
2023年6月の発売以来、シーズンや大型拡張を通じてメフィストやリリス、ホラドリムを巡る壮大な“憎悪の時代”サーガを描いてきた「ディアブロ IV」ですが、いよいよ明日、このサーガに終止符を打つ最新大型拡張パック「憎悪の帝王」が遂に発売を迎えます。
今回、「憎悪の帝王」の発売に先駆けて、製品版に近いレビュービルドの提供を受け、一足先に“憎悪の時代”サーガの衝撃的な結末を見届け、最新のエンドコンテンツを体験することができました。
「憎悪の帝王」については、ゲームプレイ関連の新要素や刷新、改善、“憎悪の時代”サーガを終えるキャンペーンのストーリー、シリーズ史上最も美しい地域であるスコヴォスの見事なロケーションに到るまで、注目すべき新要素や変更点が余りに巨大すぎるため、先に全体的な評価をまとめておくと、「憎悪の帝王」は“ディアブロ IV”本編と数々のシーズン、“憎悪の器”拡張を通じて重ねてきた進化や基本的な方向性をしっかりと維持しつつ、体験そのものを大きく進化させるシリーズ史上最高品質の拡張パックだと言えます。
近年再び勃興した“Diablo-like”なアクションRPG分野の黄金時代において、主要な(D2RやPoE、PoE2、Titan Quest II、Last Epochといった)人気タイトルがしのぎを削り合いながら、それぞれに独自の進化や拡張、改善を重ねていくなかで、昨今はそれぞれの特色や魅力、方向性の違いがより顕著になりつつあり、「ディアブロ IV」もまた、「憎悪の帝王」を以て自身のスタイルや独自性をより堅固に進化させる、最新の完成形を提示しています。
差別化が進む近年の“Diablo-like”分野における「ディアブロ IV」の大きな特徴は、AAA級のシネマティックなカットシーンや演出を含むリッチな物語体験に集中できるストーリーキャンペーンと、日々の爽快かつ良い意味で即物的なゲームプレイループを巧妙に分離することで、従来の“Diablo-like”が二律背反的に持ち合わせていた本格的なストーリー/ドラマとゲームプレイの相性の悪さを革新的に解消した点にあると言えます。
これにより、「ディアブロ IV」はダークなサーガを段階的に進めつつ、ストーリーをより長大で重厚に、一方シーズンを含むデイリーなゲームプレイ側では、よりカジュアルで手軽に快感が得られる、ハイペースなマイクロ報酬ベースの体験を強化し、これを極めて巧みに1つの作品へと統合してきたわけです。とりわけ「憎悪の帝王」は、この二極化をさらに押し進めているのですが、ことレビューにおいては、この両者が本質的に大きく異なる体験であることを踏まえ、評価軸を分けて考える必要があると感じています。
筆者としては、デイリーなゲームプレイについては、文句なしの満点。一方で、壮大な“憎悪の時代”サーガに終止符を打つキャンペーンのストーリーについては、こちらも実に素晴らしい仕上りであり、非常に野心的な出来であることを前置きした上で、僅かながら言いたいこともあるという心境です。
という事で、まずはゲームプレイについてざっとインプレッションをご紹介した後、“憎悪の時代”サーガを締めくくる「憎悪の帝王」拡張のストーリーについて言及したいと思います。
「憎悪の帝王」拡張のゲームプレイについて
“憎悪の帝王”のローンチトレーラー
前述の通り、「憎悪の帝王」拡張には大量の新コンテンツや刷新が含まれており、個々のボリュームがかなり大きく、ゲームプレイへの影響が広範囲に及ぶため、まずは全体像を整理するために、拡張購入者が利用可能となるコンテンツと、同時配信となる大型無料アップデートにて刷新される要素を簡単にまとめておきましょう。
■ 「憎悪の帝王」拡張の主なコンテンツ
メフィストに立ち向かう新たなストーリーキャンペーン
新キャンペーンの舞台となる新エリア“スコヴォス”
2種の新クラス“パラディン”(先行解禁済み)と“ウォーロック”
全く新しい強化システムとして復活を果たす“タリスマン”
同じく再び復活を果たす“ホラドリムのキューブ”
エンドゲームコンテンツの進行を刷新・強化する新システム“作戦計画”
新たに登場する超レアイベント“反響の憎悪”
新アクティビティ“釣り”
■ 無料コンテンツアップデートの主な新要素
全8クラスを対象とするスキルツリーシステムの刷新
トーメントティアの上昇(最大12)
レベル上限の引き上げ(最大70)
マップのオーバーレイ機能
