科学を変えたAlphaFold、衝撃デビューからの5年と次なるターゲット | WIRED.jp

囲碁ゲームは当時から変わらず実験の場であり、いずれ現実世界の問題に取り組むことになると確信していた技術を開発するためのひとつの手段でした。

わたしの役割は、AIが大きな変革をもたらし得る科学的問題を見極め、それを追求すると同時に、研究を前進させるうえで不可欠な要素の全体像を把握し、そうした大きな課題に取り組むための学際的なチームを編成することでした。

AlphaGoが示したのは、計画と探索を複数のニューラルネットワークと効果的に組み合わせれば、信じられないほど複雑なシステムを扱うことができるということです。タンパク質の折り畳みも、同じ特性を備えていました。決定的な違いは、タンパク質の折り畳み問題を解決すれば、生物学や医学の領域にわたる発見につながり、人々の生活を確実に改善し得るという点でした。

われわれは、「根(ルート)ノード問題」とわたしが呼んでいるものに注目しています。そこにある問題群を解決すれば大きな変革が起こるだろうという点では科学界の見解は一致していますが、従来の方法を用いていては、今後5年から10年のあいだにそこへ到達することは到底できないだろうと考えられている領域です。

知恵の樹を思い浮かべてください──その根にある問題を解決すれば、枝の先にある多くの新たな研究課題も解決できる、というわけです。タンパク質の折り畳みは、まさにそうした問題のひとつでした。

今後を見据えると、カギとなり得る領域が3つあると考えています。第一に、真の意味で研究パートナーとして科学者と共に推論し、協働できる、より強力な言語モデル群を開発すること。第二に、それらのツールを世界中のすべての科学者の手元に届けること。そして第三に、より野心的な目標として、人間の脳全体の正確なシミュレーションを世界に先駆けて構築することです。

ハルシネーションへの懸念

──ハルシネーションについて伺います。あなたはこれまで繰り返し、「ハーネス(手綱)」設計の重要性を強調してこられました。つまり、生成AIには厳密な検証装置を必ず組み込むべきだということです。AlphaFold2からAlphaFold3への移行に伴い、この考え方はどのように進化したのでしょうか? 現在は、元来“想像の域を出ず”ハルシネーションを起こしやすい拡散モデル(diffusion models)を用いているわけですが。

中核となる考え方は変わっていません──われわれはいまも生成AIに厳密な検証装置を組み込んでいます。変わったのは、その理念をより野心的な課題にどのように適用するかという点です。

われわれがアプローチを考えるとき、常に出発点にあるのは課題そのものです。既存の技術に当てはまる課題を探すことはしません。課題を深く理解したうえで、それを解決するためのものを構築します。

AlphaFold3で拡散モデルへ移行したのも、科学的観点から不可欠だったからです。個々のタンパク質の構造だけでなく、タンパク質、DNA、RNA、さらには小分子がどのように相互作用するのかを予測する必要があったのです。

拡散モデルがより生成的であるという点から、ハルシネーションへの懸念が生じるのは当然です。その意味で、検証は極めて重要になります。われわれは信頼度スコアを組み込みました。これは予測の信頼性が低い可能性を示すもので、とりわけ天然変性タンパク質において重要です。

とはいえ、このアプローチの妥当性を本当に証明しているのは、AlphaFoldの予測を研究者たちが5年以上にわたり実験室で繰り返し検証してきたという実績です。実践的に機能しているからこそ、科学者に信頼されているのです。

AIエージェントと人間

──AI co-scientistを発表されましたね。Gemini2.0を基盤に構築されたエージェント型のAIシステムで、仮説を生成し、それについて議論することができます。科学的方法をパッケージ化したもののようにも見えます。研究室の「主任研究員」はAIで、人間はそこで行なわれている実験を検証する技術者にすぎない、という未来へとわたしたちは向かっているのでしょうか?