「ChatGPTのコネクタでつながるし、M365 Copilotいらなくない?」→有識者3人に聞いてみた 知らないと損するコンテキスト管理「Work IQ」の仕組み – ITmedia AI+

公開
2026年06月11日 08時00分

著者

平 行男

平 行男

編集:村田知己

編集:村田知己

 「ChatGPT」や「Claude」「Gemini」などの生成AIサービスは「コネクタ」機能や「MCP」などで「Microsoft 365」(以下、M365)を始めとしたさまざまなサービスのデータにアクセスできる。「それなら、追加料金を払って『Microsoft 365 Copilot』(以下、Copilot)を使う必要はないのでは?」と感じる読者もいるはずだ。

 しかし、専門家は口をそろえて「違いは確実にある」と指摘する。その違いを生み出しているのが、Copilotが参照するコンテキストを管理する仕組み「Work IQ」だ。

 ITmedia AI+編集部は「Microsoft MVP」としてCopilotの活用を推進する3人の専門家を招いた座談会を開催。M365 Copilotが「便利になった」転換点について議論した前編に続き、本稿ではWork IQの仕組みと、使いこなすためにユーザーがやるべきことに迫る。

参加者のプロフィール(50音順)浅田和明氏

大手総合商社の広報部をへて、2022年からIT企画推進部でMicrosoft 365や生成AIの企画・推進を担当。PRの経験を生かし、システムを魔法の杖としない、ユーザー中心の教育・展開活動に注力。25年3月に「Microsoft MVP for Microsoft 365 Copilot」受賞。

太田浩史氏

ITベンダーでMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。

中村太一氏

「居酒屋店員」「ミュージシャン」「Webデザイナー」といったさまざまな経歴をへて、2016年から複数の企業でMicrosoft 365(Office 365)関連の業務に従事。2018年に「Microsoft MVP Award」受賞。

モデレーター:村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。前職でエンジニアとしてMicrosoft 365の推進にかかわっていた。現在はOpenAIやAnthropic、GoogleなどのAIを幅広く利用中。

コネクタとWork IQの根本的な違い

――他社の生成AIサービスからコネクタでM365のデータに接続することも可能になっています。コネクタでM365にアクセスするのと、M365 Copilotを使うのとでは、何が違うのでしょうか。

※以下、敬称略

浅田: 違いは確実にあります。Copilotに「察してもらえる」(=Copilotがユーザーの意図を汲み取って回答する)感覚は、コネクタで接続した他社AIサービスではなかなか得られないと思います。

浅田和明氏(撮影:編集部、撮影協力:内田洋行)

太田: 他社のAIからM365のデータを参照する際は、ユーザーが「『SharePoint』にあるこの情報を使って回答して」と指示を出さなくてはいけません。一方、Work IQが搭載されたCopilotはユーザーのこれまでの行動履歴を網羅的に把握しており、会話の文脈に応じて必要な情報を参照します。このように、コンテキスト(AIが回答するのに必要な背景情報)をユーザーがわざわざ与えなくて済む仕組みが、「察してもらえる」感覚を支えています。

浅田: コネクタはあくまでデータを取りに行くための仕組みなので、ユーザーがデータの所在を把握していないと使えない。Work IQはその手間を省いてくれます。

太田: 私自身、この「察してもらえる」体験を強く実感した出来事が最近ありました。上司との面談に向けて「上司にこんなことを聞かれると思うんだけれど」とCopilotに尋ねたところ、「太田さんの最近の活動にはこういうものがあるので、このあたりをアピールするとよいのでは」と返ってきました。いちいちデータを与える手間なしで適切な回答をしてくれる体験がとても心地よかったです。

太田浩史氏。持っているのは著書『Microsoft 365 Copilot踏み込み活用術』(撮影:編集部、撮影協力:内田洋行)

Work IQの3層構造 データ・コンテキスト・推論

――Work IQはどういう仕組みなのでしょうか。

浅田: Work IQは、Copilotが参照するデータを3層構造で管理する仕組みです。最下層のデータ層は、M365や「Microsoft Dataverse」に入っているデータです。他社AIのコネクタは、このデータ層にアクセスする機能です。

Work IQの全体像(出典:Microsoftの公式ドキュメント)

 Work IQで特徴的なのは真ん中のコンテキスト層です。M365でのユーザーの行動履歴や、テナントの組織情報などを使って、Copilotがデータを検索する際の精度を高める仕組みです。

 例えば、会社のSharePointに同じような名前のファイルがたくさん保存されていることがありますよね。Copilotがどのファイルを参照すればよいか迷いそうですが、Work IQが直近の更新履歴や、そのファイルの送受信履歴などを見て、ユーザーに関連しそうなものに重みづけをしてくれます。単純にファイル名やメールの件名だけで判断するのではなく、コミュニケーション状況など周辺の情報も加味するわけです。

