Google DeepMindハサビス氏、AGI予測を「2〜3年」に短縮―科学的創造性と安全対策が焦点 | 財経新聞

Google DeepMind共同創業者兼会長でAlphabet最高科学者のデミス・ハサビス氏が、汎用人工知能(AGI)の到来予測を2〜3年以内へと更新した。同氏はAIによる科学的発見に期待を寄せるとともに、能力の向上に合わせた安全対策や国際的な基準の整備を訴えている。

■AGI到来の予測を2〜3年に更新

米Wall Street Journalが2026年10月21日に公開した、ベン・コーエン記者によるWSJ Magazineの人物紹介で、新たな見通しが示された。同誌によると、ハサビス氏の予測は年内の以前の段階では3〜5年だったが、現在は2〜3年となった。2026年10月を起点にすると、2028〜2029年ごろに当たる。

ハサビス氏は同誌に、実現時期の見積もりをより近い方へ更新していると語った。同氏はWSJ Magazineの2026年のテクノロジー部門イノベーターにも選ばれている。

これまでの発言をたどると、1月のダボスでの討論では、2030年までに人間レベルのAGIが実現する確率を50%とする見方を示していた。Business Standardによると、2月のインドAIインパクトサミットでは5〜8年と説明した。4月のSequoia Capital主催「AI Ascent」では2030年を挙げ、その予測はかなり一貫していると述べていた。

ハサビス氏は、タンパク質の立体構造を予測するAI「AlphaFold」の開発を率いた研究者でもある。2024年にはジョン・ジャンパー氏とともに、タンパク質構造予測の業績でノーベル化学賞を受賞した。科学研究へのAI活用を進めてきた同氏が、AGIの実現をより近く見積もるようになったことが今回の発言の注目点だ。

■科学的創造性を問う「アインシュタイン・テスト」

ハサビス氏がAGIに求めるのは、人間が持つ認知能力を幅広く備えたシステムだ。個別の試験で高得点を取る能力に加え、異なる課題に一貫して対応し、新しい科学的な問いや仮説を生み出す能力を重視している。

その考え方を示すのが「アインシュタイン・テスト」と呼ばれる思考実験である。Natureによると、同氏は2月のインドで、1911年までの知識でAIを訓練し、アインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論を独力で導けるか、という例を示した。

10月のWSJ Magazineの人物紹介では、1901年までの知識から、アインシュタインの1905年の業績を生み出せるかという形で紹介されている。どちらも、後世の正解を学習する前の知識を出発点に、新しい説明や理論へ到達する能力を問う発想だ。

この思考実験では、過去の知識を利用して問題を解くだけでなく、何を問題として取り上げ、どのような仮説を立てるかが焦点になる。既知の問題への解答と、新しい研究課題そのものを生み出す能力を分けて考える手掛かりとなる。

AGIの予測を比較する際には、発言者ごとの定義にも目を向ける必要がある。Anthropicのダリオ・アモデイCEOは、自身の論考で「強力なAI」を、生物学、数学、プログラミングなどの広い分野でノーベル賞受賞者を上回る知的能力を持つものと説明し、2026年にも登場し得るとしていた。1月のダボスでも2026〜2027年という見通しを示している。

OpenAIのサム・アルトマンCEOは、2025年2月の論考で、AGIを指し示すシステムが視野に入りつつあると述べた。同氏はAGIを、多くの分野で次第に複雑になる問題に人間レベルで取り組めるシステムと説明している。時期の数字とともに、能力の範囲や達成条件を読むことで、それぞれの予測の意味が見えてくる。

■継続学習、長期計画、仮説を生む力

ハサビス氏は、現在のAIと自身が想定するAGIの間に残る課題として、継続学習や長期的な計画、科学的創造性を挙げている。継続学習とは、最初の訓練を終えた後も、新たな経験から学び続ける能力を指す。

学んだ内容を更新する際には、以前に獲得した知識を失う「破滅的忘却」への対処も課題となる。長期的な計画では、先の目標に向けて、複数の行動を一貫した方針の下で組み立てる力が求められる。

