本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、トレンドマイクロ 代表取締役社長 兼 CEOのEva Chen氏と、Snowflake 社長執行役員の浮田竜路氏の「明言」を紹介する。
「AIがもたらす進化にセキュリティも対応していかなければならない」
(トレンドマイクロ 代表取締役社長 兼 CEOのEva Chen氏)

トレンドマイクロ 代表取締役社長 兼 CEOのEva Chen氏
トレンドマイクロの代表取締役社長 兼 最高経営責任者(CEO)であるEva Chen(エバ・チェン)氏は、同社が先頃開いた事業戦略についての記者説明会で、上記のように述べた。セキュリティソフトベンダーの発言としては当たり前のことのように受け取れるが、およそ40年の歴史がある同社にとっては「新生」とも言える戦略を打ち出した。「AI時代に必要とされるサイバーセキュリティ」をテーマに掲げ、法人と個人のそれぞれに向けてこれまでのソリューションを進化させた形で新ブランドを立ち上げた。上記の発言はそうした動きのベースにある考え方だと受け止めたので、明言として取り上げた。
法人向けの新ブランドは「TrendAI」(トレンドエーアイ)。同社によると「インフラやアプリケーションの保護から、AIシステムが組織全体でどのようにふるまい、接続し、意思決定を行うのか。その管理に至るまで、拡大するアタックサーフェスを映し出す」とのことだ。詳しくは発表資料をご覧いただくとして、ここではChen氏の明言とともに、興味深く感じた発言に注目したい。
興味深く感じた発言では、AIで変わるソフトウェアの本質および進化とサイバーセキュリティについての話がある。以下に紹介しよう。
「ソフトウェアは従来、まずデータを収集(COLLECT)し、それを整理(ORGANIZE)して、さまざまな形で提示(PRESENT)するという一連の作業を行ってきた。しかし、これからのソフトウェアはAIが組み込まれているので、データを収集するだけでなく『独自のデータを作成』し、整理するだけでなく『データに基づく推論』を行い、さらに『その推論の意思決定』もサポートしてくれるようになる」(図1)

(図1)AIによるソフトウェアの本質の変化(出典:トレンドマイクロの会見資料)
Chen氏は図1を示しながら、AIによるソフトウェアの本質の変化についてこう説明した。そして、こうした変化がサイバーセキュリティの観点からどう現れるかについて、AIによる偽情報であるディープフェイクの例を挙げ、「ディープフェイクを検知して排除することをAIによって行う動きが典型的だ」と説いた。
また、同氏はAIによってソフトウェアがどのように進化していくかという点について、図2を示しながら、次のように話した。

(図2)AIによるソフトウェアの進化(出典:トレンドマイクロの会見資料)
「ソフトウェアの作り方において、従来は左側のようにフローチャートを描いてさまざまな判断を経ながら作業を進めていった。今もほとんどのソフトウェアがフローチャートをベースに作られている。しかし、AIが組み込まれたこれからのソフトウェアは、右側に描かれているように複数のエージェントが連携し協力し合いながら、求められた業務に対して自律的に遂行していく形になる。これはすなわち、ソフトウェアの作り方が変わるというか、進化することを意味している。今はまさにその過渡期を迎えている。この進化に対し、当然ながらサイバーセキュリティの在り方も進化していかなければならない」
冒頭で紹介した明言は、この発言の意をくんだものである。
そうしたエージェンティックAI環境でのサイバーセキュリティの在り方において、Chen氏は、何がどこで使われているかを確認する「Visibility(可視性)」、機能や仕組みおよびデータへの影響について理解する「Observability(可観測性)」、状況に応じてリスクを考慮した対応や適応を行う能力である「Actionability(実用性)」といった3つのキーワードを挙げ、「新ブランドはこうした考え方に基づくものだ」と力を込めた。
ディープフェイクの話のように、エージェンティックAI環境におけるサイバーセキュリティはますます「AI対AI」の攻防になっていくだろう。今回のトレンドマイクロの会見で時代の変わり目を強く感じさせられた。
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