくいい作品をたくさんの人に見てもらいたいっていうことです」。