ウェアラブル市場に、新たな挑戦者が現れました。

カメラ内蔵のスマートグラスをAIと組み合わせる——その市場価値を証明したのはMetaのRay-Ban Metaでしたが、2026年4月20日、ファーウェイが独自のエコシステムを武器に参入してきました。「HUAWEI AI GLASSES」は、同社初のカメラ搭載スマートグラスです。HarmonyOSで結ばれたファーウェイデバイス群との連携、リアルタイム同時通訳、そして「眼鏡をかけているだけ」という日常に溶け込む形のAI体験を目指しています。このデバイスが示すのは、スマートグラス市場が本格的な競争フェーズに入ったことかもしれません。

2026年4月20日、ファーウェイは初のカメラ搭載AIスマートグラス「HUAWEI AI GLASSES」を発表した。HarmonyOSを搭載し、12MPカメラによる一人称視点撮影(0.7秒での高速キャプチャ対応)を実現する。AIアシスタント「小艺(Xiaoyi)」を統合し、リアルタイム同時通訳やナビゲーション支援を提供する。

フレームには航空宇宙グレードのチタン合金を採用し、重量は35.5グラム。最大12時間の連続使用とマグネット式急速充電に対応する。本体色はSilver Gray, Shimmery Silver, Modern Blackの3色。価格は2,499元(約5万8千円)から。中国での販売開始は4月25日。

同製品の発表はPura 90シリーズと同日に行われた。初回出荷数は推定40〜50万台規模ではないかとされている。

From: 文献リンクHuawei AI Glasses debuted with camera + built-in translation tool

📋 編集部注(2026年4月22日更新):初出時、バッテリー持続時間を「最大8時間の連続使用」と記載しておりましたが、正しくは「最大12時間の連続使用(通話時8時間、音楽再生時9時間)」です。また本体色の英語表記「Luminous Silver」を「Shimmery Silver」に修正しました。あわせて、グローバル展開の状況について、編集部解説末尾に追記しています。

【編集部解説】

2019年5月、ファーウェイは米商務省のEntity Listに加えられ、米国由来の技術・部品・ソフトウェアへのアクセスを事実上遮断されました。同じ年、ファーウェイは独自OS「HarmonyOS」の初版を世に出しています。制裁と自前OS——この二つは、偶然ではなく因果として結ばれた出来事でした。

それから7年後の今日、ファーウェイはスマートグラスという新しいデバイスカテゴリに参入しました。単なる新製品発表ではありません。2019年から始まった「自前でエコシステムを組み直す」という長い工程の、ひとつの到達点として見るべき動きです。

制裁が育てた「閉じたエコシステム」の完成度

HarmonyOSは2024年10月、「HarmonyOS NEXT」としてAndroidとの互換性を完全に切り離し、ネイティブ専用のプラットフォームに生まれ変わりました。2025年時点で、HarmonyOSエコシステムに接続されたデバイス数は10億台を超えるとされ、HarmonyOS 5・6を搭載する新デバイスは3,200万台を超えています。ネイティブアプリを常用するユーザーは推定1億人規模。

数字だけ見れば、iOSやAndroidと比べて「まだ小さい」と読むこともできます。けれど見方を変えれば、Googleサービスから切り離された状態で独自のOS・アプリストア・クラウドサービス・開発者エコシステムをゼロから構築し、ここまで積み上げた例は他にありません。制裁という外圧が、皮肉にも世界で二つ目の「垂直統合型スマートフォンOS」を生み出した——そう言い換えても、大げさではない規模に達しています。

今回のAI GLASSESは、このエコシステムに「眼鏡」という形のエンドポイントを加えるデバイスです。ファーウェイのスマートフォン、タブレット、PC、テレビ、車載システムと直接つながり、HarmonyOSネイティブのプロトコルで音声・映像・データをやり取りします。OSを自前で持つことの戦略的価値が、もっとも身体に近いデバイスにまで行き渡った瞬間と言えるでしょう。

なぜ「眼鏡」が最後のピースになるのか

ファーウェイは2019年以降、韓国のGentle Monsterと組んだ音声中心のスマートアイウェアを複数世代リリースしてきました。いずれも、スピーカーとマイクを内蔵した「耳のためのデバイス」であり、カメラは搭載されていません。今回のHUAWEI AI GLASSESは、同社初のカメラ搭載アイウェアです。

この違いは、スペック表で見るより重要です。カメラが付くということは、装着者の視界そのものがデータとして取り込まれ、AIが「ユーザーが今何を見ているか」を解釈できるようになることを意味します。これは、スマートフォンやスマートウォッチでは得られない、まったく新しい種類のコンテキスト情報です。視線と音声と位置情報がひとつのデバイスに集約され、しかもそれがHarmonyOSのノードとして他のデバイスと連動する——このアーキテクチャは、スマートフォン中心だった従来のエコシステムを、「身体を起点とするエコシステム」へと拡張する可能性を秘めています。