戦利品フィルター機能
個々の要素の具体的なディテールについては、国内公式サイトにとても分かりやすいまとめが用意されているため、そちらをご確認頂くとして、幾つかの見どころと興味深い項目を取り上げて簡単なインプレッションをご紹介しましょう。
“ウォーロック”のゲームプレイトレーラー、D2Rのウォーロックとは全く異なるスタイルの戦闘が楽しめる

なんと“釣り”が登場。スコヴォスの水辺だけでなく、驚くような場所でも釣りが楽しめる
■ エンドゲームの新たなゲームチェンジャー「ホラドリムのキューブ」

「憎悪の帝王」以降のエンドゲームにおいて、最も大きな変化の1つが久しぶりに復活を果たす「ホラドリムのキューブ」でしょう。前作のカナイのキューブよりも、むしろD2のキューブに近いコンセプトのクラフトシステムで、様々なレシピを通じて、特性の追加や除去、リロール、アイテムのアップグレード、装備の作成などが可能になります。
これは、エンドゲームにおける装備品の入手方法を抜本的に変化させる仕組みで、概ねドロップ頼み(+焼戻/名工品/エンチャント)だったこれまでの装備強化を大きく刷新し、第一線の強力な装備を自分の手で文字通り“クラフト”できるというもの。
「ホラドリムのキューブ」と併せて導入されるアイテムシステムの新たな仕様として、“祖霊”級のコモン(白)とマジック(青)、レア(黄)装備に加え、“大いなる特性”(GA)付きのマジックとレアが実装され、キューブでGA付きのマジックやレアに目当てのAffixを付与していくことで、理想的な構成の祖霊レジェンダリーを手軽に作ることが可能です。
さらに、コモン品を同カテゴリのユニーク品に強化するレシピも存在しており、“祖霊”のコモンであれば、“祖霊”のユニークが出来上がる可能性が高いため(※ これに確率が存在するのか詳細は確認できず。ただ筆者が数回試した際には、祖霊のコモンはもれなく祖霊のユニークに変化していました)、特定のユニークを狙って入手することが遥かに容易になります。(例:コモン長棍棒を強化した場合、入手できるのはケペレキかセパゾン、戦司教杖のどれかですが、コモングレイブなら“ウーシー ナク パ”確定です)
つまり、従来のエンドゲームでは見向きもしなかった低級装備に新たな役割が生まれ、素材として活用しながら、どんどん装備品をクラフトしていくような、装備品の入手手段に全く新しいゲームプレイループが加わることで、本作の装備・アイテムエコシステムを根本から刷新することに成功しているわけです。
「ホラドリムのキューブ」には、このループをさらに促進させる最終的な装備強化レシピ“聖別”が存在しており、シーズン11“神威なる調停者”の聖別システムがブラッシュアップされ、待望の復活を遂げています。最新の聖別は、キューブのクラフトと実に相性が良く、クラフトによる装備品の回転率が上がっているため、相対的にシーズン11当時よりも聖別の利用頻度が高く、装備クラフトの中毒性を高める新要素になりそうです。
■ トーメントティアの拡張がもたらす新しいエンドゲーム環境
スキルツリーの刷新に伴い、ビルドの多様性が拡張され、“ホラドリムのキューブ”と“タリスマン”の復活によって、装備やビルドの強化に様々なアプローチとソースを導入することで、「憎悪の帝王」以降のプレイアブルキャラクターはより強力な存在に進化できるわけですが、段階的にパワーのインフレを進めてきた近年の「ディアブロ IV」は、“強くなったキャラクターで何ができるのか?”という極めて深刻な問題に直面していました。
端的に言えば、一定の強さに達してしまうと、奈落と塔を追求する以外にやることがないという状況に陥っていたわけです。
この問題を遂に大きく解消するのが、最新のコンテンツアップデート(v3.0.0)によって最大“12”まで引き上げられるトーメントティアであり、この拡張により、ようやく奈落と塔以外のコンテンツを極限まで強化したキャラクターで楽しむことができるようになります。
これまで、最大“4”だったトーメントが、一気に3倍の“12”まで拡張されるとなると、ゲームバランスに極端な変化やインフレが生じるのではないかと心配するファンも少なくないと思いますが、実際に最新のエンドゲームをプレイした印象としては、既存の難易度を大きく増加させるというよりも、むしろこれまでのエンドゲームプレイヤーにコンテンツ側がようやく追いついたという方が近いように感じました。