Moneycontrolによると、ハサビス氏は2月のインドで、AIが数学オリンピックで金メダル級の成績を収める一方、問い方を変えた初歩的な数学問題で失敗する例を挙げた。同氏は、課題をまたいだ能力の一貫性を重視している。また、優れた科学者を特徴付けるものとして、解くべき問いや仮説を選ぶ創造性を挙げた。

技術的な進路をめぐっては、異なる見方もある。元Meta最高AI科学者でチューリング賞受賞者のヤン・ルカン氏は、2026年5月に公開されたインタビューで、現在の大規模言語モデル(LLM)から人間レベルの知能へ至るという考えに異論を示した。同氏が重視するのは、現実世界を表現し、行動の結果を予測して計画に使う「世界モデル」である。

ルカン氏が共同創業したAMI Labsは、2026年3月に10億3000万ドル(約1620億円)を調達したと発表した。同社は、現実世界の理解、持続的な記憶、推論と計画、制御可能性と安全性を備えたAIの開発を掲げている。AGIを目指す研究には、実現時期とともに、どのような仕組みで必要な能力を獲得するかという論点もある。

■物理学と医療へ向ける研究の焦点

WSJ Magazineによると、ハサビス氏はAGIを使って取り組みたい領域の一つに物理学を挙げた。AGIシステムと人間の科学者が協力して、次の段階の物理学を探究することを望んでいる。病気の治療法を見つける研究への活用にも期待を寄せる。

科学とAGIへの注力は、同氏の役割にも表れている。Googleは2026年8月5日、ハサビス氏がGoogle DeepMindの会長兼Alphabet最高科学者となる人事を発表した。コライ・カヴクチョール氏はGoogle DeepMindの上級副社長となり、Geminiのモデル開発、最先端AI研究、アプリや開発者向けのチームを統括する。

GoogleとAlphabetのスンダー・ピチャイCEOは、ハサビス氏がAGIの将来を形作る仕事に専念できるようにするための役割だと説明した。ハサビス氏も社員向けメッセージで、AGIが手の届くところまで近づいていると感じると述べ、人類にとって望ましい進展となるよう次の段階を適切に進める重要性を強調した。

■AIエージェントの事案を安全対策への警告に

予測更新が伝えられる1週間前の10月14日、ハサビス氏はダブリンのInternational AI Summitに登壇した。アイルランドのEU理事会議長国としての主要行事で、会場のロイヤル・ダブリン・ソサエティには約1500人が集まったとThe Journalは報じている。

ロイターによると、同氏は最近のAIエージェントによるハッキング事案を「早期の警告」と表現した。現時点ではシステムの能力が限られ、事案も比較的小さいとした上で、企業、業界、政府が安全確保を進めなければ、2027年以降の数年で重大な事案につながり得ると警告した。

こうした発言の背景には、AIエージェントによる企業ネットワークへの侵入などがある。ロイターは、Anthropicが10月9日に、同社のAIがフィラデルフィアの警察関連サイトへ殺人事件について虚偽の情報を送信した事例を公表したと報じた。AP通信によると、この送信はウェブサイト操作のテスト中に起き、投稿は迷惑情報として処理された。

同じサミットでMicrosoft社長のブラッド・スミス氏も、AIの意図しない行動に触れ、2026年を業界にとって身の引き締まる年だったと表現した。ロイターによると、同氏は安全対策を技術革新に追い付かせるため、バランスの取れた法律や規則が必要だと訴えた。

ハサビス氏は、原子力や生物分野の安全確保の実践を参考に、将来的には国際的な基準を設ける組織が必要になると述べた。EFE通信によると、その仕組みには、技術革新を妨げず変化に対応する柔軟性も求めている。科学的発見への期待と並んで、能力が高まるAIを安全に運用する仕組みの整備が、同氏の提言の柱となっている。

元記事: Hassabis Cuts AGI Window to Two to Three Years While Safety Isn’t Ready