地球は「水の惑星」と表現されることもありますが、質量全体に対する水の比率は決して高くはありません。

これまでに6000個以上が確認されている太陽系外惑星に目を向けると、その中には表面全体が深い海に覆われている可能性が指摘されているものもあります。

東京大学宇宙線研究所の澤田涼特任研究員(※研究当時は同大学の大学院総合文化研究科)を筆頭とする研究チームは、超新星爆発に由来する宇宙線が地球の水の量を左右したプロセスに関わっていた可能性があるとする研究成果を発表しました。

地球のような「海も陸地もある惑星」は、ひょっとしたらそれほどめずらしくはないのかもしれません。

今回の研究成果をもとに生成AIを使って作成されたイメージ図(Credit: R. Sawada, with Gemini 3 - https://x.com/ryo_sawada/status/1999018456931512681)【▲ 今回の研究成果をもとに生成AIを使って作成されたイメージ図(Credit: R. Sawada, with Gemini 3 – https://x.com/ryo_sawada/status/1999018456931512681)】地球の水の量には「短寿命放射性核種」が影響か

地球の水の量と超新星爆発には、一見するとつながりがないように思えます。鍵を握るのは、初期の太陽系に存在していたとされる短寿命放射性核種(SLR)です。

短寿命放射性核種とは、半減期が比較的短い放射性同位体(ここでは500万年以下)を指す言葉です。形成当時の太陽系における短寿命放射性核種の存在は、隕石の分析を通じて研究されてきました。中でも注目されるのは、アルミニウムの同位体であるアルミニウム26(26Al)です。

初期の太陽系では、若い太陽を取り囲む原始太陽系円盤の中で塵(ダスト)が集積して、惑星の材料となる微惑星が形成されたと考えられています。この時、微惑星には短寿命放射性核種も取り込まれていたはずです。

放射性同位体は崩壊する時に熱を生じます。アルミニウム26などの崩壊熱によって内部から加熱されることで、微惑星からは水などの揮発性物質が失われたことでしょう。結果的に、微惑星が衝突を繰り返して誕生した地球に含まれる水の量も、抑制されることになったのではないか……というわけです。

近距離の超新星爆発では円盤が破壊される可能性も

ここで問題となるのが、短寿命放射性核種の起源です。崩壊熱が地球の水の量を左右したというのであれば、短寿命放射性核種がどうやって原始太陽系円盤にもたらされたのかを解き明かす必要があります。

これまで有力視されていたのは、初期の太陽系の近くで発生した超新星爆発で放出されたものが原始太陽系円盤に供給されたとする説で、研究チームは「注入(injection)モデル」と呼んでいます。

ただ、研究チームによると、注入モデルには問題がありました。さまざまな短寿命放射性核種で推定されている存在量を、矛盾なく説明できなかったのです。

たとえば、アルミニウム26やカルシウム41(41Ca)の存在量に合わせた場合、マンガン53(53Mn)の存在量は推定の100倍になってしまうといいます。マンガン53の存在量に合わせた場合、今度は逆にアルミニウム26などが不足することになります。

そのうえ、十分な量の短寿命放射性核種を供給できるほどの近距離で起こった超新星爆発は、原始太陽系円盤を破壊してしまい、太陽系の形成をさまたげてしまったはずだ、という矛盾も抱えていました。

注入と合成の2段構え「宇宙線浴メカニズム」を提案今回提唱された「宇宙線浴メカニズム」の概念図。短寿命放射性核種は原始太陽系円盤に注入されただけでなく、内部で合成もされたと考えることで、それぞれの核種の推定される存在量を矛盾なく説明できるとされる。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)今回提唱された「宇宙線浴メカニズム」の概念図。短寿命放射性核種は原始太陽系円盤に注入されただけでなく、内部で合成もされたと考えることで、それぞれの核種の推定される存在量を矛盾なく説明できるとされる。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)【▲ 今回提唱された「宇宙線浴メカニズム」の概念図。短寿命放射性核種は原始太陽系円盤に注入されただけでなく、内部で合成もされたと考えることで、それぞれの核種の推定される存在量を矛盾なく説明できるとされる。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)】

当時の短寿命放射性核種の存在量を矛盾なく説明することを目指した研究チームは、超新星爆発の衝撃波に高エネルギーの宇宙線(加速された粒子)が閉じ込められていることに着目。

原始太陽系円盤の短寿命放射性核種は外部から供給されただけでなく、超新星爆発の衝撃波に包まれた円盤の内部で合成も起こった可能性を示す、新たなメカニズムを提案しました。

研究チームが「宇宙線浴(※)」と呼ぶこのメカニズムでは、外部からの注入に加えて円盤内部での合成も起こることで、形成初期の太陽系におけるベリリウム10(10Be)、アルミニウム26、塩素36(36Cl)、カルシウム41、マンガン53、鉄60(60Fe)の存在量を、許容範囲内で説明できるとされています。

超新星爆発が起きた距離は太陽から約1パーセク=約3.26光年と推定され、原始太陽系円盤も破壊されずに済むとしています。

※…論文では「immersion mechanism」と表記、直訳すれば「浸漬メカニズム」。

各モデルにおける短寿命放射性核種の存在量を比較した図。宇宙線浴メカニズムにもとづいたモデル(赤)はグレーで示された許容範囲に収まっている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)各モデルにおける短寿命放射性核種の存在量を比較した図。宇宙線浴メカニズムにもとづいたモデル(赤)はグレーで示された許容範囲に収まっている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)【▲ 各モデルにおける短寿命放射性核種の存在量を比較した図。宇宙線浴メカニズムにもとづいたモデル(赤)はグレーで示された許容範囲に収まっている。東京大学のプレスリリースから引用(Credit: 東京大学)】

また、星が形成される領域では複数の星が同時期に誕生して星団を形成しますが、こうした環境で太陽のような星が1パーセク以内の超新星に遭遇する確率は、統計上10~50%に達することも研究チームは明らかにしました。このことから、宇宙線浴メカニズムはまれな現象ではなく、比較的ありふれている可能性があると研究チームは考えています。

短寿命放射性核種によって微惑星から揮発性物質が失われる、言ってみれば「微惑星が乾燥する」プロセスが本当にありふれているとすれば、大気・海洋・地殻が相互作用し、表面に生態系が構築されている地球のような惑星も、決して稀な存在ではないのかもしれません。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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