2026年05月30日 14時00分
AI

未査読論文リポジトリ・arXivが、AIを使った粗雑な論文を提出した研究者に厳しいペナルティを与える意向を示しました。このarXivの動きについてアデレード大学の教育学者であるヴィトミル・コヴァノヴィッチ教授が私見を述べています。
A key science publishing platform is cracking down on AI slop
https://theconversation.com/a-key-science-publishing-platform-is-cracking-down-on-ai-slop-283136
arXivのコンピュータサイエンス部門責任者であるトーマス・G・ディータリッヒ氏はX(旧Twitter)上で「生成AIツールによる間違いは著者の責任とする」という新方針を示しました。そして、生成AIによる明確な誤りを含んだ状態で論文を投稿した場合、著者らは連名でarXivへの投稿が1年禁止されるという規則を発表しています。
未査読論文リポジトリのarXivが「論文にLLMによる間違いや架空の引用が含まれていたら1年間投稿禁止」の方針を示す – GIGAZINE

AI企業のGraphiteが発表した調査結果によると、2025年第1四半期(1~3月)以降にインターネット上で公開された記事のうちの半分がAIによって書かれたものだとわかりました。
記事だけでなく学術論文についても、AIによって執筆されたものは増加傾向にあります。学術誌「Organization Science」に2026年4月に掲載された研究結果によれば、2022年にChatGPTがリリースされて以降「投稿論文数が劇的に増加している一方で、質が低下している」そうで、研究チームは「AIツールの現状は既存の『発表しなければ生き残れない』というインセンティブによってさらに助長され、研究の質を高めることよりも量を増やす方向へと押しやっているようだ」と結論づけています。
学術出版における質の低さを防ぐ手段は当該分野の別の専門家が研究論文を読み、出版前にその背後にある研究内容を精査する「査読制度」に依存しています。しかし、多忙な研究者は無償の査読作業を行う時間や意欲がほとんどない場合が多く、査読システムはAIが登場する以前から既に問題を抱えていたといえます。

今回ディータリッヒ氏は「投稿論文に、著者がLLMによる生成結果を確認していなかったことを示す明白な証拠が含まれている場合、その論文の内容は一切信用できないということになる」と述べており、AIの使用を一様に禁止したわけではありません。コヴァノヴィッチ教授も「ほとんどの研究者はAIが生成するテキスト自体は問題ではないという点に同意するだろう。問題はAIによって容易に低品質なテキストが生成される可能性があることだ」と述べています。
しかし、コヴァノヴィッチ教授は「論文に名前が記載されているすべての著者に1年間の論文掲載禁止処分を下すという罰則は、現在の研究慣行にそぐわない可能性がある」と指摘しています。
従来研究は個人、または2~3人のグループで行われることが多くあり、そのような場合だと各著者が全体に対して責任を負うことを期待するのは妥当だろう、とコヴァノヴィッチ教授は認めています。しかし、現代の研究はかつてないほど共同作業が主流となっており、1つの論文に最低4~5人の著者が名を連ね、最大では数百人が共同で研究に取り組むケースもあります。そのため、コヴァノヴィッチ教授は「数十人あるいは数百人の著者のうちの1人が、自分の担当部分にAIが作り出したと思われる参考文献を含めた場合、他の全員も投稿禁止処分とするのは厳しすぎるように思える」と主張しました。

また、その他の問題のある資料を出版することに対する同等の制裁措置は存在しません。過激な理論や信憑性のない理論を広めたり、質の低い証拠や非論理的な議論を用いたりすることに対する禁止措置は依然として存在しない、とコヴァノヴィッチ教授は指摘しました。
コヴァノヴィッチ教授は「arXivの今回の選択は極端に思える。査読と品質保証の向上が目的であれば、AIシステム自体が役割を果たすことができるはずだ」と述べています。AIシステムが参考文献リストを受け取り、その中のすべての文献がインターネット上で入手可能な実際の論文であるかどうかを確認し、疑わしいと判断された参考文献についてはその後人間が確認することもできます。
コヴァノヴィッチ教授は「AIは論文の統計分析などについて、迅速な妥当性チェックを行う際にも役立つ可能性がある。比較的軽微なAI関連の違反行為に対して厳しい制裁を科すよりも、むしろこれが今後の進むべき道なのかもしれない」と主張しました。
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