記事のポイント
AmazonはGoogle主導のUCP技術委員会に参加し、AI時代の新たな購買インフラづくりに関与しはじめた。
独自のAIショッピング機能を強化しつつ、業界標準づくりにも加わることで主導権の確保を狙っている。
エージェンティック・コマースの本格普及を見据え、競合との協調と競争が同時に進んでいる。
Googleが1月、AIを活用したショッピングを促進するためのオープン標準「ユニバーサル・コマース・プロトコル(Universal Commerce Protocol:以下、UCP)」を発表した際、小売業界の主要プレーヤーリストに欠けていた名前があった。Amazonだ。
しかし、それからわずか数カ月後の4月24日の発表によると、このEコマースの巨人は、同オープン標準を監督する技術委員会に加わった。新メンバーには、メタ(Meta)、マイクロソフト(Microsoft)、ストライプ(Stripe)、セールスフォース(Salesforce)も名を連ねている。彼らは、先行メンバーであるGoogle、Shopify、エッツィ(Etsy)、ターゲット(Target)、ウェイフェア(Wayfair)と合流し、プロトコル開発の指針を策定していくことになる。
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業界の「共通言語」をめざすUCPの狙い
GoogleのUCPは、AIツールによるショッピング体験をより円滑にすることをめざしている。現状では、小売業者はAIプラットフォームごとに個別の連携システムを構築しなければならない。UCPは単一の標準規格を設けることで、AIツールが小売業者の商品リストや価格、決済システムへ横断的にアクセスできるようにし、この問題を解決しようとしている。現在、このプロトコルはGoogleの「AI Mode」や「Gemini」アプリ内での決済機能を支えている。
年初に全米小売業協会(National Retail Federation)のカンファレンスでUCPが発表された際、Amazonが不在だったことは注目を集めた。当時、Modern Retailの取材に対し、業界のアナリストたちは「このプロトコルは、Amazonのマーケットプレイス以外で商品を見つける新たな手段を提供するため、Amazonにとって潜在的な脅威になる可能性がある」と指摘していた。
米国のオンラインショッピング利用者の半数以上は、Amazonの広大なWebストアから商品検索をはじめる。理論上、UCPはオンラインショッピングの起点をAmazonのようなプラットフォームからAIツールへとシフトさせる可能性を秘めているのだ。
「テーブルの席」を確保しつつ自社ツールも強化
「エージェンティック・コマース」が本格的に普及するかどうかは、いまだ不透明だ。仮に普及したとしても、それがAmazonのコアビジネスである小売事業を脅かすかどうかはまだわからない。それでも、AmazonがUCP技術委員会への参加を決めたことは、次世代システムの開発過程において「発言権」を確保しつつ、自社独自のAIショッピングツールの開発も継続したいという同社の意図を物語っている。
独立系Eコマースアナリストのヨウザス・カジウケナス氏は、「UCPは最終的に、これら多様な体験を支える基盤層を構築しようとしている」と語る。「これが何をもたらすかは未知数だが、Amazonのお墨付きを得た以上、今後の動向に注目だ」。
Amazonはこの発表以上のコメントを控えている。一方、OpenAIは9月、ChatGPT内で直接商品を購入できる「インスタント・チェックアウト(Instant Checkout)」を発表した。また、ストライプと共同開発した「エージェンティック・コマース・プロトコル(Agentic Commerce Protocol)」も発表しており、これは表面上UCPの競合となるオープンソースだ。
しかしその後、OpenAIはインスタント・チェックアウトを段階的に廃止し、ショッピング分野の野望から一部後退している。代わって、購入手続きはChatGPTに接続されたサードパーティのアプリ内で行われることになった。カジウケナス氏の目には、OpenAIの撤退によって、UCPが小売業者にとって、もっとも現実的な連携基準になったと映っている。
独自のAIエコシステムと外部への壁
Amazonは先週まで、UCPのようなオープンなエージェント・コマース規格への支持を公言していなかった。しかしギットハブ(GitHub)のプロフィールによれば、同社の技術委員会代表であるグレッグ・スミス氏は、2月下旬からドキュメントの修正提案やレビューを通じてプロジェクトに貢献していたようだ。
