Meta(META)は7月9日、次世代マルチモーダルAIモデル「Muse Spark 1.1」を発表した。従来の単純な質疑応答を超え、ユーザーに代わってパソコンを操作したり、複数のアプリケーションを横断してタスクを遂行したりする「エージェント機能」を大幅に強化。主要ベンチマークテストではAnthropicの「Claude Opus 4.8」やOpenAIの「GPT-5.5」に匹敵、あるいは上回るスコアを記録し、1年以上の遅れと大規模な組織再編を経たMetaのAI分野での本格復帰を印象づけた。
新モデルは、元Scale AIのアレクサンダー・ワン(Alexandr Wang)最高経営責任者(CEO)が率いる研究機関「Meta Superintelligence Labs」からリリースされた。7日に公開された画像生成AI「Muse Image」に続く発表で、CEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)が掲げる「パーソナル・スーパーインテリジェンス」構想の重要な布石と位置づけられている。
マルチエージェントでタスク処理が大幅に高速化
Muse Spark 1.1の中核的な進化は、複数のAIエージェントを連携させる「マルチエージェント・オーケストレーション」の実装にある。メインエージェントがユーザーからの指示を解釈して全体計画を立案し、並列動作する複数のサブエージェントに個別のタスクを委任。各サブエージェントは割り当てられた役割に専念し、利用可能なツールを自律的に選択しながら、必要に応じてメインエージェントに判断を仰ぐ仕組みだ。
この分散処理アーキテクチャにより、複雑なプロジェクトを前世代モデル「Muse Spark」と比べて大幅に高速で完了できるという。Metaは発表資料で「エンドツーエンドの遅延を最適化するために、マルチエージェントシステムを統制するようトレーニングした」と説明している。
100万トークンのコンテキストウィンドウを動的に管理する能力も特筆すべき点だ。長時間のセッションを通じて過去の操作を記憶するだけでなく、かなり以前の作業から関連情報を引き出し、将来的に必要となる重要な手順を保持したままコンテキストを圧縮する。これにより、モデルの処理限界に達することなく、より複雑で長期的なタスクを任せられるようになった。
コーディング性能でOpus 4.8に肉薄
開発者コミュニティが最も注目するコーディング能力では、大規模で複雑なコードベースを扱う実務的なタスクにおいて飛躍的な改善を遂げた。バグの診断と修正、エンタープライズレベルのシステムへの新機能追加、大規模なコード移行といった高度な作業が可能とされている。
Metaが独自に設計した社内コーディング評価「Meta Internal Coding Bench」における主要モデルの比較結果は以下の通り。
モデル名コーディング評価Muse Spark 1.1Claude Opus 4.8に匹敵Claude Opus 4.8トップクラスGPT-5.5Muse Spark 1.1より低いMuse Spark(前世代)大幅に下回る
総合ベンチマークでもMuse Spark 1.1は複数のテストでClaude Opus 4.8を上回るトップスコアを記録した。比較対象にはGoogleの「Gemini 3.1 Pro」や「GPT-5.5」も含まれており、MetaがAI最前線の競争に再参入したことを示す結果となった。Metaによれば、Muse Spark 1.1はすでに社内全体で開発者や研究者が日常的に利用しているという。
視覚・聴覚を備えたマルチモーダル機能
Muse Spark 1.1のもう一つの柱は、マルチモーダル理解能力の大幅な向上だ。画像や音声を入力として受け取り、それらの情報源から「極めて詳細な」キャプションを生成できる。これはGoogleの「Gemini Live」が提供するカメラ体験など、既存のAIモデルと類似した機能だが、Muse Spark 1.1の真価はエージェント的なPC操作機能との組み合わせにある。
具体的なユースケースとしてMetaは、スマートフォンで撮影した動画から商品写真を抽出し、その商品について推論した上でユーザーのブラウザを操作し、Facebook Marketplaceへの出品を代行するデモを公開した。画面上の内容を視覚的に解釈し、適切なアクションを起こして実世界のタスクを完遂する能力は、単なるチャットボットから自律型デジタルアシスタントへの進化を象徴している。
PC操作のワークフローも強化され、複数のアプリケーションにまたがる作業を長時間のセッションでもコンテキストを維持しながら遂行できる。さらに、どのタスクを自動化し、どの操作を手動で行うべきかを自律的に判断する能力も備えているという。
安全性評価も強化
Metaは自社の「Advanced AI Scaling Framework」に基づき、Muse Spark 1.1に対して広範な安全性評価を実施したと強調している。同モデルはジェイルブレイク(脱獄)やプロンプトインジェクションといった一般的な攻撃に対して強い耐性を示したほか、ハルシネーション(幻覚)の低減や、ユーザーに過度に迎合する「迎合性」の抑制も図られた。
Muse Spark 1.1は即日、「Meta AI」アプリおよびmeta.aiの「Thinking」モードで一般ユーザーが利用できる。開発者向けには「Meta Model API」のパブリックプレビュー版も公開され、自社サービスへの組み込みが可能になった。
今回の発表は、OpenAIやAnthropic、Googleといった先行勢に対し、Metaが1年以上の遅れを取り戻す決意を示したものと言える。Superintelligence Labsの設立やMuse Imageの公開に続く矢継ぎ早の展開は、ザッカーバーグCEOがAIを次世代プラットフォームの中核に据えていることの表れだ。エージェントAIという次なる戦場で、Metaがどこまで存在感を発揮できるかが今後の焦点となる。