こちらは、ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(Very Large Telescope、超大型望遠鏡)が観測した、連星系「1RXS J052832.5+283824」(以下「RXJ0528+2838」)とその周囲の様子。
画像の中央左下、紫色の濃い部分にある星がRXJ0528+2838です。おうし座とぎょしゃ座の境界付近、約730光年先にあります。
【▲ ESOのVLT(超大型望遠鏡)が観測した連星系「1RXS J052832.5+283824(RXJ0528+2838)」のバウショック(Credit: ESO/K. Iłkiewicz and S. Scaringi et al.)】
RXJ0528+2838を取り囲んでいるのは、「バウショック(bow shock)」や「弧状衝撃波」と呼ばれるもの。航行する船の船首に生じる波のように、移動する星が周囲の物質と相互作用することで形成される衝撃波面です。
RXJ0528+2838の場合、画像の左下へ向かって移動しているので、その方向にバウショックが形成されています。また、この画像で原子から放出された光の波長に応じて、水素を赤、窒素を緑、酸素を青で示した疑似カラー画像です。
降着円盤がないはずなのに形成されたバウショックの謎
今回、ニコラウス・コペルニクス天文学センターのポスドク研究員Krystian Iłkiewiczさんたち研究チームは、RXJ0528+2838のバウショックに関する研究成果を発表しました。
バウショックはいろいろな星で観測されていますが、RXJ0528+2838で見つかったことに研究者は驚かされたといいます。その理由は、RXJ0528+2838が「激変星」と呼ばれる連星のなかでも、「強磁場激変星」というタイプに分類されていたからです。

【▲ 恒星から流れ出たガスが降着円盤を形成しながら白色矮星へ落下していく様子を描いた想像図。1RXS J052832.5+283824(RXJ0528+2838)が分類されている強磁場激変星は、このような降着円盤をともなわないタイプの連星系だと考えられている(Credit: NASA/CXC/M.Weiss)】
激変星は白色矮星と恒星からなる連星の一種で、明るさが増減する変光現象をともないます。恒星からはガスが流れ出して白色矮星に落下していて、その過程で白色矮星の周囲に降着円盤が形成されると考えられています。
RXJ0528+2838が分類されている強磁場激変星は、激変星のなかでも白色矮星の磁場が強いタイプです。恒星から流れ出たガスは強い磁場の影響によって降着円盤を形成することができず、白色矮星の磁力線に沿って落下していくと考えられています。
降着円盤をともなう激変星では、一部のガスが白色矮星には落下せずにアウトフロー(ガスの流れ)を形成するので、星間ガスとの相互作用でバウショックが形成されることがあります。一方、強磁場激変星では降着円盤が形成されないので、バウショックも形成されないはずだと考えられていました。
それなのに、降着円盤が存在しないはずのRXJ0528+2838でバウショックが見つかったのです。研究チームはバウショックの大きさと形をもとに、RXJ0528+2838の白色矮星が、少なくとも1000年間はアウトフローを放出し続けている可能性を示しました。
IłkiewiczさんはESOのプレスリリースに寄せたコメントで、今回の発見について「私たちがまだ理解していない、円盤がなくても強力なアウトフローを形成できるメカニズムが存在する可能性を示しています」と述べています。
ESOによると、アウトフローのエネルギー源として強力な磁場が関わっている可能性はあるものの、観測データが示す磁場の強さにもとづけば、バウショックを数百年程度しか維持できないはずだといいます。
円盤をともなわない強磁場激変星のアウトフローを理解するためには、さらに多くの連星系を研究しなければなりません。研究チームは、ESOが建設を進めている口径39mの「ELT(Extremely Large Telescope)」の観測で類似の連星系がより多く発見され、エネルギー源の解明につながることに期待を寄せています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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