同氏はまた、およそ15年前にクラウド移行期のスケールアップ戦略を策定して事業拡大に大きく貢献したロルフ・ハームズ氏を、CEO直属アドバイザーに起用しました。昨年11月の社内メールでナデラ氏は次のように問題意識を共有しています。
「かつてクラウド事業でそうしたように、AI事業についても新たに、しかも早急に、その経済性を組織全体として再検討する必要があります」
マイクロソフトはその規模の大きさ、歴史の長さにおいて、他社と直接的に比較するのが難しい存在と言えます。
流通倉庫運営を含めた小売り事業を展開するアマゾンを除けば、マイクロソフトの約22万人という従業員総数はマグニフィセントセブンのなかで最も多く、アルファベット(Alphabet、約19万人)やアップル(Apple、約16万人)を大きく上回ります。
また、創業は1975年、上場が1986年とマグニフィセントセブンのなかで最も古い歴史を持ち、それゆえに長い時間をかけて積み上げられた慣習を打ち破るのが難しい組織とも言えるでしょう。
これまでそうした独自の文脈を持つ組織だったがゆえに、ナデラ氏の今回の経営幹部刷新からは、あらゆる組織において必要とされている普遍的な変化への戦略的適応がテーマになっていることも読み取れます。具体的には以下の3点がそれです。

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「幹部は現場に飛び込み、自ら率先して行動せよ」
マイクロソフトでもプレイングマネージャーの重要性および存在感が増しているようです。
スチュワート記者は以前、ナデラ氏が経営幹部に対してより迅速かつ効率的に業務を遂行するよう要請したと報じていますが、それは少ない人員で大きな成果を上げるだけでなく、幹部が現場に飛び込んで(何層にもおよぶ管理職たちからの報告を待たず)自ら改革を推進することを求めた指示です。ナデラ氏自身も例外ではありません。
「一般従業員にも発言権を」
管理職レイヤーを削って組織をフラット化させる改革では、経営幹部が現場に「降りる」イメージが先行しがちですが、ナデラ氏が求めているのは双方向的な変化。現場からより多くのアイデアを引き出すため、幹部以外の一般従業員にもミーティングで積極的に発言するよう促しています。
「世代交代を急ぐ」
マイクロソフトは定年まで安穏と過ごせる職場として知られ、実際、あくせく働かずに済むポジションに在籍年数の長い従業員が安住するケースも少なくないようです。今回の改革の一環として、ナデラ氏は外部人材を要職に登用する一方、ベテラン幹部の職責を縮小したり、ポジションそのものを消滅させたりしています。
続いて、アシュリー・スチュワート記者の詳細な取材成果を、刷新の対象となる具体的な人物や役職まで含めて紹介しましょう。

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「CEOの時間確保」から革新は始まった
マイクロソフト(Microsoft)のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)。REUTERS
サティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)がマイクロソフト(Microsoft)経営幹部の陣容刷新に動き出したことが独自取材を通じて明らかになりました。
新たなAI時代に本当の意味で適応するため、従業員約22万人を擁する創業数十年の巨大企業を、より小規模で機動力に優れた競合企業と戦える組織へと変革する試みです。
ナデラ氏と密接な関係者への取材やビジネスインサイダーが独自ルート経由で入手した社内資料などから、幹部人事の詳細や改革の全貌が見えてきました。
取材に応じた関係者の一人は「いわゆるシニアリーダーシップチーム(SLT)は、特段の社内通知や対外的発表を経ずに廃止されました」と明かしました。最上級の経営幹部のみで構成され、ナデラ氏が直轄してきた最高意思決定機関は、小規模で現場に近いフラットなチームへと生まれ変わったようです。
かつてアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が「従業員が定年まで惰性で働く社交クラブ」と評した老舗巨大企業マイクロソフトにおいて、これは決定的な変化と言っていいでしょう。

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ナデラ氏はこの1年、AI事業の再構築を進めてきました。
昨年10月、それまで最高商務責任者(CCO)を務めていたジャドソン・アルソフ氏をコマーシャルビジネス(企業顧客向け事業)CEOに昇格させ、経営トップとして登壇を続けてきた年次イベント「イグナイト(Ignite)」の基調講演をアルソフ氏にまかせるなど、技術関連の取り組みに専念する時間を確保。
翌11月にはAI時代の新たな事業戦略を練り直すため、15年以上前にホワイトペーパー「クラウドの経済学」を発表してクラウド事業の拡大に貢献したコーポレートバイスプレジデント(クラウドおよびAI担当)のロルフ・ハームズ氏を、CEO直属のAI戦略アドバイザーに就任させています。
そうした動きの一方で、ナデラ氏は経営幹部たちに対し、AIを主軸とする組織改革に賛同してより多くの業務量とより厳しい達成目標を求められる新たな企業カルチャーを受け入れるか、さもなくば去るかの二択を迫ったのです。その直後から、マイクロソフトは著名幹部の後退人事を次々と発表しています。

