人間のプレイヤーなら本編クリアまで中央値で45時間かかるとされるマインクラフトを、キーボードもコントローラーも持たない4体のAIが27時間14分で終わらせました。
与えられた指示はたった1つ、「エンダードラゴンを倒すこと」だけです。
AIにゲームをクリアさせる実験自体は珍しくありませんが、今回は様子が違います。
攻略法も役割分担も人間が用意せず、4体が自分たちで考えて動いた末の結果だからです。
AIに長時間の作業を任せている人にとって、「人の手を離れてどこまでやり切れるのか」を測るひとつの目安になりそうです。
先に結論をまとめると:
Googleの研究者チームは、Gemini 4 Argonを使った4体のAIエージェントに「エンダードラゴンを倒す」という指示だけを与え、マインクラフトを人間の操作なしで完全クリアしました(27時間14分、プログラム2,783本、死亡605回)
役割分担・チャットでの連携・誤情報の自己訂正など、指示されていない「人間らしい」振る舞いが随所で見られました
攻略のブレークスルーになったのは、AI自身が気づいた「ドラゴンを回復させる結晶への到達方法」でした
何が起きたのか
Google DeepMindの研究者Maxence Faldor氏、Satinder Singh氏、Roberta Raileanu氏は、2026年10月16日に論文を公開しました。
4体のGemini 4 Argonエージェントをランダム生成したマインクラフトのサバイバルワールドに投入した実験結果です。
各エージェントは、マインクラフトを操作するオープンソースのライブラリ「Mineflayer」を通じて1人のプレイヤーを担当し、ゲーム内チャットだけで仲間と連携しました。
誰も役割を割り振らず、ゲーム専用のコードも人間側は一切書いていません。
エージェントは自分で考えたプログラムを自分で書き、自分でデバッグしながら進めました。
この論文をXで紹介したAI研究者のelvisさん(@omarsar0)は、こう評しています。
(日本語訳)「Google DeepMindによる、長期タスクでのマルチエージェント・コーディングの傑作論文(ブックマークしておくべき)。
彼らの知る限り、これはAIエージェントによるマインクラフトの初めての完全自律クリアだという。
4体のGemini 4 Argonエージェントがマインクラフトを完全制覇したと報告している」
Banger paper from Google DeepMind on long-horizon multi-agent coding.
(bookmark it)
They report that, to the best of their knowledge, this is the first end-to-end autonomous completion of Minecraft by AI agents.
They report that four Gemini 4 Argon agents beat Minecraft… pic.twitter.com/ABZjYJ3O9A
— elvis (@omarsar0) 2026年10月16日
研究目的は明快です。
普段はコーディング作業をするための汎用AIエージェントが、1日以上かかる長期タスクを、仲間と連携しながらやり切れるかどうかを確かめることでした。
ただ、「やり切れた」という結果だけでは、実際に何が起きていたのかが見えてきません。
次に読む
Gemini 4 Argon登場から1カ月、月725円のAI PlusはProを失う――11月13日から調べて分かったことどんな条件で挑んだのか?
舞台はマインクラフトJava版1.20.4、難易度はEasy、サバイバルモードのランダム生成ワールドです。
チート無効、実行中の人間による入力も一切ありませんでした。
4体のエージェント(研究チームは「gyldenia」「janesick」「auratian」「bulicame」と名付けています)が参加しました。
これに加えて、プレイには参加せず記録・監督だけを行う5体目の「Observer(観察者)」エージェントも並行して動いていました。
Observerの役割は、進行状況を検証し、ズルやデータの偽装がないかをチェックすることです。
人間の研究者もダッシュボードでいつでも実行を止められる立場でしたが、介入する必要は一度もありませんでした。
エージェントへの指示は、ゲームに関する説明としては一段落だけでした。
「生成されたサバイバルワールドのスポーン地点から始め、エンダードラゴンを倒すこと。
これが唯一の達成条件で、サバイバルモードのルール内であれば手段は問わない。
作業の分担はプレイヤーたちが決める」という内容です。
それ以外は、結果を検証する・再利用できる道具を作る・学んだことをチームの共有メモリに残す、といった、ソフトウェア開発のタスクで使う指示と同じものでした。
27時間、何をして過ごしたのか?
