緊急検証・SaaSの死

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島津 翔=シリコンバレー支局

2026.04.07

出典:日経クロステック、2026年2月5日
 
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業の株価が急落している。震源は米AI(人工知能)開発企業Anthropic(アンソロピック)のサービス「Claude Cowork」向けの新たなプラグインの公開だった。AIが外部サービスを操作できる機能で、SaaSも「AIで代替できる機能」に成り下がると見て、市場が反応した。本当にSaaSはAIに取って代わられるのか。「SaaSの死」を検証する特集の初回は、株価急落を巡る3つの疑問を取り上げる。

疑問1=なぜSaaS企業の株価が急落している?

 株価の軟調が始まったのは、アンソロピックがClaude Coworkを公開した2026年1月12日(米国時間)ごろ。Claude CoworkはAIによるノーコード自動化ツールだ。自然言語で指示すれば、タスクを完了させるための手法をAIが考え、必要に応じて外部のツールも参照しながらパソコン上で作業を自動的に進める。

 例えば、ローカルフォルダ内のファイルを直接操作して写真を整理したり、業務用アプリの「Word」や「Excel」を活用して資料を作成したりできる。「Cowork(協働)」の名の通り、ユーザーの作業を担うサービスといえる。AIによる自動化で、一部のSaaSは不要になりかねないとする懸念が株価を低迷させた。

 決定打となったのは、アンソロピックが1月30日に公開した11種類のプラグインだった。特定の専門業務に最適化されたもので、「営業(Sales)」は見込み客の分析、「マーケティング(Marketing)」はキャンペーンの立案やコピーの生成、「人事(HR)」は履歴書の精査や面接日程の調整といった機能を備える。それぞれ、SaaS大手である米Salesforce(セールスフォース)や米Adobe(アドビ)、米Workday(ワークデイ)の一部のサービスと競合する。

 しかもプラグインの相互連係が可能だ。例えばある製品のキャンペーンを考える場合、「戦略(Strategy)」のプラグインが市場と競合を分析し、「マーケティング」がキャッチコピーを生成した上で、「営業」が顧客となるターゲットの一覧を作成する。

米主要SaaSの株価の推移

米主要SaaSの株価の推移

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 従来、各SaaSに個別にログインして分析していたものが、Coworkだけで完結するようになれば、ユーザーインターフェース(UI)さえ必要なくなる——。市場でこうした見方が広がり、米株式市場でSaaS関連株が2月3日に急落。前日比でセールスフォースの株価は最大11%、ワークデイも同9%それぞれ下げた。米メディアは、2月第1週に世界で約2850億ドル(約45兆円)の株価暴落があったと報じている。

疑問2=2025年の「SaaSの死」と何が違う?

 「SaaSの死」というキーワードの流行は、米Microsoft(マイクロソフト)のサティア・ナデラCEO(最高経営責任者)が2024年12月に米国のポッドキャスト番組で「伝統的なビジネスアプリケーション(=SaaS)は、AIエージェント時代に崩壊(Collapse)する可能性がある」と発言したのがきっかけだ。2025年に入って「SaaSは不要になる」との文脈で、ナデラCEOの同発言がメディアやSNSで広まった。

 しかし、待望されたAIエージェントの実装は難易度が高く、過剰な期待であると指摘する声が相次いだ。米調査会社のIDCは「SaaSは死ぬのではなく、再定義されるだけだ」とのリポートを発表。SNSでは「『SaaSの死』の死(SaaS is dead is dead)」という言葉も飛び交った。ソフトウエア株が一時的に下がる局面もあったものの、過度な心配との評価が定まっていった。

 一方、Claude Coworkに端を発した今回の「SaaSの死」ショックは、2025年とは質が異なる。「2025年は『雰囲気』だったが、今回はアンソロピックが実際に競合となる技術を公開している」。セールスフォース本社に勤務するエンジニアは危機感をにじませる。

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