文化庁令和2年度地域と共働した博物館創造活動支援事業
ライフミュージアムネットワーク2020

 福島県の太平洋側に位置する浪江町。海の恵み、山の恵み、そして海と山をつなぐ川の恵みの豊かな土地です。江戸時代から良港として活用されてきた請戸漁港は季節ごとに豊富な魚介類を水揚げしてきました。浪江町内で海と山をつなぐ高瀬川と請戸川の河口付近には東北最大規模の鮭のヤナ場があり鮭料理は浪江の郷土料理の一つです。山の恵みである土からは、大堀相馬焼という伝統工芸が生まれ人々の暮らしを彩り、町外に向けた産業の柱でもありました。

 2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原子力発電所事故により、浪江町は近隣の双葉郡内の町村同様に全町避難となり、浪江町役場は福島県二本松市へ避難。町のみなさんも二本松市をはじめ全国に避難されました。2017 年3月3 1日に一部地域の避難指示が解除され同年4月に町役場が浪江町内に戻りました。一部地域では居住も可能となりましたが、新たな土地での暮らしをはじめられた方、今もまだ避難生活を続けている方もいらっしゃいます。

 ライフミュージアムネットワークでは、浪江町にとって「大堀相馬焼」がどのような存在なのかを探る事業の一環で、今年度で休校する二本松市内の津島小学校と昨年度で休校した浪江小学校のこの10年間の「ふるさとなみえ科」の取り組みを「博物館」として残すお手伝いをしてきました。
 大堀相馬焼をはじめ浪江町の歴史と文化、そして第二の故郷となった二本松の歴史と文化を学び、二つの土地の架け橋になろうとした小学生たちの10年間は、2011年以降の浪江町、そしてそれ以前の浪江町を残し、伝えようとするものでした。
 本ディスカッションでは、子どもたちのそのような活動を「博物館」づくりからご紹介すると同時に、小学校が閉じることの意味や土地と結びついてきた伝統産業の在り方なども含め、浪江町の地域の記憶をいかに残し、伝え、未来の創造に繋げていくのかを講師のみなさんのお話から考えます。
 子どもたちの想いに大人はどう応えるのか。応えられるのか。
 みなさんと考えたいと思います。

■日時:
2021年1月11日(月・祝)13:30~15:30
■会場:
二本松市市民交流センター 第2会議室(二本松市本町2丁目3₋1)
■講師:
西村 慎太郎氏 (人間文化研究機構国文学研究資料館准教授/NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴん代表理事)
原田 雄一氏 (浪江小学校津島小学校を応援する会会長/浪江町商工会顧問)
三原 由起子氏 (歌人)
■ディスカッションモデレーター:
川延 安直 (福島県立博物館副館長/ライフミュージアムネットワーク実行委員会事務局)
■報告:
平澤 慎 (福島県立博物館学芸員/ライフミュージアムネットワーク実行委員会事務局)
■協力:浪江町立津島小学校
■LMN(ライフミュージアムネットワーク)とは
 福島県立博物館は、2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故後、文化庁の支援を受けた「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」「ふくしま震災遺産保全プロジェクト」の事務局をつとめ、さまざまな文化芸術による復興支援事業を実施してきました。
 その過程で浮かび上がってきた課題は、福島、東北、被災地に限らず、日本各地に共通するものであり、解決方法を導き出すべく、広く共有されるべきものでした。それらの課題は【いのち】【くらし】に集約されます。これらは各地の博物館・美術館・資料館・記念館を含むミュージアムの活動の核となっているものであり、ミュージアムに限らず、さまざまな団体、機関も大切にしていることです。東日本大震災後、新たに浮上してきたミュージアムの使命。それは【いのち(ライフ)】と【くらし(ライフ)】に再び誠実に向き合うことと捉え、ライフミュージアムネットワークでは、同じ志を共有するネットワークを強化・拡大することでミュージアムの社会的使命を拡張していきます。
 2020年度は、これまでの活動を継続するとともに、ソーシャルインクルージョン、地域資料の利活用とネットワーク構築、地域アイデンティティの再興を軸に、ライフ(いのち・くらし)に向き合うミュージアムの実践を行います。

※この動画は当日Zoomで配信されたものです