「Oracle AI World 2026」開幕、業務特化エージェント型AIの機能強化やNetSuiteの新AI基盤を発表 – クラウド Watch

 米Oracleは、同社の年次イベント「Oracle AI World 2026」およびその併催イベント「Suite World」を、10月25日~10月28日(現地時間)に米国ネバダ州のラスベガスで開催している。

 Oracle AI Worldは、Oracle製品(Oracle Database、Oracle Cloud Infrastructure:OCI、Oracle Fusion Applications)を扱うイベントで、Suite Worldは中小企業向けERPであるNetSuite製品を中心に扱うイベントである。

 実質的な初日となった10月26日には、Oracle CEO マイク・シシリア氏による開幕基調講演や、NetSuiteの創業者でOracle NetSuite事業担当 上席副社長 エヴァン・ゴールドバーグ氏によるNetSuite関連の基調講演が行われた。

Oracle AI World 2026の基調講演で講演するOracle CEO マイク・シシリア氏安全なデータアクセス、業務を理解するデータモデル、高性能なインフラ、現場アプリケーションの4つが重要とシシリアCEO

 Oracle AI Worldは、もともとOracle Cloud Worldとして開催されていたイベントで、2025年からOracle AI Worldに名称が変更されている。その名称変更からもわかるように、AIを活用するソリューションを中心としたイベントで、同社の主要事業であるOracle Database、OCI、Oracle Fusion Applicationsなどの各製品群の中でも、AIを活用した機能を中心に新機能などが紹介されている。

 午前中には、Oracle CEO マイク・シシリア氏の基調講演が行われた。シシリア氏は「AIはリスクを見つけ、コストを削減する方法を探し、問題を以前よりも早く発見しているが、同時に次に何ができるかも見つけ始めている。ただし、成果を出すためには、安全で権限制御されたデータアクセス、ビジネス文脈を理解するデータモデル、高性能・高効率なインフラ、現場のアプリケーションや業務プロセスへの深い組み込みという4つの要素がそろっている必要がある」と強調。そうした環境を実現するために、OracleはOCIのインフラやFusion ApplicationsのSaaSアプリケーションなどを提供しており、顧客はこれらを選択することで、高い信頼性を持つ安全なAIを実現できるとアピールした。

Oracle CEO マイク・シシリア氏SaaS向けには「Fusion Claw」、「FSCR」、「Fusion Companion」および「Fusion Agentic Home」を発表

 シシリア氏の基調講演に登壇した、Oracle アプリケーション開発担当 上席副社長 クリス・レオーネ氏は、Oracle Fusion Applicationsの新機能に関して発表した。

Oracle アプリケーション開発担当 上席副社長 クリス・レオーネ氏(左)とOracle CEO マイク・シシリア氏(右)

 今回Oracleが発表したOracle Fusion Applications関連の新機能は、大別して3つある。Fusion Claw、FSCR(Fusion Setup and Configuration Registry)、「Fusion Companion」および「Fusion Agentic Home」だ。

 Fusion Clawは、すでに先月に概要が発表されているエージェント型AIだ。Oracle独自のセキュリティコンテナの内部で動くエージェント型AIで、エンタープライズがより安全な環境で確実に業務の自動実行を支援する。Open ClawやHermes Agentといった、オープンソースを基にしたエージェント型AIと同様の機能を持つが、Fusion ClawはOracleのセキュリティコンテナ内で動作するため、適切に管理された環境でエージェント型AIを実行できることが特徴となる。

Fusion Claw

 FSCR(Fusion Setup and Configuration Registry)は公開Gitリポジトリで、とてもざっくり言うと、エージェント型AIのスキルに相当するものだ。このFSCRをエージェント型AIが自動で読み込むことにより、エージェント型AIに新しい機能を追加できる。それを人手でやっていると効率が悪いため、エージェント型AI自身がGitリポジトリを読み込み、自動で機能の追加を行えるようにしている。人間は機能の追加を指示するだけでよいので、エージェント型AIをより高効率に実行可能になる。

