昨年、メタ・プラットフォームズの最高経営責任者(CEO)マーク・ザッカーバーグが自社の人工知能(AI)開発を再始動させたとき、それは巨額の投資を伴う賭けに思えた。しかし、メタの最新AIモデル「Muse Wonder」と「Muse Wonder Full」は、同社がAI開発の最前線に復帰したことを示しているようだ。
メタによると、Muse Wonder Fullは最先端の能力を備えた、世界最高水準のAIモデルのひとつだという。「これらは、わたしたちが描くスケーリング戦略の次のステップであり、『パーソナル・スーパーインテリジェンス』の実現に向けた大きな飛躍となります」と、同社は10月12日に公開したブログ記事で主張している。
Llamaの失速から、再び最前線へ
Muse Wonderは、APIや、AIを使ってソフトウェアを開発するツール「Muse Code」を通じて提供される。一方、Muse Wonder FullはMuse Codeの有料契約者向けに提供される。メタによると、Muse Wonderは今後、パーソナルAIエージェント「Muse」をはじめ、同社のサービスで提供するさまざまな機能に活用される予定だという。
ザッカーバーグは昨年、新設した「Meta Superintelligence Labs(MSL)」に数十億ドルを投じ、元「Scale AI」最高経営責任者(CEO)のアレクサンドル・ワンをチーフAIオフィサーとして採用するなど、自社のAI研究体制を刷新した。研究者が短期間で離職することもあり、この取り組みは必ずしも順調ではなかった。
メタはかつて、AI分野の先駆者だった。同社の「Llama」シリーズは、最先端のオープンウェイトモデルの先駆けとなっていた。自前のハードウェアにダウンロードして実行できるこのモデルは、研究者やスタートアップの間で広く普及した。
しかし、期待外れのバージョンを相次いで発表したことでメタは後れをとり、AnthropicやOpenAI、グーグルがより高性能なモデルを次々と投入するなか、その差は広がっていった。
メタは今年4月、新たなラボが開発した最初のモデルとして「Muse Spark」を発表した。また、「Muse Glimmer」と呼ばれる小型のオープンウェイトモデルも公開しており、今後はより大規模なオープンウェイトモデルも公開する計画だという。一方、「Muse Wonder」の開発やトレーニングの詳細については明らかにしていない。
Muse Wonderは、最先端のAIモデルと競い合うことを目指して開発された。メタによると、Muse Wonder Fullは、AIモデルの能力を総合的に評価する指標として広く使われている「 Artificial Analysis Intelligence Index」で、Anthropicの2番手モデル「Claude Fable 5.1」を上回り、最上位モデル「Claude Opus 5.5」に次ぐ順位につけているという。
メタによると、Muse Wonderは、法的文書の処理やソフトウェアの開発能力など、特定のタスクを評価する複数のベンチマークで、OpenAIの最上位モデル「GPT-6 Astra」や、「Claude Fable 5.1」「Claude Opus 5.5」を上回る性能を示したという。ベンチマークは実際の利用環境での性能を必ずしも正確に反映するわけではない。しかし、それでもメタのAIモデルにとって大きな前進といえる。
エージェントの暴走を防げるか
Muse Wonderには、AIエージェントの動作をより効果的にし、意図しない振る舞いを抑えるために設計されたふたつの新機能も搭載されている。「Active Memory」と「Active Focus」と呼ばれるこれらの機能は、AIが必要な情報を記憶し、目標に向けて作業を続けられるようにするものだ。AIが複雑な調査や大規模なソフトウェア開発に取り組む際、途中で目標を見失ったり、混乱したりすると、修正にコストのかかるミスや、エラーの連鎖を引き起こすおそれがある。
AIの安全性を確保するうえでは、意図しない振る舞いを防ぐだけでなく、危険な指示への対応も重要になる。メタによると、生物兵器の製造方法やハッキングを支援する情報など、危険な内容の生成をMuse Wonderが拒否するよう、トレーニングに多大な労力を費やしたという。また、危険な指示を受けた際の対応を評価する複数のベンチマークでも、優れたスコアを獲得しているとしている。