実際にトーメントの解放条件は、奈落のティアとリンクしていることから(例:T10の解放は奈落100ティア、T12なら奈落120)、ある意味で高ティアのトーメントは部分的に実装済みであり(シーズン12の血染めもその一つでしょう)、熱心なシーズンのプレイヤーは既に高ティアのトーメントを体験済みとも言えるわけです。
つまり、強さを極めたキャラクターで暴れ回ることができるコンテンツの選択肢を大幅に増やすのが、今回のトーメント拡張であり、Diablo-likeにおいて“やるべき事が沢山ある”というのは、デイリーなプレイをシンプルかつ直接的に拡充する、何よりも強力な改善です。
この喜ばしい拡張をさらに充実させるのが、エンドゲームの新コンテンツ“作戦計画”であり、この新要素は強力なプレイヤーが力を振るうためのエンドゲーム環境に様々なバリエーションとプログレッションをもたらし、プレイヤー主導の選択肢のさらに増やしてくれます。
「憎悪の帝王」以降のエンドゲーム環境には、ビルドの多様性がさらに拡がり、実用的なアイテムの獲得先が格段に増え、プレイヤーの選択肢と活躍の場が増した世界が待ち受けているわけですが、これまで加算的にインフレしてきたバランスについてはどうでしょうか。
■ 単純なインフレではない、エンドゲーム全体の最適化とバランスの再構築

コンテンツの量や選択肢を単純に増やしたところで、全体のバランスが悪ければ何の意味もありませんが、大規模拡張パックによる広範囲な刷新は、前述したインフレを適切に仕切り直すまたとない機会でもあり、Blizzardは今回の拡張とアップデートを通じて、全体的なバランスの再構築を見事に成し遂げています。
この再構築は、文字通りゲーム全体の細かな見直しから成り立っていて、実際にプレイしてみると、一部定番化していた化身がスキルツリーに組み込まれたていたり、支配的だった人気ルーンや一部焼戻の削除、数値周りの細かな調整を通じて、プレイヤーの様々な選択がエンドゲームで十分な競争力を維持できるよう細やかな配慮を施した形跡が各所に見られます。
ビルド構築に関する具体的な詳細はさておき、実際のプレイ感は極端なインフレを感じさせずに、自分の力が段階的に強くなっていくような感覚がはっきりと得られる良好な調整だと強く感じられました。
このプレイ感について、もう少し具体的なインプレションをご紹介するために、筆者のプレイ状況を簡単にまとめておくと、最近は幾分かペースが落ちてはきたものの、一応シーズンランクは毎回最後までクリア済み。1つ2つ好みの神秘ユニークを手に入れ、パラゴン220あたりで概ね満足してプレイを終えることが多い、現役としては中ランクあたりのプレイヤーと言えるでしょうか。
ただ、シーズン12“血宴殺戮”はとても楽しく(※ 正しくは、血染めのねぐらと肉屋の血染めギャンブルが余りに美味すぎて)、うっかり3キャラを育てるほど熱中してしまい、「憎悪の帝王」を始める前日までプレイしていたため、かなり具体的にエンドゲームのプレイ感を比較することができました。
今回の「憎悪の帝王」先行プレイでは、一通りの装備やリソースが揃ったレベル70/パラゴン200のキャラクターで自由にプレイする機会が得られたため、前日までプレイしていたビルドと装備を可能な限り再現して最新のエンドゲームを試してみたところ、与/被ダメージにかなり大きな調整が加えられていて、高レベルのプレイヤーと高トーメントでもダメージが劇的に増加するわけではない、むしろやや抑えめのバランスに落ち着いていることが分かりました。
簡単な目安として現行の“血宴殺戮”シーズンを例にとると、T4入りの条件となるT3血染めブッチャーを倒すためには(DPSだけでなく一定の生存力が必要となることから)概ね9万前後の強靭性が必要でしたが、細かな違いこそあるものの、「憎悪の帝王」のエンドゲームで現行キャラの構成を再現したところ、特に強化を施していない状態で武器ダメージと強靭性が何れも数倍に跳ね上がった一方、与ダメージそのものは前シーズンよりも低いという印象的な結果に。
プレビュー期間中は、最終的にトーメント10まで到達し、一通りのコンテンツをプレイしてみましたが、シーズン12のT4でピーク150億程度与えていたダメージが、最新のT10では20~30億程度に落ち着き、一方で強靭性が一時的に(戦闘中のバフ等で)100万を超えるようなシチュエーションが見られるなど、単なるDPS一辺倒ではない新たな攻守のバランスに意義ある変化がはっきりと感じられ、シーズン運用を通じてますます顕著となっていたインフレを上手く緩和・仕切り直したと感じられました。