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小規模「リーダーシップ」グループが次々誕生
従来の最高意思決定機関SLTに代わる新たなチームの一つが、会社全体の運営とガバナンスに特化した「コーポレートリーダーシップ」です。
ナデラ氏、副会長兼プレジデントのブラッド・スミス氏、最高財務責任者(CFO)のエイミー・フッド氏、最高人事責任者(CPO)のエイミー・コールマン氏、さらにはコマーシャルビジネスCEOのジャドソン・アルソフ氏が参加し、週1回以上会合を開いています。
左からブラッド・スミス氏、エイミー・フッド氏、エイミー・コールマン氏、ジャドソン・アルソフ氏。Bloomberg/Getty Images; Aapimage/Reuters; Michael Liedtke/AP
ナデラ氏は加えて、エンジニアリングおよびプロダクト部門のリーダー約35人が参加する「エンジニアリングリーダーシップ」も直轄しています。エンジニアやリサーチャー、プロダクト開発者、デザイナーが何層もの管理職レイヤーを解することなく緊密に連携して業務を遂行するスタートアップ型の運営モデルに近いものです。
このエンジニアリングリーダーシップの注目株がエグゼクティブバイスプレジデント(Azureデータ担当)のアルン・ウラグ氏。4月に昇格したばかりですが、データ分析プラットフォーム「Fabric(ファブリック)」事業も統括し、全社的な戦略においてもより大きな役割を担っています。
直属の上司はクラウド+AIグループ担当エグゼクティブバイスプレジデントのスコット・ガスリー氏ですが、ナデラ氏の直属の部下のように動くシーンも多い模様。ナデラ氏は(ウラグ氏が参加する)Azureクラウドインフラチームとも隔週でミーティングを行っているとのこと。
また、AIアシスタント「Copilot(コパイロット)」の改善や展開戦略を担う「Copilotリーダーシップ」も発足しました。チャールズ・ラマナ氏、ジェイコブ・アンドレウ氏、ライアン・ロスランスキー氏という3人のエグゼクティブバイスプレジデントがメンバーで、いずれもナデラ氏とは週次のスタンドアップミーティング(短時間の進捗状況共有)を行っています。
左からチャールズ・ラマナ氏、ジェイコブ・アンドレウ氏、ライアン・ロスランスキー氏。Microsoft; Kimberley White/Getty Images; Bloomberg/Getty Images
Copilotプラットフォームを統括するのはラマナ氏、ユーザーインターフェース担当が(今年3月に消費者向けおよび企業向けのCopilot事業統括に就任したばかりだった)アンドレウ氏、アプリケーション担当がロスランスキー氏。
なお、現場の声を直接拾い上げる試みとして、ナデラ氏は昨年から始めた「アクセラレーターミーティング」も拡充を進めています。経営幹部たちが聴衆になって、現場の従業員たちがアイデアを披露したり、最前線で見えている状況を説明したりする場となっているようです。
また、Copilotリーダーシップに名を連ねるラマナ、アンドレウ、ロスランスキーの3氏に加え、Windows+デバイスグループ担当エグゼクティブバイスプレジデントのパバン・ダブルリ氏もナデラ氏が信頼を寄せる経営幹部として存在感を放っています。ノートPC「Surface」の開発に草創期から関わってきた在籍25年のベテランです。
第一線を去る著名経営幹部も多数
新たなリーダーたちが台頭する一方、これまでマイクロソフトの意思決定に関与してきた経営幹部の役割は縮小されつつあります。
独自ルート経由で確認した最新の組織図によれば、ナデラ氏が2024年にヘッドハントして新設のコンシューマー向けAI部門「マイクロソフトAI」のトップに就任させたムスタファ・スレイマン氏は、スーパーインテリジェンス(超知能)の実現に注力し、約650人を統括するにとどまっていますが、ナデラ氏との密接な関係に変化はない模様。
最高技術責任者(CTO)のケビン・スコット氏も、引き続きナデラ氏の側近中の側近としてAI戦略の再設計に向けて中核的な役割を果たしているようです。
在籍35年の古株、2023年からコンシューマー向け部門の最高マーケティング責任者を担ってきたユスフ・メフディ氏は、2027事業年度の期首(7月1日)から「エージェント時代に向けたWindowsの再構築をサポート」する役職に移行したうえで、年度いっぱいで退社することが判明。
また、同じく在籍30年以上のベテランで、エクスペリエンス+デバイスグループ担当エグゼクティブバイスプレジデントとして大きな影響力を行使してきたラジェシュ・ジャ氏も、本事業年度を最後に引退する考えを表明しています。
内情に詳しい関係者によれば、一部のベテラン経営幹部は役職を退いたあとも半年から1年程度は円滑な移行をサポートするアドバイザー的な立場で会社に留まる可能性があるとのこと。同関係者はその理由をこう説明しました。
「長い時間をかけて社内に蓄積されてきた知見を突然失うのは、サティアの本意ではありません」
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