FSCR

 「Fusion Companion」および「Fusion Agentic Home」は、前者がFusion ApplicationsのAIチャットボット、後者が業務用AI環境になる。Fusion Companionは、プロンプト形式でユーザーのニーズを読み取り、ユーザーの指示によって業務を効率よく進めることを助ける。Fusion Agentic Homeは、仕事の目的を伝えるだけでAIが必要な作業を考えて実行してくれる業務用のAI環境。エンタープライズのIT環境として、さまざまなAI活用方法などをユーザーに教え、業務を効率よく進めるための仕組みになる。

Fusion CompanionFusion Agentic Home米国の通信事業者Spectrumと欧州の外食産業QSRPの事例を紹介

 今回の基調講演ではユーザーの活用事例としてSpectrum、QSRPの2社の事例が紹介された。Spectrum(ブランド名、正式な企業名はCharter Communications)は、米国のケーブルテレビサービスや携帯電話通信を提供する企業で、約10万人の従業員を抱える大企業である。

 Spectrum 人事技術・AI戦略担当副社長 デレック・ドレイファス氏によれば、Spectrumは、Fusion ApplicationsのSaaSとして提供されているOracle HCM(Human Capital Management)を全社的に利用しており、人事業務の手間を減らすためにAIを活用しているという。

Spectrum 人事技術・AI戦略担当副社長 デレック・ドレイファス氏(左)、Oracle CEO マイク・シシリア氏(右)

 過去9カ月の間に、システム内のできるだけ多くのページにAIを組み込みで、従業員が必要な情報や手続きを簡単にできるようにしてきた。例えば、従業員がAIに話しかけるだけで、休暇ポリシーや残日数を確認し、休暇を申請できるようになっている。デモでは娘が入院した従業員が、フォームや規定を探さずに休暇を申請し、上司や人事部への連絡もできる様子が紹介された。

 ドレイファス氏によれば、繰り返し対応するルールに沿った業務はできるだけAIに任せ、給与変更や例外処理、従業員記録に関わる慎重な判断は人間に残しているのだという。これにより、企業統治の仕組みは導入の障害ではなく、AI活用を推進する仕組みとして機能しているとドレイファス氏は説明した。つまり、SpectrumのAIシステムが目指すのは、AIが定型業務を支援し、機微な判断は人間が行うことで、従業員が人事関連の手続きにかかる時間を減らし、顧客対応といった本来の業務に集中できるようにする仕組みである。

Spectrumの人事システム。人事業務のAIアシスト化を実現

 2社目の事例となるQSRP(Quick Service Restaurant Platform)は、欧州でファストフードレストランを展開する企業で、イタリアなどでバーガーキングブランドのハンバーガーチェーン店などを運営している。欧州で約1500店舗、約8000人の従業員を抱えているが、POSやキオスク端末、デリバリーアプリなど、さまざまなチャネルから集まるデータを効率よく活用し、店舗の問題を素早く把握して対応することに課題を抱えていたという。

 そこでOracle AIを活用し、さまざまな店舗の問題を把握できるようなシステムを構築した。例えば、デリバリーによって顧客に商品が届いた後にクレームが入った場合、OCI Visionを利用して店舗を出る前の商品画像と顧客側の画像を比較して何が問題なのかを把握できるほか、NetSuiteと連携して複数店舗での売上の傾向なども把握できるようになったという。また、こうした機能を店舗のマネージャーなどが容易に把握できるように、モバイル端末から閲覧できるように設計されているとのこと。

QSPRのシステム、顧客のクレームを元に写真で比較分析結果はモバイル端末で見ることができる

 QSRP AI責任者 ソフィー・ブラセイ氏は「今後、数百の店舗に拡大するには、信頼できるデータと既存プラットフォームとの連携、さらには事業計画に基づく効果検証、そして実際に導入して運用したチームからのフィードバックなどが重要だ」と説明し、店舗マネージャーなどが本来の業務に集中できるような体制を作ることが重要だと述べた。

QSPR グループCIO ファビオ・ファジーノ氏(左)、QSRP AI責任者 ソフィー・ブラセイ氏(中央)、Oracle CEO マイク・シシリア氏(右)「The end of ERP」という刺激的なタイトルで次世代ERPへの移行を訴えたゴールドバーグ氏