Metaのマーク・ザッカーバーグ氏が長年「スマートグラスこそが次のコンピューティングプラットフォームになる」と語ってきた理由も、ここにあります。入力と出力が最も自然に人間の感覚器に接続されるデバイス——それを押さえた企業が、次の時代のプラットフォーマーになる、という賭けです。ファーウェイがこのタイミングでカメラ搭載グラスを出したのは、同じ賭けに乗ったということにほかなりません。

Meta一強市場に、異なる武器で挑む

Counterpoint Researchの調査によれば、2025年上半期の世界スマートグラス市場でMetaは約73%のシェアを占めています。Ray-BanブランドでのEssilorLuxotticaは、2025年にMeta向けAIグラスを700万台以上販売し、発売(2023年10月)以降2025年初頭までの累計200万台から3倍以上に伸ばしました。すでに市場は一つの覇者を戴いた状態で競争が始まっています。

そこへファーウェイが持ち込む武器は、Metaのそれとは性質が違います。Metaの強さは、EssilorLuxotticaという老舗アイウェアメーカーとの提携によって「ファッションとして成立する装着体験」を作った点にありました。一方、ファーウェイが差し出すのは、OSからアプリ、クラウド、周辺デバイスまで自社で完結する「閉じたエコシステムの深さ」です。中国国内市場に限れば、この武器は極めて強力に機能します。HarmonyOSを使うユーザーは、ファーウェイのスマホ・タブレット・PCをすでに使っている層と大きく重なるからです。

また、中国市場では小米(シャオミ)がすでに2025年に参入し、発売から1週間でスマートグラス世界4位に食い込みました。競争は「Meta対それ以外」から「Meta対中国勢」の構図へと移りつつあります。初回出荷40〜50万台とされる今回のファーウェイの数字は、中国国内の需要を見据えた現実的な規模であり、同時に中国のスマートグラス市場がもう「新興」ではなく「成熟期の入口」に立っていることを示しています。

国境の内側で強く、外側で弱い——エコシステム戦略の光と影

一方で、ファーウェイのエコシステム戦略は国境を越えた瞬間に弱くなります。米Entity Listの制約は今なお継続しており、Googleサービスを前提とする西側市場でHarmonyOSデバイスを日常的に使うのは現実的ではありません。HUAWEI AI GLASSESのエコシステム連携という強みは、ファーウェイのスマートフォンやPCを既に使っているユーザーにしか届きません。Ray-Ban MetaがiPhoneでもAndroidでも動くのとは対照的な構造です。

つまり私たちが見ているのは、スマートグラスの市場シェア争い以上の何かです。テクノロジーが、一つのプラットフォームで世界を結ぶ時代から、地政学的な線に沿って複数のエコシステムに分かれていく——その過程の、具体的な一コマとしてこの製品はあります。身体に最も近いデバイスであるグラスでさえ、「どちらのエコシステムに属するか」で使い心地が分かれる未来が、もう始まっているのかもしれません。

ファーウェイがこの道の先で何を作り上げるのか、Metaとの競争が中国国外にどう波及するのか、そしてApple・Google陣営(Android XR)が本格参入したときに勢力図がどう変わるのか——答えはまだ誰にも見えていません。ただ、2019年の制裁がこの7年間でファーウェイのエコシステムをどれだけ鍛え上げたかを、HUAWEI AI GLASSESは静かに示しています。「締め出されたプレイヤー」は、「独自の世界を構築したプレイヤー」へと姿を変えつつあります。

【2026年4月22日 追記】

なお、現時点でグローバル向けの販売は発表されていません。カメラを搭載しない前世代モデル(Huawei Eyewear 2)は欧州・中東でも販売された実績があることから、今後グローバル展開が発表される可能性は残りますが、日本を含む海外での展開時期は現時点では未定です。本製品の動向については、引き続き追いかけてまいります。

【用語解説】

HarmonyOS(ハーモニーOS)
ファーウェイが独自開発したオペレーティングシステム。2019年に初版、2024年10月に「HarmonyOS NEXT」としてAndroidとの互換性を完全に切り離した純粋な独自プラットフォームへ移行。スマートフォン、タブレット、PC、テレビ、車載システム、ウェアラブルを単一OSで統合管理するのが特徴。

Entity List(エンティティリスト)
米商務省産業安全保障局(BIS)が管理する輸出規制対象リスト。掲載された企業・団体は、米国の技術・部品・ソフトウェアを輸入・利用するにあたって特別な許可が必要となる。ファーウェイは2019年5月に掲載された。

