2013年10月29日、深夜24:15よりNHK BSプレミアムにて『椎名林檎お宝ショウ@NHK』が放送された。同番組は約6年前、2007年3月に放送された椎名林檎の特別番組の再放送で、アルバム『平成風俗』でタッグを組んだ斎藤ネコによるビッグバンドとともに「歌舞伎町の女王」や「罪と罰」、「迷彩」「錯乱」といった曲を披露するというもの。また、番組内では椎名がNHKの人気ドキュメンタリー『プロフェッショナル 仕事の流儀』のスタジオを訪れ、脳科学者の茂木健一郎と対談。茂木はテレビ出演の機会が増加し、人気が高まっていた時期で、トレードマークのヘアスタイルは現在よりも黒々としていた。椎名はモードな黒髪ショートに、ワンショルダーのドレスという衣装で、透明感のある肌が印象的。対談では、椎名がプロのミュージシャンとしてどのような意識を持っているかに迫った。

 茂木はまず、鮮烈なイメージでデビューした椎名に対し「ファンのひとと自分の中でイメージにズレが生じることはなかった?」と質問。椎名は「もう、ずっとズレっぱなしです。セカンドアルバムくらいまでは高校時代に書いた曲ばかりだったので」と、デビューの時点で、楽曲と自分との間にギャップが生じていたこと、ファンが持つイメージと本来の自分が異なっていたことを話した。

 茂木がそれに対し「僕はクリエイターには二種類の可能性があると思っていて、ひとつはそのひとが実際に作品の世界観に近いところにいたという可能性。もうひとつは純粋にイマジネーションとしてああいうものを書いたという可能性」と言うと、椎名は「歌詞だけを言えば非常に精緻な空想がベースになっていると思います。(中略)たとえば歌詞では歌舞伎町とか言っていますが、実際には当時、その土地を見たことがなかったり……」と、椎名の詞世界がイメージで作られていることを明かした。

 茂木は「やっぱり! 僕はクリエイターを理解するとき“ギャップ理論”というものを考えているんですが、クリエイターはしばしば、作ったものと本人がすごく乖離しているケースがあって、しかもそういう人に限って本物のクリエイターだったりするんですよ」と力説、椎名はその褒め言葉に照れ笑いを浮かべた。

また、椎名が自分の楽曲についての説明を求められたときは「いろんな方にいろんなことを尋ねられるんですけど、毎回、そのひとが期待していらっしゃるような答えを返してしまいます。女だから(笑)」と、相手に合わせて振る舞っていることを告白。さらに「本当は、クリエイターだったら説明すべきじゃないところはしないほうがカッコイイと思う。でも、クリエイターじゃないから。(中略)作るものに条件があるじゃないですか。たとえば3、4分のカラオケで歌える曲、みたいな。条件ありきでやっているから、そういう風に(自分はクリエイターだと)思ったことはない」と続けた。

 茂木は「椎名さんはきっと強いんじゃないかな。変化を求めて荒波の中に入った時、弱い自我だと流されてしまう。その中で成長できる人は、かなり強烈な個性というか、芯を持っている人だと思うんですよね。あんな曲を歌って、普通に聴いたら人生滅茶苦茶な人かと思っちゃうけど(笑)。でも、椎名さんは芯が強いから、自分をコントロールできる。求められている役割を、ちゃんとやれる」と、椎名が自身とギャップのある作品を作り続けることができる理由を分析した。椎名はそれに対し「ドキッとしますね。自分が予想するより、(外的な要因が)作用する力って大きいじゃないですか。それに対して、どうブレずにいられるかっていうことで精いっぱいです」と、作品やパブリックイメージに飲みこまれずに、自我を保っていることを明かした。

プロの道具を拝見のコーナーでは、椎名が普段から愛用している大きなバッグが登場。中には手書きの五線譜やマックブックが入っていた。茂木は手書きの五線譜を見て、「(椎名が)鉛筆と定規でこういうの書いていると思うと、なんだか面白い(笑)」と話すと、椎名は「プロフェッショナルな番組なのに、いつまでも学生みたいなことやっていて……いけないなぁ」と、少し落ち込んだ素振りを見せた。しかし茂木は「いや、そうじゃなくて、この『プロフェッショナル』っていう番組で一番大切なメッセージはなにかっていうと、最高のプロは実はアマチュアである、ということなんですよ。要するに、最初にその仕事を始めたときのフレッシュな気持ちを、ずっと忘れないでいられる人がプロフェッショナルなんですよ。アマチュアみたいな地道なことを、ずっとやり続けられるという。大事なのは気持ちなんですよ」と、椎名が今も手書きで曲を書いていることを称えた。椎名も「それは素敵ですね」と茂木の意見に同意し、嬉しそうな表情を見せた。

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