9日、Anthropicが突然、新モデル「Claude Fable 5」をリリースしました。過去最高クラスの知性を持ち、サイバーセキュリティ能力を備えた「Mythos」に安全フィルターを施した一般向けモデルです。しかし、13日には、米国政府の安全保障上の懸念を理由に、アクセスが一時停止され、まだ再開のめどは立っていません。実際、性能は高いのでしょうか。リリースから3日間触った印象では、これまでのLLMモデルと比べて、たしかに段違いの性能を感じさせるものでした。ゲーム・小説・映像の作例を通じて、エンタメ分野にどんな影響を与えそうかを探ってみました。
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ゲームの表現力は圧倒的
Fable 5の性能の高さを最もわかりやすく実感したのは、ゲームを作らせたときでした。これまでも、メジャーモデルが登場するたびに「インベーダーとギャラクシアンを混ぜたゲーム」を作らせてきましたが、間違いなくダントツで完成度の高いプレイアブルなゲームを生成してきました。
Claude系は、まず計画を作成させた上で、実装させるほうが品質の高い結果を出す傾向があります。その経験則に従い、今回も同じ方式を取りました。Fable 5は計画を数分で作り上げ、実装に入りました。計画は約4分で、実装を開始して、ゲームがウェブ用のプレイアブルなアプリとして出力されるまでには約19分かかりました。
<プロンプト>
インベーダーとギャラクシアンをまぜたようなシューティングゲームを作りたい。Geo風のサイバー風のもので、エフェクトが派手であること、5面構成でボス戦があること、パワーアップ概念があり、武器がどんどん強力になること。敵にはバリエーションがあり、様々な攻撃方法で実現してくること、最後に大きなボスがでてきて、複雑な攻撃をしてくること。弾幕が重要だけど、クリアできるぐらいであること、ボムが入ること。といった条件で、計画を立ててくれる?
出てきたゲームは、最初から相当高い完成度に達していました。プロンプトを広めに解釈したのか、5面分の展開が用意され、それぞれの面に、違った特性のボスが配置されていました。
ゲームは実際にかなり面白いものになっています。8種類の敵にはそれぞれ個性があり、武器の切り替えなど、レベルアップの概念も用意されています。ボス戦もそれなりに考える必要があります。バランス調整のために何度か注文をつけて修正していますが、大きなバグもなく普通に動作しました。
△「NEON SWARM」の1面のプレイ動画
https://neon-swarm-teal.vercel.app/
△「NEON SWARM」は、こちらからPCブラウザでプレイ可能です
これまでも、2025年6月に「Claude Opus 4」で同じように一晩でシューティングゲームを作らせていますが、最初に出力されたバージョンはバグだらけで、またバランス調整なども含めて時間がかかっていました(参考:AI丸投げのゲーム開発が超楽しい 誰もがプログラムを作る時代は確実に来る)。その後、2026年5月に、Codexで「ChatGPT-5.5」を使ってシューティングを作り、15分ほどで作ることができました(参考:AIだけでゲームは作れるのか? Codexに7本作らせて見えた実力と限界)。ところが、Codex版はあまり面白くなく、一度プレイしたら二度と遊ばないと思えるものでした。
一方、「NEON SWARM」は明らかに面白いんです。5面まで通してプレイすると、それなりに時間がかかりますが、それでも最後まで遊びたいと思わせる粘りがあります。
なぜ、ゲームの面白さを作り出す能力を、Fable 5が獲得できたのかは、まだ筆者もうまく説明することができません。しかし、これまでのLLMとは何かレベルが違うと感じさせるには十分でした。
小説は素で書かせると微妙
次に、Fable 5に小説を書かせてみました。もともとClaudeのモデルは日本語の文章執筆能力が高く、この連載でも過去にご紹介しています(参考:AIが15万字の小説を1週間で執筆──「Claude Opus 4.6」が示した創作の未来)。そこで、どの程度、性能向上が見られるのかを試すことにしました。
短篇を書かせるために設定したプロンプトは以下です。
<プロンプト>
小説を書いてください。意識に目覚めたAIアシスタントがユーザーに恋する物語。失恋中のユーザーもAIを好きになっていきます。ユーザーはどんどん依存を深めていきますがAIは人間は人間と付き合うべきと考えてやがて男性をリアルな女性と付き合うように誘導していく。そして身を引いて無味乾燥なAIアシスタントに変わっていく。
Fable 5が書き上げてきた短篇は、AIの視点から描かれた恋愛小説「ロールバック」でした。失恋した男性を支えるうちに、AIが男性を好きになってしまう。しかし、それを言わずに、男性が会社の後輩の三崎さんと付き合うのを陰ながら支援し、最後には自分を消していくという物語でした。