小艺(Xiaoyi/シャオイー)
ファーウェイが開発したAIアシスタント。音声操作、リアルタイム翻訳、ナビゲーション支援、画像認識などに対応。HarmonyOSエコシステム内のデバイスを横断して機能する。

チタン合金(航空宇宙グレード)
航空機や宇宙機器の構造材として用いられる高強度・軽量合金。アルミや鋼と比べて強度重量比(比強度)が高く、耐腐食性にも優れる。スマートグラスのフレームに採用することで、軽量化と耐久性の両立を図る素材として近年のウェアラブル製品で採用が増えている。

Ray-Ban Meta
MetaとEssilorLuxottica(Ray-Ban親会社)が共同開発したAIスマートグラス。カメラ内蔵型スマートグラスの市場を切り拓いた製品として位置づけられる。2025年H1時点で世界スマートグラス市場の約73%のシェアを持つ(Counterpoint Research調べ)。

Android XR
GoogleがSamsung・Qualcommと連携して展開するXR(拡張現実)向けプラットフォーム。スマートフォンの「Android」の延長線上にXRデバイス向けのOS層を置き、MetaのHorizon OSやAppleのvisionOSに対抗する位置づけ。2024年12月に共同発表され、対応ヘッドセット・スマートグラスが順次展開される見込み。

【参考リンク】

HUAWEI AI GLASSES 製品ページ(外部)
ファーウェイ公式コンシューマーサイトの製品紹介ページ。スペック詳細・カラーバリエーション・価格を確認できる(中国語)。

HarmonyOS 公式サイト(外部)
ファーウェイのHarmonyOSエコシステム公式サイト。開発者向け情報・対応デバイス一覧を提供。

Counterpoint Research — スマートグラス市場調査(外部)
スマートグラス市場の出荷台数・シェア・成長率などを定点観測している調査会社のトップページ。市場動向の一次データ源として参照可。

【参考記事】

Huawei officially announces its first AI Glasses with integrated camera — Gizchina(2026年4月8日)
発表前の経緯・HarmonyOSエコシステムの競争優位性・「1200MP」誤情報の否定を詳述。編集部解説の背景分析に活用。

Global Smart Glasses Shipments Soared 110% YoY in H1 2025 — Counterpoint Research(2025年)
2025年H1のスマートグラス世界市場規模・Metaの73%シェア・小米の台頭など、市場の競争構図データを提供。

Ray-Ban maker EssilorLuxottica triples sales of Meta AI glasses — CNBC(2026年2月11日)
2025年のMeta AIグラス販売700万台超(前2年合計比3倍以上)を報告。市場成長の勢いを示す数値の出典。

The Complete Guide to HarmonyOS NEXT — AppInChina(2024年)
HarmonyOS NEXTのAndroid完全分離・ネイティブアプリユーザー推定1億人など、エコシステム規模に関する詳細解説。

China’s Huawei debuts AI glasses to challenge Meta, Alibaba and Rokid — South China Morning Post(2026年4月20日)
発売当日の公式発表会内容・自社製AIチップ搭載・実重量35.5g・販売開始4月25日を報告。発表後の確認情報として活用。

【関連記事】

HarmonyOS NEXTがAndroidとの互換性を完全に切り離し、独自プラットフォームとして再出発するまでの経緯を詳述した解説記事。HUAWEI AI GLASSESが乗るエコシステムがいかに形成されてきたか——その7年間の伏線を読むための一本。

【編集部後記】

朝、鏡の前で眼鏡を選ぶ。その何気ない習慣に、「自分はどちら側の世界に属するのか」という問いが含まれる日は、もうそれほど遠くないのかもしれません。

7年前にEntity Listへ載せられた企業が、制裁を梃子に独自のOS・アプリ・デバイス網を積み上げ、ついに眼鏡までたどり着く——この軌跡を誰が予想できたでしょうか。Metaが世界の4分の3弱を押さえる市場へ、まったく異なる武器で挑むファーウェイの姿は、単なる製品競争の一幕というより、テクノロジーが地政学の線に沿って枝分かれしていく、その具体的な一コマのように映ります。

どこで買っても同じように動くスマートフォンに慣れてきた私たちが、次に手にする眼鏡では「Meta圏」と「HarmonyOS圏」のどちらかを選ばされる——そんな入口に、世界は立ちつつあるのかもしれません。便利さと、誰かと同じ景色を共有している感覚。その両方を手放さずに済む道があるのか、あるいはどちらかを選ぶことになるのか。しばらくは、この新しい分岐の行方を注意深く追いかけていくことになりそうです。