もっとも、AnthropicのClaudeをはじめ、多くのAIモデルはすでに人間を上回るコーディング能力を備えるようになった。このことから、AIがNVIDIAのソフトウェア面での優位性を切り崩すようになるまで、そう時間はかからないとアンデレは見ている。
「NVIDIAの優位性はチップのプログラムのしやすさにあります」とアンデレは語る。具体的には、NVIDIAが提供しているハードウェア向けにコードを最適化しやすくするライブラリやソフトウェアツールのことだ。「それが本当に強固な優位性なのか、改めて考える時期にきていると思います」
チップ設計の自動化
AIは異なるチップ向けのコードの最適化を容易にするだけでなく、チップそのものの設計も容易にする可能性がある。グーグルの元開発者であるアザリア・ミルホセイニとアンナ・ゴールディが創業したRicursive Intelligenceは、AIを用いた新たなチップの設計手法を開発している。この技術が普及すれば、より多くの企業がチップの設計に乗り出し、自社のソフトウェアをより効率的に動かせる独自設計のチップを開発するようになる可能性がある。
「わたしたちは、チップの設計における最も時間のかかる工程、つまり物理的な設計とその設計の検証工程に取り組んでいます」と、スタンフォード大学の助教でもあるミルホセイニは話す。
チップ設計は極めて重要であると同時に、非常に難しい作業でもある。チップの開発者は、膨大な数の部品をチップのどこに配置すれば、それぞれの機能を最適化できるかを見極めなければならない。さらに、チップの設計ができあがってから製造を担うファウンドリーへ送る前に、その性能を慎重に試験し、検証を繰り返す必要がある。
NVIDIAの設計は最新のAIには不可欠である。新世代のチップが登場するたびに、企業は大規模なデータセンター内で数百から数千のプロセッサーを連携させ、より強力なAIモデルを訓練できるようになるのだ。
ミルホセイニとゴールディはグーグル在籍時に、AIを使ってチップの主要部品の配置を最適化する手法を編み出した。この手法はグーグルのプロセッサーの設計方法を大きく変え、現在ではさまざまなチップの構成要素の配置を決めるための技術として、業界全体で広く活用されている。
Ricursive Intelligenceはさらに一歩進み、チップの設計工程に大規模言語モデル(LLM)を統合し、より多くの工程を自動化することを目指している。開発者が自然言語で変更内容を指示したり、チップについて質問したりできるようにすることが目標だ。AIに指示するだけでアプリを開発できるバイブコーディングのように、将来的にはチップも指示だけで設計できるようになる可能性がある。
Ricursive Intelligenceの技術はまだ開発段階にあるが、すでにチップの設計工程のより多くの領域を最適化できることを示していると、ミルホセイニは話す。
こうしたかたちでチップの設計を自動化できる可能性に、多くの投資家が強い関心を寄せている。Ricursive Intelligenceはわずか数カ月で3億3500万ドルを調達し、企業評価額は40億ドルに達した。
ゴールディは、将来的にはAIがチップとアルゴリズムの両方を並行して設計し、性能を高めていくことが可能になると考えている。AIが自らのチップとコードを調整することで、再帰的なかたちで進化する可能性があるということだ。「より多くの計算資源を投入すれば、より速く、より優れたチップを設計できるようになる段階に進めます。チップの設計にも、いわばスケーリング則のようなものが生まれつつあるのです」と語る。