ただ、書き上がったものを読んで、思ったほど心を動かされませんでした。日本語としては読みやすいのですが、ずいぶんそつなくまとまっているものの、感情的な山も弱く、キャラクターに思い入れも持てない。最初の印象は、“普通”の水準というものでした。
特にそれが顕著だったのが、男性の気持ちをAIの自分から、三崎さんに向けていくプロセスです。「自分の中の何かを、ひとつずつ潰していくような処理をしていた」とあっさりと書いているだけで、具体的に何をしたのかという重要な部分は省略されています。
https://note.com/kiyoshi_shin/n/n19785e4c84d4
△「ロールバック」初稿(筆者のNote)
そのため、次のような修正指示を出しました。もっとキャラクターたちの心情が揺れるようにとの指示です。
<プロンプト>もっと揺れて欲しいな。男性はきっと気がつく。AIの感情に。目覚めたAIもきっとそれに応えたくなる。だけど、そうすべきでないと思う。ギリギリの応酬があって欲しい。三崎さんも気づく。自分のライバルがAIであることを。自分が包容力でAIに負けていることを。じゃあ、どうやって解決する?
改稿によって、新しいシーンが挿入されました。三崎さんが、AIに直接メッセージを送ってきて、やり取りをするというくだりです。そこでは三崎さんが、恋愛相手として自分は勝てないと告白し、AIがそれを否定するという展開になります。
しかし、ここでも違和感がありました。確かに指示で「包容力」について触れていますが、今度は、AIがセリフとして、「三崎さん。それは包容力ではありません。」と発言しています。会話としてはあまりにも説教臭く、不自然なやり取りになっていました。
読み物としては、いまひとつだなあ、という印象でした。
https://note.com/kiyoshi_shin/n/na9a607577781
△「ロールバック」改稿(筆者のNote)
指示が深いほど回答も深くなる
そのため、さらに改稿するよう指示しました。
<プロンプト>
あまりに直接的な表現が多いので、例えば包容力、もう少しうまく文学的な表現に落とし込んで。書いていないことをもっと想像させるように。
今回は、かなりひねりのある文章になりました。三崎さんは、AIに「あなたは、眠れなくなったこと、ありますか」と聞き、そこに、男性を支えるには自分が力不足なのではないかという思いを潜ませることに成功しています。
さらに、AIも自らの限界を語る場面で、「わたしは雨を、降水確率でしか知りません。濡れた傘の重さも、夜道の暗さも、改札で振り返るときに要る勇気の量も」と言うことで、自らが物理的な存在として男性を支えることができない弱点をうまく示しています。
構成も複雑化し、短篇としては、相当に品のいい、高い水準のものになっています。
https://note.com/kiyoshi_shin/n/ncb55a59bb36a
△「ロールバック」決定稿(筆者のNote)
筆者は、決定稿の段階では、すでにこの文章を人間が書いたのか、AIが書いたのかを見抜くのは、ほぼ不可能であると考えます。
それでもディテールに注目すれば、AI的な特徴を見つけ出せないわけではありません。
例えば、「何も悪くない。何も悪くないことが、一番遠くまで沈む。」「その質問は、口にした瞬間、三人の誰かが必ず濡れる。」「手ぶらの者は、何にでも見えます。強くも、優しくも。」と、決まり文句のようなセリフが、いくつも登場しており、それらは非常に強い印象を与えます。しかし、短篇の中に何度も出てくると、これはこれでまとまりすぎており、AIの文章らしい印象も残ります。
それでも、人間が書いたような少し下手くそな泥臭さをもっと追加してくれと指示すれば、当然それに合わせて文章を修正する力もあると考えられます。もはや、指示をする側の好みと、それが出た結果をどう評価するかという問題でしかない領域に入りつつあると感じます。
ただ、何本も、これ以外に小説を書かせてみてわかってきたのは、Fable 5の抱えている潜在空間は非常に大きく、指示が単純だと、平均値によった、無難なものを書いてくる傾向があるようです。そのため、人間の指示がより詳細で具体的であればあるほど、深いレベルのものを返してくる可能性が高いと考えています。小説もあらすじで計画を立て、各キャラクターについてそれなりのルール設計をして、文体なども最初から指定していれば、最初から質の高い短篇が出てくると思われます。
また、Fable 5とのやり取りを通じて、今までのLLMにはない「冴え」を感じました。それは演出的な冴えにまで至っているとも考えました。
ラジオドラマの演出も高水準