加えて、T10で時間切れとなったキャラクターには、さらなる強化に必要な手段とアプローチ、強化方法が数多く残されていて、従来のシーズンでは(慣れもあって半ばルーチン化し)ややリニアな流れになっていたエンドゲームの進行が、以前とは比べものにならない規模の自由と強化の道筋で満たされていて、とにかく早くあれもこれも試したいという気持ちで一杯だと言わざるを得ません。

なお、先ほどご紹介した奈落の難易度と既存ティアの関係から、これまでのエンドゲームはやり込むほど単調になりがちでしたが、プレイヤーが自ら複数のアクティビティを選択しながら進行を決める新要素“作戦計画”は、効率を重視して一つのコンテンツに集中しがちだったゲームプレイのバリエーションを増やす役目も果たしており、ナイトメア・ダンジョンやヘルタイド、地下都市、獄炎軍団、奈落、ねぐらのボスといった複数のアクティビティで構成される1まとまりの計画が早ければ30分程度で楽しめる(しかも作戦間の移動さえ不要な)手軽さと美味しい報酬、既存アクティビティの体験を拡張・変化させる新プログレッションもあいまって、より変化に満ちたゲームプレイと心地よい効率化を両立しているのも嬉しいところ。
当サイトでは、“Diablo-like”の根源的な楽しさがスロットマシンのそれであるというDavid Brevik氏のデザインコンセプトを度々ご紹介していますが、“Diablo-like”の宗家である「ディアブロ IV」は、まさしくこの哲学を最も体現する最新世代の“Diablo-like”であり、ジャンル特有の快楽がより手軽で自由に、ハイテンポで味わえる即物的な面白さ(つまり、目新しさが面白い、強いから面白い、報酬が美味しいから面白いというのは、単純ながら極めて強力な動機付けになるわけです)をさらに研ぎ澄ませた「憎悪の帝王」のアプローチは、“Diablo-like”ジャンルにおける圧倒的な正攻法として、1つの完成形に達したと確信しています。
この傾向は、「ディアブロ IV」がリリースされた当初のシーズン/パラゴンの進行と、直近のシーズンの進行を比べてみても明らかで、今や僅か4~5日程度でパラゴン200を簡単に超えられるようなハイスピード化は、実のところジャンル的な必然であり、この傾向は「憎悪の帝王」で(拡張により全体的なボリュームがかなり増すため、プレイ時間そのものは長くなりそうですが)より相対的に強化されるのではないでしょうか。
では、この“Diablo-like”的体験とは対極に位置する、最新作の重厚なストーリーキャンペーンはどんな変化を果たしているでしょうか。
「憎悪の帝王」が描く“憎悪の時代”サーガの驚くべきフィナーレ
圧巻のBlizzardクオリティで描かれる“憎悪の帝王”のオープニングムービー
最新作のストーリーサーガ“憎悪の時代”について、筆者は特に「ディアブロ IV」本編に描かれたテーマとストーリー、統一感のあるトーンを極めて高く評価していて、Blizzard Entertainmentが非常に高い挑戦を掲げ、従来のシリーズタイトルとは全く異なる視点とアプローチで新時代の“Diablo”像を作り上げたと考えています。
「憎悪の帝王」のストーリーは、これまでに存在した様々な対立構造や布石、謎、主要な登場人物たちの思惑、あるいは奸計について、それぞれを巧みに回収しながら、決定的な結末に向かって進行するため、何を喋ってもネタバレに抵触するプロット駆動的な側面が強く、あまり具体的なことは言えないのですが、とにかくエンターテインメントとして最高に“面白く”、シリーズのロアとストーリーの熱心なファンとしては、(クリフハンガー続きだった過去作の展開を踏まえた上で)初代以来最も驚きの結末を迎えたと断言できます。
ただ、“憎悪の時代”サーガは、「ディアブロ IV」の本編と「憎悪の器」拡張、最新の「憎悪の帝王」でそれぞれトーンやモチーフが微妙に異なっていて、個人的には所謂“面白さ”を低めに抑えたD4本編のストーリーが大のお気に入りでしたが、「憎悪の帝王」のストーリーキャンペーンには、筆者の嗜好を圧倒的Blizzard品質のビジュアルや熱すぎエモ展開、ど派手なプロット、サプライズでねじ伏せる、ある種のブロックバスター的パワーに満ちていて、好みレベルの文句は幾つかあれど、“面白い”と言わざるを得ない、まんまと調伏されたような心境に陥っています。
