アングル:韓国新政権、米通商交渉で日中の出方注視 政権移行で「時間稼ぎ」

韓国で6月4日、革新系最大野党「共に民主党」の李在明・前代表が大統領に就任した。米国との貿易協議において新政権は隣国である日本と中国の出方をにらみつつ、交渉上の優位性を確保するための時間稼ぎを図るとみられる。写真は同日、ソウル駅で李大統領の映ったテレビ画面を見る男性(2025年 ロイター/Go)

[ソウル 4日 ロイター] – 韓国で4日、革新系最大野党「共に民主党」の李在明・前代表が大統領に就任した。与党の事情に詳しい複数の関係者によると、米国との貿易協議において新政権は隣国である日本と中国の出方をにらみつつ、交渉上の優位性を確保するための時間稼ぎを図るとみられる。

韓国では通常2カ月の政権移行期間が設けられるが、李氏は4日未明に選挙管理委員会によって大統領として正式に承認されると、直ちに大統領権限と最高司令官権限を引き継いだ。同氏は選挙前夜、「最も差し迫った課題は米国との通商交渉だ」と述べていた。

韓国の輸出依存型経済の行方は、李氏がどのような通商合意を取りまとめられるかにかかっている。半導体、自動車、造船といった主要産業は、いずれも国際貿易の動向に大きく左右される。

李大統領と「共に民主党」が引き継ぐ韓国経済は、今年の成長率が0.8%と2020年以来最低の水準にとどまる見通しだ。尹錫悦前大統領の「非常戒厳」宣言により大きく分断された国内の融和も、新政権の課題となる。

米ホワイトハウスのレビット報道官は3日、貿易相手国に対し4日までに最善の貿易交渉案を提示するよう求めたことを認めた。韓国産業通商資源省の関係者は、同国政府がその書簡を受領したかどうかについてコメントを控えた。 もっと見る

ただ今回の政権交代までには半年に及ぶ空白期間があり、韓国にとっては交渉を遅らせる口実となる。与党議員や政府関係者、通商問題の専門家らは、米国と他国との交渉の進展を見極める機会になるとみている。

李氏の通商戦略に関する検討作業に関わった専門家は「新政権は交渉全体の枠組みを見直す必要がある。これによって時間を稼ぐことができるし、米国も反発しにくい」と述べた。

関係者によれば、李政権が直ちに交渉期限の延長を求めることは難しいとみられる。外交担当の上級顧問も、まずは交渉の進捗を精査した上で延長要請の可否を判断するとの認識を示していた。

他国の交渉が長期化すれば、それも韓国にとって時間稼ぎにつながる可能性がある。

ある議員は「米国内の状況や他国との交渉の展開を踏まえ、当面静観することが戦略的に正しい」との意見を述べた。

<戦略的沈黙>

米国の主要同盟国である韓国は、日本に次いで米政府との交渉に臨んだ国の1つだ。韓米は4月末、相互関税の一時停止が7月に解除される前に米国の関税撤廃を目指した協定を作成することで合意した。ただ、国内の政局不安により進展は妨げられた。 もっと見る

李氏はその後、合意を急ぐ必要はないと強調。7月8日までに「7月パッケージ」を作成するという韓米間で設定された期限についても見直すべきだとの考えを示している。

選挙戦では通商交渉を巡る争点について明言を避けていたが、与党関係者によれば、この「沈黙」は戦略的判断だったという。

韓国に対する25%の「相互関税」を含むトランプ政権の包括的な対外措置は、現在も係争中であるが依然として有効だ。

別の専門家は「中国は米国の政策変更の可能性、日本は同様の状況下での立ち回り方という点で参考になる」と語った。

米国の同盟国である日本も24%の関税措置を受けており、自動車などの重要産業を対象とする25%の個別関税が免除されない限り、合意を急ぐ意味はないとみている。自動車は韓国にとっても主要産業だ。

一方の中国は5月中旬に米国との間で、双方の関税を大幅に縮小する90日間の一時停止で合意に達していたが、トランプ氏は5月30日に中国が合意に違反したとして非難。厳しい措置を取る可能性を示唆した。 もっと見る

米関税政策への対応に関しては、中国よりも日本との連携の可能性が高いとする見方もある。関係者2人によると、エネルギー調達や自動車関税といった共通の利害があるためだという。

与党関係者によれば、移行期間には現在の交渉担当者が引き続き協議を進める一方で、新政権が戦略の立案を行う「二重戦略」が想定されている。

<交渉力の源泉>

韓国は造船や先端技術といった米国の関心が高い分野に強みを持っており、ほかのアジア諸国と比べて交渉上の立場は有利だとする分析もある。韓国は交渉材料として別途、産業協力パッケージの準備も進めている。

元米外交官で、ワシントンを拠点とするコンサルティング会社TDインターナショナルのジェイ・トゥルーズデール最高経営責任者(CEO)は「通商交渉を成功させるには、李大統領の国内政策を後押しする提案が必要だ。韓国は政治的に重要な産業を多く抱えているため、比較的容易だ」と指摘する。

米モルガン・スタンレーの韓国・台湾担当チーフエコノミストであるキャスリーン・オー氏も「韓国には、たとえば台湾のような輸出国と比べて交渉を成立させるためのチャネルと余地が多い」と述べた。

韓国は米国からの輸入拡大によって対米貿易黒字を圧縮する余地がある。トランプ氏が「高関税の象徴」として名指ししたコメを含む農産品について、関税引き下げを提案することも可能だという。

ただ通商専門家は、だからこそ李政権は合意を急ぐ必要がないと指摘。「最悪のケースは、合意後に関税が変更されることだ。こちらが無駄な譲歩をしたことになりかねないからだ」と述べ、「こちらにも交渉材料がないわけではない」と付け加えた。

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