NASAの次世代火星ヘリ用ローターがマッハ1の突破に成功 将来の火星探査を変え得る成果

万が一の事態に備えて金属板で覆われ、厳重に密閉されたチャンバー内で、目にもとまらぬ速さで回転し始めるローターブレード。NASA(アメリカ航空宇宙局)のジェット推進研究所(JPL)が公開したこちらの動画には、次世代の火星探査の鍵を握る重要なテストの様子が収められています。

【▲ 次世代火星ヘリコプター用ローターブレードのテスト実施を伝えるJPLの動画(英語)(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

JPLによると、2026年3月に火星の環境を再現して実施されたテストにおいて、次世代火星ヘリコプターに向けて開発中のローターブレードがマッハ1(音速)の壁を突破することに成功しました。この成果は、火星の空を飛ぶ航空機に、より重い科学機器を搭載する道を拓くものとなります。

火星の過酷な大気で「音速の壁」に挑む

地球上において、ヘリコプターがより大きな推力(機体を押し進める力)を得るためには、ローターをより速く回転させるか、その直径をより大きくするのが基本です。しかし、火星で航空機を飛ばすエンジニアたちは、地球よりもはるかに大胆なアプローチをとる必要がありました。

NASAによれば、火星の大気は地球のわずか1%程度の密度しかありません。この極めて薄い大気の中で機体を持ち上げる「揚力」を生み出すには、ローターの先端速度を音速近くまで押し上げる必要があります。

JPLのローターテスト責任者を務めるJaakko Karras氏によると、2021年4月に初めて地球以外の天体で動力飛行を行った航空機となった火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」では、音速を超える時に生じる予測不可能な物理現象を避けるため、向かい風や突風を受けてもローター先端が音速を超えないように、無風時における先端速度がマッハ0.7になるように制限されていました。

ですが、Ingenuityに続く次世代の火星ヘリコプターでは、さらなるパフォーマンスを引き出す必要があります。そのためには、ローターが安全に音速を超えられることを証明する必要があったのです。

ちなみに、地球の海面付近での音速は時速約1223kmですが、火星の大気は低温で二酸化炭素を多く含むため、時速約869kmとかなり遅くなります。

ローター先端がマッハ1.08に到達 揚力は30%アップJPL(ジェット推進研究所)による次世代火星ヘリコプター用ローターブレードのテスト中の様子。動画から引用(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ JPL(ジェット推進研究所)による次世代火星ヘリコプター用ローターブレードのテスト中の様子。動画から引用(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

限界を突破するためのテストは、JPLの巨大な真空チャンバー「25フィート宇宙シミュレーター」で行われました。

テストでは、チャンバー内の空気を抜き、火星の薄い大気を再現する量の二酸化炭素を満たすことで、本番の探査さながらの環境を構築。また、超音速の回転でブレードが砕け散るような万が一の事態に備えて、壁の一部を金属板で補強したうえで実験が進められました。

その結果、ローターの先端速度は最高でマッハ1.08に到達することに成功しました。NASAによれば、この成果によって、生み出される揚力が30%向上することが確認されたといいます。

科学観測を担う次世代機「SkyFall」の未来へ

今回実証された揚力の大幅な向上は、ヘリコプターを用いた火星探査のあり方を大きく変える可能性を秘めています。揚力が増えれば、それだけ重いペイロード(搭載物)を運べるようになりますから、これまでは重量の制約で搭載できなかった高度な科学センサーや、1回で飛行可能な時間を延長するための大型バッテリーなどを積載できるようになるのです。

テストチームのメンバーであるNASAエイムズ研究センターのShannah Withrow-Maser氏は、「マッハ1.05に達すれば幸運だと思っていましたが、マッハ1.08に到達しました。まだデータを解析中ですが、さらに推力を引き出せる可能性もあります」と、次世代機への強い期待を寄せています。

これらのテスト結果は、NASAが2028年12月に打ち上げを計画している「SkyFall(スカイフォール)」プロジェクトの設計に直接活用されます。SkyFallでは、Ingenuityと同じローターブレード2枚の次世代火星ヘリコプター3機が火星に運ばれる予定です。火星の空を新たなヘリコプターが飛行し、科学データを収集する日が、着実に近づいています。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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