また、「憎悪の帝王」キャンペーンは、プロット進行だけでなく、人間ドラマも濃密で素晴らしく(文句があるのもここですが)、これまでは壮大なロアを覗き込む、或いは垣間見ながら点と点を繋いでいくような閉合的表現だった過去作のストーリーテリングに対して、「ディアブロ IV」が極めて正攻法の堂々とした物語体験を遂に完遂させたことは、大きな驚きに値すると共に、Blizzardが新しいマイルストーンを築いたとも感じています。
強大な不死たちから、取るに足らない定命の存在まで、様々な立場と対立構造に紐付けられたライトモチーフと旋律が追走しながら協奏し、ときに変奏と変調を重ねながら狂乱と暴力に満ちた歪な凱歌を紡ぐ圧巻の進行と演出、シリーズ史上最も決定的と言える結末は、さしずめ幻想交響曲の“断頭台への行進”と“ワルプルギスの夜の夢”を見ているようであり、ある意味で様式的とさえ言える、まさに“劇”的な物語体験でした。
そして、“ディアブロ IV”のサーガにおいてより顕著となったのが、力を代行する暴力装置としての放浪者、つまりプレイヤーであり、真の勝利をもたらすのが彼ではなく、極めて過酷な状況下で鋼の意思を貫き通したとある人物たち、そして圧政に恐れず立ち向かった一部の人々であることを鑑みると、自分自身は様々な形式で変奏された主題を目撃した、干渉する傍観者であるようにさえ感じます。
Diablo IIとDiablo IIIにおける主人公/プレイヤーは、超越的な神々と悪魔たちが繰り広げる宇宙規模の戦いにおいて、矮小な人間でありながら勝利を主体的に勝ち取る英雄そのものであり(※ 正確を期すとD3の主人公は“人間”という定義において少々別格ですが、主体的に動く英雄には違いありません)、過去作と“ディアブロ IV”のストーリーに関する決定的な違いの1つは、この視点と人々の(ときに悪魔や神たち自身も含む)ドラマにあると言えるでしょう。この観点から見ても、「憎悪の帝王」はBlizzardが最新作で多層的に描いてきた人々の物語の素晴らしい集大成に仕上がっていると言えます。
しかし、翻ってこの劇的な変化と奥深いドラマを振り返ると、これまでの絶対的な超越性が薄まり、ある種の理解が及ぶ、ともすれば対話さえ成り立つような実存的存在に見えてきた(まるでギリシャ神話の神々のように人間くさい)不死たちとは一体何なのか、もちろん現時点で何のほころびも見えていないことを前置きした上で、色々な疑問が頭をもたげてきます。
それは、相対的に“Diablo”世界における定命の人間とは何なのか、という疑問と対になる問いでもあり、人間は本当に(かつてウルディシアンが持っていたような)ネファレムとしての力を失ってしまったのか、このサーガが力強く描いてきた人々を見るだに、あの不死たちは実のところ定命の存在を恐れているのではないか、神と悪魔、両方の血を引く人類は(歴代主人公に象徴されるような“力”そのものではない、別の面で)何らかの新しい進化を遂げつつあるのではないかとさえ考えてしまいます。
ある種の進化を体現する存在がホラドリムの面々や勇敢な一部の一般人だと仮定すると、不死を脅かしているのは、決してネファレム的な“力”だけではないと感じます。まさに、これを象徴するようなシーンとして、今作には不死の存在が余りに矮小で“これまで気にしてすらいなかった”人間を、知覚するまさにその瞬間が描かれているばかりか、その人物はアキレウスを射たパリス、或いはホークウィンド卿を屠ったディンクのように、極々小さな、しかし決定的な致命傷に繋がるような鋭い一矢を担うことになるのです。
加えて、今回のサーガ最終章では、過去作には余り見られなかった使われ方の言葉がひとつ印象深く心に残りました。
これまでの章では、信仰を伴う預言や神託、啓示といった“言葉”を通じて、不明瞭な運命論的解釈や自由意志の異なる側面が描かれていましたが、今回の「憎悪の帝王」では顕現した何かと、ある強大な力を持つ存在が「真実」という言葉を印象的に使っています。
