【生成AI事件簿】大量の研究成果に検証が追いつかない時代、数学コミュニティの協働文化と若手育成の行方
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小林 啓倫
経営コンサルタント
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2026.10.16(金)
フィールズ賞の授賞式。写真は2018年のもの(写真:新華社/アフロ)
2026年10月6日、OpenAIは未公開の社内AIモデルが生成した数学研究の論文722本をGitHub上で一挙に公開した。長年未解決だった難問への解答も含まれるという。だが、翌7日には3本が撤回され、14本が修正された。数学界には驚きと称賛が広がる一方、大量の証明を誰が、どう確かめるのかという難題が突きつけられた。
これは数学者だけの問題ではない。AIで成果物を生み出す速度が高まっても、その正しさや価値を見極める仕組みが同じ速度で進歩するとは限らないからだ。
(著者がChatGPTで生成)
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Proの思考約3時間分で1件の成果
OpenAIによれば、同社はAIモデルに約4000の問題を与え、得られた原稿を372の「ファミリー」に分類した。同じファミリーには主要な結果の証明のほか、補助的な議論や別証明などが含まれる。722本が、それぞれ独立した難問の解決を意味するわけではない。
その中で注目を集めたのは、「準リーマン予想(The Quasi-Riemann Hypothesis)」と題された原稿だ。
リーマン予想(ゼータ関数の非自明な零点がすべて実部2分の1の直線上にあるとする予想)より弱く、ある固定した定数θ<1について、実部がθを超える領域に零点が存在しないことだけを求める命題で、OpenAIの原稿は実部が8分の7を超える零点は存在しないと主張している。
リーマン予想そのものの解決ではないが、長年目標とされてきた種類の結果だ。
計算量は、成果1件あたり平均で「ChatGPT Proの思考およそ3時間分に相当する」という。これは推論時の計算量であり、各問題に要した時間ではない。失敗した試行やモデル開発を含む総費用も明らかにされていない。
評価は割れた。ラトガース大学のアレックス・コントロビッチ特別教授は、リーマン予想関連の結果について、X上で「人間がこれをやったら、文句なしに即フィールズ賞だ」と書いた。テキサス大学オースティン校のスコット・アーロンソン教授も「数学史上最大級の一日」と評した。
ただ同時に、ほとんどの証明はまだ人間に理解されていないようだとも指摘している。MIT(マサチューセッツ工科大学)のアンクール・モイトラ教授はForbesに対し、「主張は目を見張るものだが、論文は理解不能で、なぜ謎が突然解けたのかを説明する決め手が見当たらない」と指摘している。