これまでAmazonは、もっとも自社ツールの構築に注力してきた。3月には、ほかの小売業者から商品を見つけて購入できるAIプログラム「ショップ・ダイレクト(Shop Direct)」の拡大を発表。さらに4月には、日用品の補充や新商品の追跡、記念日前のギフト提案など、定期的なショッピングタスクを設定できる新機能「スケジュール・アクション(Scheduled Actions)」を発表したばかりだ。
その一方で、Amazonは外部のAIツールが自社のデータにアクセスすることを制限しようとしている。商品リストや広告ビジネスを保護するため、一部のAIボットによるスクレイピング(データの自動収集)をブロックしているとModern Retailは報じている。
11月には、AIエージェントを使ってAmazon上の商品を検索・購入できるブラウザー「コメット(Comet)」を提供しているパープレキシティ(Perplexity)に対し、停止勧告を送った。カジウケナス氏は、AmazonのUCPへの参加は方針転換を意味するものではないと指摘する。むしろ、この規格が広く普及した場合に備えて関与し続けるための動きだという。
「もしこれが業界標準として浮上すれば、Amazonはこのプロトコルからデータを取り込んだり、GeminiなどのAIチャットボットを通じたショッピング体験に参加したりする未来を見据えるだろう」と、同氏は述べている。
敵を近くに置く「軍拡競争」の予兆
Amazon CEOのアンディ・ジャシー氏は10月、将来的に外部のAIエージェントと協力する見とおしを示した。しかし同時に、消費者は小売業者が自ら構築したツールを好むだろうという考えも明確にしている。同氏は以前、多くのAIエージェントはパーソナライズ性に欠け、不正確な価格や配送予定を提示することが多いと語っていた。
それ以来、AmazonはOpenAIとの距離を縮めている。11月、OpenAIはAmazon Web サービスと380億ドル(約5兆7,000億円)の契約を締結。2月下旬、AmazonはOpenAIに500億ドル(約7兆5,000億円)を投資すると発表した。さらに両社は、Amazonのエンジニアチームが消費者向け製品をサポートするためのカスタムモデルを共同構築することでも合意している。
さらに先週、AmazonはAIスタートアップのアンソロピック(Anthropic)に対し、すでに行った80億ドル(約1兆2,000億円)の投資に加え、最大250億ドル(約3兆7,500億円)を追加投資すると発表した。eマーケター(eMarketer)の小売アナリストであるスカイ・カナヴェス氏は、「Amazonは、AIエコシステムのあらゆる主要プレーヤーとの提携にますます意欲的になっているようだ」と分析する。
その提携意欲は、GoogleのUCPにも及んでいる。フォレスター(Forrester)のプリンシパル・アナリスト、スチャリタ・コダリ氏は、「これは『友を近くに置け、敵はもっと近くに置け』という格言を具現化したものだ」と述べる。
Googleはショッピング検索の起点となることが多いが、実際に購入を完結させる目的地になることには苦戦しており、Amazonのような競合にその座を奪われがちだ。Googleは以前にも埋め込み型の決済ツールをテストしたが、最終的には断念した。独自の「Buy on Google」機能も2023年に終了している。
「Amazonにとって、ショッピング・ディスカバリー・ファネルの上流にいるもうひとつの主要プレーヤーの動向を把握できることは有益だ」とコダリ氏はいう。「両社ともより多くのデータを所有したいと考えており、そこは永遠の競合分野だ。しかし、この取り組みは業界を構築するかたちでの『協力』の機会を与えてくれる」。
ただし、その協力関係は一時的なものかもしれない。エージェンティック・コマースへの期待は高いが、消費者がショッピングにAIツールを取り入れるか、どのプラットフォームが勝者になるかは未知数だ。
コダリ氏はこう締めくくった。「もし『エージェンティック・コマース』が本当に軌道に乗れば、提携が長く続くとは思えない。そのときは、より激しい競争にもなりかねない」。
[原文:Marketplace Briefing: Amazon joins Google-backed shopping effort, suggesting a shift in AI strategy]
Allison Smith(翻訳・編集:杉本結美)