誰がどんな意味でこの(もちろん括弧付きの)“真実”を用い、そこにどんな意味が込められているのか、権力者が使う言葉の解釈はプレイした方にまかせるとして、本作で語られる“真実”と最後に描かれる決定的な“出来事”は、作品世界そのもののパワーバランスやテーマに何らかの奇妙な変化が生じていることを示しているようにも感じられます。
ネイレルの短編映像、ここでも“真実”という言葉が印象的に使われている
かように筆者が大興奮している通り、「憎悪の帝王」のストーリーキャンペーンはとても“面白かった”のですが、幾つかどうしても無視できない、しかし評価に影響するほどではない“好み”レベルの文句があるので、参考までにご紹介させてください。
それは、とある魅力的な複数の人物たちについて、ゲーム内で(筆者が望むほど)十分な掘り下げが行われていないことにあります。これが誰でどんな扱いを指しているのか、大きなネタバレに抵触するため、具体的な言及はできませんが、幾つかの点について、もう少しだけ尺を取って、プロセスを肉付けできなかったものかと感じている次第。
今回筆者が「憎悪の帝王」キャンペーンのクリアに要したのは、およそ9時間強で、全く寄り道をせず、サイドクエストもスルーした上で、この規模だったことや、内容の充実ぶりと濃密さを考慮すると、作品全体としては、このボリュームが冗長になりすぎない、ギリギリのラインであることは容易に想像が付きます。
筆者が不足を感じている箇所の大部分については、実際のところ小説「The Lost Horadrim」やコミック「Dawn of Hatred」、短編アニメーションシリーズ「On Nightmare’s Wings」を通じてしっかりと描かれているので、Blizzardが掘り下げを怠っているというわけではないのですが、自身がこれらの作品を通じて味わった面白さを鑑みると、ややあっさりとすまされた本作の描写が非常にもったいないと感じているわけです。
ただ、前述の作品でも掘り下げられていない箇所が2点ほどあり、1つは(推しが雑に扱われて怒っているファンみたいで恐縮ですが)筆者が“憎悪の時代”サーガにおいて最も重要かつ最も大きな役割を担ったと考えている人物の扱いがあんまりじゃないかということ。
もう1つ、サーガの最終章でがらりと印象が変わったように思える、とある存在の背景と変化について、少々唐突さがぬぐえないという部分で、この点については、この存在が夜叉の亜種だと解釈すれば、一見奇妙な愛憎の理不尽さにも深く納得がいくものの(深読みしすぎかもしれません)、やはりもう少し掘り下げて欲しかったところ。
とどのつまり、面白いからもっとやって!という、身も蓋もない文句なのですが、これは「憎悪の帝王」キャンペーンが非常に良く出来ていて、このような思い入れを抱かせるような、力強い作品だったことの裏返しでもあり、極めて贅沢な吐露だと言えるわけです。
つい長くなってしまいましたが、レビューを終える前に、2点ほど書き足りなかったことを簡単に紹介させてください。1つは、キャンペーン中に思いのほか主人公“放浪者”の顔を目にする機会が多いので、プレイアブルキャラクターにこだわりがある方は、外見のカスタマイズをお忘れなくということ。
もう1つ、「憎悪の帝王」の新たな見どころとして、メインストーリーを補完する重要な内容を含む、非常に凝った作りの本格的なサイドクエストが複数用意されているので、こちらも是非プレイしてみてください。
それにつけても、かつてなかった驚くべきことは、このサーガが見事な幕引きを終えたことにより、この先の「ディアブロ IV」が、ひいては「ディアブロ」シリーズがどうなるのか、現時点で全く見えないことでしょう。これから“恐怖”の時代が、あるいは“破壊”の時代が新サーガとして始まるのか、それとも全く別の何かか、そもそも「ディアブロ IV」自体が今後も続くのかどうかさえ判断しかねる、異常な事態を迎えていると言えます。
こういった状況を踏まえると、「憎悪の帝王」ローンチに併せて始まる“審判到来”シーズンの先にどんな展開が待ち受けているのか、もう気になってしょうがないわけですが、2027年は“ディアブロ”誕生30周年、さらに今年はなんと3年ぶりの“BlizzCon”開催年でもあり、“憎悪の時代”サーガ完結を含め、ますます「ディアブロ IV」から目が離せない、新しい1年がここから始まることになりそうです。
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