デジタルアセットインフラのFireblocksは、AIエージェントによるオンライン決済を支えるための新しいフルスタックソリューション「Agentic Payments Suite」をローンチし、同時に「x402 Foundation」へ参画したと発表しました。Agentic Payments Suiteは、Coinbaseが推進する決済プロトコル「x402」をネイティブにサポートする目的で設計されており、エージェントが資金を送るためのウォレットインフラから、加盟店側が受け取るためのアクセプタンスレイヤーまで、AIエージェント決済の「全ライフサイクル」をカバーする構成です。あわせて、規制された金融機関向けにコンプライアンスおよびセトルメント(決済)機能も組み込まれています。
Fireblocksが今回のスイートで特に焦点を当てているのは、AIエージェントを通じたステーブルコインのアダプション拡大です。Fireblocks共同創業者でチーフ・プロダクト・オフィサー(CPO)のIdan Ofratは、「世界で10億人以上が毎日AIアシスタントを使っている。そのうちのほんの一部でも、エージェントに支出権限を委任し始めれば、ステーブルコインの流通速度(velocity)は大きく加速する」と述べています。同氏はさらに、「カードネットワークや銀行送金は、瞬時かつプログラム可能な機械間(machine-to-machine)の価値移転を扱えない。ブロックチェーン上のステーブルコインは扱える。デジタルアセットはエージェント決済に『相性が良い』のではなく、唯一フィットする手段だ」とコメントしており、AIエージェント時代の決済レールはステーブルコインに収斂するという立場を取っています。背景として、CoinbaseのCEOであるBrian Armstrong、CircleのCEOであるJeremy Allaireをはじめとする多くのクリプト業界のエグゼクティブも、AIエージェントが近い将来、人間に代わってブロックチェーントランザクションの主要な利用者になると予測しています。直近では、Amazon Web Servicesが「Amazon Bedrock AgentCore」にCoinbaseのx402プロトコルを統合し、AIエージェントがUSDCで決済しAWS管理の決済コントロールを介して各種サービスにアクセスできるようにしたほか、クリプトウォレットスタートアップのOobitは、AIエージェントが事業者の代理としてUSDtでオンライン購入を行うためのVisa対応バーチャルカードを投入するなど、AIエージェント主導のステーブルコイン支出を後押しする統合事例が複数登場しています。
一方で、AIエージェントによるオンチェーン取引はまだ揺籃期にあります。x402.orgのデータによれば、過去30日間にx402プロトコル経由で処理された取引高は約2,420万ドルにとどまります。Ofratも「AIエージェントの普及はまだ非常に早期だ。我々はインフラ構築フェーズにいる。カード決済のインフラが現在備えているコントロールやトラストレイヤーを構築するには、何十年もの時間が必要だった。こうしたことは一夜にして起こるものではない」と認めています。Fireblocksはこの長期戦に備えて、CoinbaseのプロトコルであるX402をAIエージェント向け決済の業界共通レールに位置付けることを目的とする業界団体「x402 Foundation」に加わっており、既存メンバーには、Google、Microsoft、Amazon Web Servicesといったビッグテック、MastercardやVisaといった決済企業、加えてCircle、Polygon Labs、Solana Foundationといったクリプトネイティブ企業が名を連ねています。FireblocksにとってのAgentic Payments Suiteは、自社が長年培ってきたウォレットインフラとセキュリティ、コンプライアンス機能を、AIエージェント主導のステーブルコイン経済へと拡張する一手であり、フリクションの少ないマシン・トゥ・マシン決済を、規制対応が必要な金融機関と共存する形で実装していく試みと言えます。
Fireblocksについて
Fireblocksは、2018年にMichael Shaulov(CEO)、Idan Ofrat(CPO)、Pavel Berengoltzによって設立された、米国・ニューヨーク市を本社とするデジタルアセットインフラ企業で、テルアビブに大規模なR&D拠点を構えるグローバル企業です。共同創業者のShaulovとBerengoltzは、Fireblocks以前に、イスラエルのモバイルセキュリティ企業Lacoon Mobile Securityを共同創業し、2015年にCheck Pointへ1億ドルで売却した経験を持つシリアルアントレプレナーです。Fireblocksのプラットフォームは、金融機関向けに、暗号資産(クリプト)のカストディ、ウォレットインフラ、ステーブルコイン決済、トークナイゼーション、トレジャリーオペレーション、DeFiアクセスなどを単一のAPI/インフラ基盤として提供するもので、25以上のブロックチェーンに対応し、Bank of New York Mellon、BlockFi、eToroをはじめとする大手金融機関や暗号資産取引所、ヘッジファンド、フィンテック企業に採用されています。これまでに同プラットフォーム上で4兆ドル規模のデジタルアセット移転を確保してきた実績を持ちます。資金調達面では、シリーズA〜シリーズEまでで累計約10.4億ドルを調達しており、特に5.5億ドルのシリーズE(D1 Capital PartnersとSpark Capitalがリード、General Atlantic、Index Ventures、Mammoth、CapitalG、Altimeter、Iconiq Strategic Partners、Canapi Ventures、Parafi Growth Fundが参加)でユニコーン入り後の評価額は80億ドルに到達し、デジタルアセットインフラ領域における高評価のグローバルプレイヤーとして地位を確立しています。