トルコにある鮮やかなピンク色の塩湖、トゥズ湖の航空写真。かつてフラミンゴの生息地だったが、湖が干上がった後、湖底は鳥の死骸で覆われた。(MUSTAFA KAYA, XINHUA NEWS AGENCY/ EYEVINE/ REDUX)

トルコにある鮮やかなピンク色の塩湖、トゥズ湖の航空写真。かつてフラミンゴの生息地だったが、湖が干上がった後、湖底は鳥の死骸で覆われた。(MUSTAFA KAYA, XINHUA NEWS AGENCY/ EYEVINE/ REDUX)

 埃(ほこり)っぽい8月の午後、ニイメット・セゼンさんとアリ・エレフェさんはトルコのアナトリアで、コンクリートの桟橋に立っていた。目の前には、枯れたアザミと雑草に覆われた野原が広がり、熱気を含んだ風が吹き抜ける。

 はるか遠く、野原の真ん中に、2つの空色の物体がある。セゼンさんとエレフさんが立つ桟橋からは、はっきり見分けがつかないほど遠い。それでも2人は、それが何なのか、はっきりとわかっていた。放棄された手こぎボートだ。この場所は少し前まで湖だった。

 トルコ南西部のマニサ県にあるマルマラ湖は、かつて約45平方キロメートルにわたって広がっていた。全国から観光客がやって来てボートに乗り、モモイロペリカン、クロハラアジサシ、ウ、フラミンゴなど、約2万羽の鳥たちが群れを成していた。(参考記事:「ギャラリー:巨大湖が消える日」)

 しかし2011年、湖は干上がり始め、2021年までに水面の98%を失った。水に依存していた地域の生態系は壊滅的な打撃を受けた。

 セゼンさんとエレフェさんは、マルマラ湖に面したテケリオグル村で生まれ育った。セゼンさんは、湖で魚を釣って食べていた、と懐かしむ。エレフェさんは子どものころ、湖で泳ぎを覚えた。最後に泳いだのは2018年だ。

「今でもずっと恋しい」とエレフェさんは言う。「新世代の村の子どもたちは泳ぎ方を知りません」

1991年、トルコの有名なヴァン湖で男性たちが水浴びをしている。その後、水位が劇的に低下し、湖が後退するにつれて、歴史的な石畳の道を含む古代の建造物が姿を現している。(ED KASHI, VII/REDUX)

1991年、トルコの有名なヴァン湖で男性たちが水浴びをしている。その後、水位が劇的に低下し、湖が後退するにつれて、歴史的な石畳の道を含む古代の建造物が姿を現している。(ED KASHI, VII/REDUX)

2025年10月に撮影されたヴァン湖の航空写真。水没していた建造物や墓が姿を現し、小さな島々が見えるようになった。気温上昇や蒸発量の増加、降雨量の減少といった地球規模の気候変動の影響で、湖の水位低下は加速している。(SENER TOKTAS, ANADOLU/ GETTY IMAGES)

2025年10月に撮影されたヴァン湖の航空写真。水没していた建造物や墓が姿を現し、小さな島々が見えるようになった。気温上昇や蒸発量の増加、降雨量の減少といった地球規模の気候変動の影響で、湖の水位低下は加速している。(SENER TOKTAS, ANADOLU/ GETTY IMAGES)

国土の88%が砂漠化のリスク

 マルマラ湖は、長年にわたる環境負荷の大きい農業とダム建設が原因で、急速に消滅しているトルコの湖のひとつにすぎない。過去50年間で、トルコにある湖250のうち186が干上がり、この10年間で、多くの湖が急速に縮小している。これは大規模な生態系破壊であり、存在を危うくする脅威であり、その勢いが衰える兆しは全く見られない。

 この間、約1万5000平方キロメートルの湿地も干上がった。国際連合の最新報告によれば、トルコは2030年までに深刻な干ばつに陥る危険性があり、国土の88%が砂漠化のリスクにさらされている。

次ページ:鳥の死骸で埋め尽くされた湖底

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