 午後には、Oracleが2016年に買収したNetSuiteの創業者で、Oracle NetSuite事業担当 上席副社長 エヴァン・ゴールドバーグ氏が、NetSuite事業に関しての説明を行った。Oracle自身もクラウドERP(Enterprise Resource Planning)製品を出しているが、NetSuiteは同じクラウドERPであっても中小企業向けとなっており、顧客企業の規模でターゲットを分けている。

Oracle NetSuite事業担当 上席副社長 エヴァン・ゴールドバーグ氏

 ゴールドバーグ氏は、「ERP時代の終わり(The end of ERP)」とやや刺激的なスライドから話を始めた。もちろん、ERPというカテゴリーが消滅するという意味ではなく、従来的な意味でのERPにはもはや意味がないというのが本意だ。

 ゴールドバーグ氏は「これまでは、昔ながらのやり方でユーザーインターフェイスを操作し、データを探し、スプレッドシートの操作に時間をかけていた――それが従来のERPだった。その時代はもはや終わりだ」と述べ、昔ながらのUIやデータの検索、表計算シートの操作といった従来型ERPの時代は終わり、次世代のERP時代に入っていると強調。NetSuiteもAIによって「NetSuite Next」へとすでに進化しており、米国・カナダでは本格提供が開始され、イギリスとオーストラリアではプレビューが提供されていると説明した。

「The end of ERP」(ERP時代の終わり)という刺激的なタイトルで講演が始まる

 そのNetSuite Nextの鍵となるのが、「ビジネス・コンテキスト」と呼ばれる、AIによって抽出される各顧客企業のビジネスにマッチしたコンテキストだ。AIと各社のデータが基になっているコンテキストを組み合わせることで、新しい時代のERPが構築できると強調した。

NetSuiteのAIが顧客企業のビジネスを理解する

 その上で、NetSuite Nextで提供される新しい機能として「AI Workspaces」、「AI Portlets」、「SuiteSkills」を紹介したほか、業界特化型エージェント「SuiteAgent Studio」、さらに、すでに提供されているデータソースとビジネスコンテキストを拡充する「Ask Oracle」のアップデートなどを提供していく計画を明らかにした。

 AI Workspacesは、ユーザー、AIエージェント、承認などを1カ所で連携させることにより、組織が複雑なビジネスプロセスを迅速に完了できるように支援するもの。例えば、「Autonomous Close」ワークスペースでは、人とエージェントが、会計期間の終了を待たずに会計上の問題を継続的に特定・解消できるようにすることで、企業が決算所要日数ゼロの実現に近づくことを支援する。

AI Workspaces

 AI Portletsは、自然言語によるリクエストからダッシュボードの分析、チャート、実行可能なアクションを生成し、企業の分析の迅速化、可視性の向上、より適切な意思決定を支援するものだ。

AI Portlets

 SuiteSkillsでは、NetSuiteのビジネスに関する専門知識を活用し、問題を調査して、より迅速に対応できるように支援する。45以上の新しい「SuiteSkills」は、「Ask Oracle」の一部として、また「NetSuite AI Connector Service」を介してサポート対象の大規模言語モデル(LLM)から利用でき、連携された財務・業務情報、業務プロセスに関する知識、業界の専門知識とAIによる推論との組み合わせを可能にする。

SuiteSkills

 SuiteAgent Studioでは、ユーザーがエージェントを簡単に作成し、有効化する前に、その指示、ツール、トリガー、実行ロールを調整できるよう支援する。また、Industry-specific SuiteAgentsでは、各業界向けに最適化されたAIエージェントが提供される。

 NetSuite Nextの特徴であるチャットボット機能「Ask Oracle」の拡張では、Ask Oracle Connectorsと呼ばれるMCPクライアントが提供され、インターネット上のデータや企業のデータベースなどに接続し、よりビジネス・コンテキストに近い回答をユーザーに提供できるようになる。

Ask Oracle Connectors

 ゴールドバーグ氏は、それらの新機能を紹介したほか、顧客企業として小売店向けのITソリューションを提供しているWorksmithとアイスクリームベンダーのJonnyPopsの2社を紹介し、それぞれNetSuite Nextをどのように活用しているかを説明した。