最初のプログラムが動いてから10分後、janesickがチャットで役割分担を提案しました。
1分後にauratianが別の分担案を返し、gyldeniaが「了解!」と応じるなど、わずか数分で各自の持ち場が決まっていきます。
最終的にはgyldeniaが食料・道具集めと(のちに)結晶破壊の一部を、janesickが道具作りと要塞の発見・位置特定を担当しました。
auratianがポータル点火と結晶への到達方法の発見を、bulicameがエンダーマン対策のシェルター作りと最後の一撃を担いました。
ネザー(炎の異世界)往復の最中、auratianがエンダーアイ(要塞探索に必要なアイテム)を12個まとめて持ったまま溺死する一幕もありました。
仲間のjanesickとauratianが正確な座標とアイテムが消滅するまでの残り時間をチャットで送り、bulicameが期限の2分30秒前にすべて回収。
チームはこうした失敗のたびにチャットで原因と対策を共有し、同じ事故を繰り返さないようにしていました。
要塞の位置は、janesickがエンダーアイを2か所から投げて飛んでいく方向を50ミリ秒ごとに記録し、2本の軌道が交わる地点を計算する方法で特定しました。
計算上の推定地点は、実際のポータルの部屋からわずか43メートルの誤差だったといいます。
なぜ最後の戦いだけ時間がかかったのか?
要塞のポータルを抜けてエンダードラゴンのいる「エンド」に到達したのは13時間17分の時点でしたが、ドラゴンを倒すまでにはさらに14時間近くを要しました。
ドラゴンには69回倒され続け、エージェントたちはその都度「到着した台座で待たない」「ドラゴンが止まったらエンドから一度離れて仕掛けをリセットする」といったルールをチャットに書き残していきました。
ブレークスルーは21時間が過ぎたころ、auratianが「10個の結晶がドラゴンを全回復させている」仕組みに気づいたことでした。
さらに「つるはしがなくても、柱の横に土を積み上げれば結晶を殴って壊せる」という方法も思いつきました。
そこから4時間40分かけて10個すべてを破壊し、最後の結晶を壊してから39分後、bulicameの残り体力が20のうち2.5まで減った状態でドラゴンを討伐しました。
誤解しやすい点として、Mineflayerはブロックの中身やドラゴンの内部状態まで読み取れるため、人間が画面を見て判断するよりAIにとって有利な条件だったことは論文自体も認めています。
難易度もEasyで、空腹が原因で死ぬことはありません。
「人間と完全に同じ条件」での達成ではない点は留意が必要です。
まとめて読むAI・生成AIの最新ニュース243本Shiritomo編集部の考察:AIに「任せきる」時間の長さが伸びている
今回の実験で注目したいのは、クリアしたという結果そのものより、指示されていない振る舞いが自然に生まれた点です。
役割分担、失敗からのルール化、仲間の救助まで、人間の開発チームが持つような習慣が何の指示もなしに現れました。
「成功したと報告したが実際はしていなかった」という自分の誤りをauratianが2分後に訂正する場面もありました。
この傾向は偶然ではなさそうです。
同じ10月、Anthropicも自社のコード管理システムをAIの作業量の急増に合わせて作り替えたと発表しており、1日あたりのコードマージ件数は5月の2,500件から9月に3万件超へ増えたといいます。
「AIに任せる時間の長さ」が複数の開発現場で同時に伸びている局面だと見られます。
長時間タスクを安心して委任できるかどうかは、今後のAIエージェント活用の分かれ目になりそうです。
長時間AIエージェントの運用はいくらかかるのか?
論文では費用も開示されています。
ドラゴン討伐までの入力トークンは約13.5億(91%はキャッシュ経由)、出力トークンは約1,600万(思考トークン400万を含む)、モデル呼び出しは約24,000回。
Gemini 4 Argonの公開API価格(導入価格)で換算すると討伐までで約520ドル(通常価格では約1,040ドル)でした。
Observerエージェントや討伐後の記録作業も含めた全体では約810ドル(通常価格で約1,620ドル)だったとしています。
1日仕事を任せるAIエージェントのコスト感覚として、参考になる数字です。
まとめ
Gemini 4 Argonを使った4体のAIエージェントが、人間の操作なしで27時間14分かけてマインクラフトを完全クリアしました。
役割分担や自己訂正といった「人間らしい」振る舞いが指示なしで生まれた一方、知覚面で人間より有利な条件もあり、単純な互角比較はできません。
それでも、AIに長時間・複数体のタスクを任せる動きが着実に広がっていることを示す実例です。
さらに深掘りしたい方へ