米国防総省が2月27日にAnthropicを「サプライチェーンリスク」に指定して以降、既存顧客や交渉相手のあいだで契約条件の見直しや交渉撤退の動きが出ているという。3月9日にカリフォルニア州の連邦裁判所に提訴したAnthropicの幹部らが、裁判資料のなかでそう主張している。裁判資料では同社の新たな財務情報も明らかになった。
Anthropicの最高財務責任者(CFO)クリシュナ・ラオは裁判資料で、米国防総省関連事業から今年見込まれている数億ドル(数百億円)規模の売上が、すでに危機に晒されていると明らかにした。さらに政府が、軍との関係の有無にかかわらず企業に対して同社との取引を控えるよう圧力を強めれば、最終的には数十億ドル(数千億円)規模の売上を失う可能性があるという。ラオによると、Anthropicが技術を商用化した2023年以降の累計売上高は50億ドル(約8,000億円)を超えている。
Anthropicの売上は、AIモデル「Claude」が競合を上回る性能を示し、ソフトウェアコード生成などで高い能力を発揮するようになったことで急増した。しかし同社はコンピューティング基盤への巨額投資を続けており、依然として大幅な赤字の状態にある。ラオによると、Anthropicはこれまでにモデルの訓練と運用のために100億ドル(約1.57兆円)以上を投じているという。
Anthropicの最高商務責任者(CCO)ポール・スミスは、ここ数日でパートナー企業から懸念の声が相次いでいると説明した。金融サービス企業の顧客のひとつは、サプライチェーンリスク指定を理由に1,500万ドル規模の契約交渉を一時停止したという。さらに金融サービス大手2社は、いかなる理由でも契約を一方的に解除できる権利を認めない限り、合計8,000万ドル規模の契約を締結しない姿勢を示し、あるスーパーマーケットチェーンも、この指定を理由に商談を取りやめたという。
「いずれの企業の対応も、Anthropicに対する深い不信と、同社との関連をもつことへの懸念が高まっていることを示している」とスミスは記している。
これらの幹部発言は、Anthropicの幹部6人が裁判所に提出した声明にあるものだ。声明は、サプライチェーンリスク指定を巡る訴訟の決着まで、Anthropicが国防総省との取引を継続できるよう求める仮差し止め命令の実現を求めている。
提訴の背景にある政府との対立
Anthropicはトランプ政権を相手取り、ふたつの裁判所で訴訟を起こしている。3月9日にサンフランシスコの連邦地裁に提起された訴訟では、政府が同社の言論の自由を侵害したと主張している。同日、ワシントンD.C.の連邦控訴裁判所にも別の訴訟を起こし、国防総省がAnthropicに対して不当な差別や報復を行なったと訴えている。
Anthropicは、仮差し止めによる救済を求め、早ければ13日にもサンフランシスコで審理を開くよう裁判所に求めている。今回の法廷闘争と売上への影響は、AI技術を大規模な国内監視や自律型致死兵器に利用する可能性を巡り、Anthropicと国防総省のあいだで数週間続いてきた対立に端を発する。Anthropicは、こうした用途を安全に担える段階にはAIはまだ達していないと主張している。一方国防総省は、その判断は国防総省が自ら行なうべきものだと反論している。
法律上、サプライチェーンリスク指定は、国防総省と取引する限られた企業がAnthropicの技術を自社システムに組み込むことを禁じるものだ。しかしピート・ヘグセス国防長官は、この措置をより広い範囲に適用する姿勢を示している。ヘグセスは2月28日、Xへの投稿で「即時発効で、米軍と取引する請負業者、サプライヤー、パートナーはAnthropicといかなる商業活動も行なってはならない」と書いている。