――単にデータを集めるだけでなく、行動履歴や人間関係まで踏まえている、と。

浅田 そうです。「このユーザーはよくこういう業務をしているから、こういう回答が合う」「最近こういう応対をしている」という情報もコンテキストとして付加します。回答時の推論とは別で、Work IQ内でも推論することで、ユーザーの意図に沿った検索結果を返せるようになっています。単純にデータをコネクタで取得するのとは、精度が全く違うと思います。

――従来は、M365のデータにアクセスするための機能として「Microsoft Graph」がよく紹介されていたと思いますが、Work IQとの関係はどうなっているのでしょうか。

太田: Microsoft Graphは、Microsoftのさまざまなサービスのデータに、1つのAPIでアクセスできるようにする仕組みです。ユーザーやファイル、電子メール、Web会議といったデータ同士の関係性(グラフ構造)も含めて扱えます。Work IQはそのデータ基盤の上に推論やコンテキスト理解を加え、AI向けの文脈を構築する機能群です。

Microsoft Graphの全体像(出典:Microsoftの公式ドキュメント)

中村: M365のデータにアクセスできる機能としてMicrosoft Graphの「グラウンディング」があります。Work IQが登場したときにグラウンディングのリネームと捉える人もいましたが、Work IQはグラウンディングよりも広い概念で、データにアクセスするだけでなく、さまざまな機能を含んでいます。

浅田: 外部のSaaSのデータも「Copilotコネクタ」で取り込めば、Work IQで処理する対象になります。

 また、Microsoftは「Work IQ API」を用意し、Work IQを外部から呼び出せるようにしています(本稿執筆時点ではプレビュー機能)。普通はユーザーのデータをMicrosoftのサービス内に囲い込むところですが、あえて開いている。Work IQの価値を業界標準に育てようとしている、と読むこともできます。

Work IQの恩恵を受けるためにユーザーが今やるべきこと

――では、Work IQの恩恵を最大限に受けるために、ユーザーがやっておくべきことはありますか。

浅田: 結局のところ、データの整理が重要です。私がよくユーザーに説明するのは「SharePointが家だとして、3LDKのゴミ屋敷から指輪を見つけてくるのと、整理整頓された1LDKから見つけるのと、どちらが早いですか?」と。答えは当然「整理整頓された1LDK」です。AIにとってもそれは同じ。Work IQといえどもデータ量が増えるほど、対象範囲も広がり、適切な情報を探し当てるのは難しくなる。だからゴミ屋敷をそのまま放置してよいわけではありません。

太田: 今後の方向性として、コンテンツや情報を整理するためのAI機能も一部プレビューで公開されています(「Copilot in SharePoint」など)。とはいえ、AI任せにせず、ユーザーが主体的にデータを整理する姿勢が大事だと思います。

中村: ファイルサーバやSharePointの“ゴミデータ”問題は企業にとって永遠のテーマですよね。AIでファイルを整理する機能を使う場合も、最終的にそのファイルがいるかいらないかを判断するのは人間です。

中村太一氏(撮影:編集部、撮影協力:内田洋行)

太田: 人間が企業内の全ての情報を俯瞰することは不可能なので、AIも上手く使いつつ進めたいですね。

Copilotマスターが教える、おすすめの使い方

――最後に、明日から始められる、Copilotのおすすめの用途を教えてください。

浅田: 私はよく、「Outlook」でメールを返すときに「以前同じような案件で返信したので、それと同じように文面を作って」とCopilotに依頼しています。各アプリにもCopilotが組み込まれていて、ドキュメントや電子メールを直接編集できます。データを集める、加工する、アウトプットする、という一連の流れを1度の依頼で完結できます。

 これはMicrosoftが「AI in the flow of work」(業務の流れの中におけるAI)と表現している世界観そのものです。業務の中にメールやチャット、会議のデータが既に存在していて、それをわざわざ持ってこなくても、Copilotが察して使ってくれる。M365 Copilotは、まさにこの世界観を体現しているサービスだと言えます。

中村: 私は、迷ったらまずCopilotチャットを起点に使ってみることをおすすめします。「Excel」を使う明確な目的があるならExcelのCopilotを使えばよいのですが、特定のアプリにひも付かない作業、例えばざっくばらんな仕事の相談などはチャットの方がしっくりきます。

 入力方法も、テキストでも音声でも、どちらでも構いません。私はほぼ在宅で仕事をしているので、よく音声でも入力しています。隣に同僚がいるつもりで、思いついたことをそのまま声に出す。それで仕事が一段進むのなら、こんなに気軽な相棒はいません。

太田: Copilotの利用の起点はやはりCopilotチャットに集約されますね。Work IQはそこで、ユーザーが意識せずともさまざまなツールから、適切なコンテキストを供給してくれます。ユーザーが本当に欲しい、自分の業務の文脈を踏まえた回答をくれる。M365 Copilotを使う本当の意義は、そこにあると私は考えています。

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平 行男

編集:村田知己

編集:村田知己

ITmedia AI+ 編集記者。市場調査会社でのエンジニア職を経て、2022年アイティメディア入社。キーマンズネット編集部、社内のデータ分析基盤構築担当、ITmedia エンタープライズ編集部を経て現職。

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