アンスロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は昨年12月、オープン(Open)AIを率いるサム・アルトマン氏を念頭に、計算資源の確保を目指して巨額投資を急ぐ姿勢に懐疑的な見解を示しました。
「なかには、YOLO(You Only Live Once、人生は一度きり)とばかりに過剰なリスクを取って賭けに出る輩(やから)もいるから厄介です」
ところが、そのアモデイ氏がいまやアルトマン氏と同じ戦略を採用するに至っています。
なぜこんなことに?
答えは単純で、AI需要が計算資源を大幅に上回っているからです。アンスロピックはここ数カ月、計算能力の不足に由来する一時的なサービス障害や利用制限を繰り返し発動せざるを得ない状況に苦しみ、開発者からの不満の声に直面していました。
アモデイ氏は開発者カンファレンスの冒頭でこう語っています。
「計算資源の確保に苦労してきました。手当てに時間がかかる場合もあり、申し訳なく思っています。できるだけ多くの計算資源を確保できるよう動き続けます」
スペースXからの計算資源確保を発表してから間もなく、アンスロピックはそれまで実施していたいくつかのレート制限を緩和しました。
特にコーディングツール「Claude Code」の利用制限緩和には大きなインパクトがありました。早い段階で計算資源を確保したことで安定運用を実現しているオープンAIの競合ツール「Codex」に乗り換える動きが開発者の間で起きていたからです。
米テネシー州メンフィスで稼働する巨大データセンター「Colossus(コロッサス)」の外観。REUTERS/Karen Pulfer Focht
カンファレンスでは終始このテーマが話題に上がりました。スタートアップ、開発者、大手テック企業……誰もがより多くの計算能力を必要としているのです。
あるスタートアップのCEOから聞いた話では、グーグル(Google)の経営幹部に近ごろ直接電話して、Geminiモデルのレート制限(割り当て)の上限を引き上げてもらえないか頼んだとのこと。
また、会場で出くわした人気コーディングツール「Cursor」開発元エニスフィア(Anysphere)の幹部は、4月にスペースXと合意した計算資源をめぐる契約が無事に動き出すのを祈るような気持ちで待っていると、その心中を吐露しました。
ある顧客から別の顧客へとデータセンター容量の割り当て先を切り替えるのは、ほとんどがエヌビディア(Nvidia)製GPUを利用している現時点ではさほど難しいことではなく、実際、アンスロピックは5月中にもスペースXの計算資源にアクセスできるようになるようです。
なお、私がアンスロピックの上級幹部から直接(非公式の見解として)聞いたところでは、同社は需要を過小評価していたとのこと。今年に入って想定をはるかに上回るペースで使用量が拡大し、対応に追われたとその幹部は語りました。

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もちろん、アモデイ氏がカンファレンスの対談で口にした、第1四半期の売上高が前年同期比80倍増という急激な成長は嬉しい悲鳴にありません(当人は10倍増程度がちょうど良いと冗談めかして語っていましたが)。
このペースをもう1年維持できれば、同社は世界最大規模の売上高を誇る巨大企業の一角に割り込むことになるでしょう。
一緒にカンファレンスに参加したカウンシル記者も、会場で取材していて歴史的な急成長の空気を端々から感じ取ったようでした。
「収益の伸びだけでなく、製品を生み出すペースも尋常ではありません。数週間前にアンスロピックに入社したばかりという従業員から開発中の製品のデモを見せてもらったのですが、驚愕と言うほかありません。他に話した従業員たちも『ペースについていくだけで精一杯』と口を揃えていて、非常に印象的でした」

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今週の「勝ち組」と「負け組」
データドッグ(Datadog)の年初来の株価推移。Markets Insider
📈勝ち組:サーバー監視・分析サービスのデータドッグ(Datadog)は典型的なソフトウェア企業とは一線を画する存在なのかもしれません。
AIシステムやAIエージェントを対象にオブザーバビリティ(ログやトレース、メトリクスなどのデータを活用して)内部の挙動を監視する能力)を提供する統合プラットフォームへの需要が好感され、5月7日以降に株価が急騰。年初来46%の上昇を記録しています。
アーム・ホールディングス(Arm Holdings)の年初来の株価推移。Markets Insider
📉負け組:オーケストレーション用途のCPU(中央演算処理装置)への旺盛な需要を追い風として年初来90%超の株価上昇を記録している半導体設計大手アーム・ホールディングス(Arm Holdings)。
5月6日発表の第4四半期(1〜3月)決算は売上高・利益ともに市場予想を上回ったにもかかわらず、サプライチェーン能力の確保などボトルネックの存在が足かせとなって、株価が10%下落しました。
※本記事はBusiness Insiderが毎日お届けする有料会員向けニュースレター「Cutting Edge(カッティングエッジ)」からの一部転載です。