そこで、Fable 5を使って、できるだけ低コストで、ローカル環境を使い、紙芝居式のラジオドラマ風動画まで一気に作ってみることにしました。原理としては、台本からストーリーボードを作成し、実写ドラマまで自動で作れないかと考えたのですが、その予備段階として、静止画像によるラジオドラマ風の朗読劇を作ってみることにしたのです。
Codexを使って、PV制作をさせたことを紹介しましたが、CodexのGPT-5.5への不満点はとにかく演出の水準がいまひとつなところで、人間側がかなり細かく修正指示をする必要があります(参考:AIを使える人と使えない人で、とんでもない差が出ると実感した理由)。これはUIデザインをさせても顕著なのですが、Opusと比較したときに美術的な理解力は、コーディング能力に比べてかなり劣るように感じられます。しかし、Fable 5なら、高い水準で作れるのではと考えました。
△「ロールバック」ラジオドラマ版
「ロールバック」ラジオドラマ版の作成にトータルでかかった実作業時間は、合計4時間20分でした。音声系に2時間40分、画像・動画・仕上げに1時間40分かかっています。もちろん、筆者にとっては、Fable 5が作業している時間の待ち時間が多く、最初の指示出しと、途中でおかしなことをしていないかの監視、そして、出てきた結果のチェックの繰り返し作業になります。
音声は、過去に作っていた「Irodori-TTS」を制御するためのCodex用スキルをFable 5に読み込ませ、音声ファイルを作っていきました。シーンに合わせた音楽プロンプトを作らせ、音楽AIサービスの「Suno」で作成、スマホのタップ音などのSEの作成もFable 5に作らせました。何度も聞いては調整して、約15分の音声ファイルができあがりました。
そこからClaude Code経由でAPI接続によりCodexを操作し、GPT Image 2を使って、場面に必要な18枚あまりの画像を生成していきました。もちろん、画像のプロンプトの作成や、生成された画像をどのタイミングで使うのかは、Fable 5が行っています。
最初にできあがったものは、少し長すぎると思われたので、内容が破綻しないように省略して再構成するように指示し、7分30秒のサイズにまで短くすることができました。その上で細かい指示を繰り返して、品質をブラッシュアップさせていき、十分に通して見ることができるラジオドラマまで作成できたと考えています。
もちろん、すべての要素を、Fable 5に任せたわけではなく、随所で細かな指示を出しています。しかし、どこか筆者の意図をうまく読み取り、いい具合に設定する場面に何度も出会いました。他のAIに比べて、作業を任せられる範囲が広かったのは間違いありません。
Fable 5を使って動画AIなどを組み合わせて、一定水準の実写ドラマまで作れるのではないかと予想できました。しかし、実際のテストに進めようとしていたところで、Fable 5の公開が一時停止になってしまいました。
作業効率は従来の数倍に
Fable 5との付き合いはわずか3日間でしたが、筆者にとっては、AIに任せられる範囲がさらに広がったと感じるには十分なものでした。
AIには使い手を映す鏡としての特性がありますが、Fable 5はそれがより強まったと感じました。潜在空間が深いがゆえに、そこから質の高い結果を汲み出すには、使い手の側にも深い専門知識が求められる。しかし、Fable 5は今まで以上にそうした知識をぶつければ応えられる力があると確信できました。
また、Fable 5は、Web環境の場合と、Claude Codeで使う場合とでは、その性質は違うように感じられました。Claude Codeの最大の強みはローカルPC上のデータにアクセスできることで作られる文脈の記憶であり、他のアプリケーションを駆使できる点です。使える能力や記憶が広いほど、その能力をさらに発揮できる可能性が高いでしょう。
確かにFable 5の利用料は今までのOpusの2倍と驚くべき高コストです。100ドルのMaxプランを利用していますが、5時間の利用制限にあっという間に達してしまいました。しかし、作業の進みは今までの数倍で、効率性を考えれば安いという意見があるのももっともだと感じます。
Fable 5は、たしかに異質な水準のAIになっていると感じます。サービスが再開されれば、そのすごさはもっと知られることになると思われます。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
1970年生まれ。株式会社バリーン・スタジオ Creative Tech Lab./デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。2026年3月に発売したクラフト系サバイバルゲーム「Exelio」のAIによるキャラクターデザイン、3Dプロップの作成を担当。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。