Googleが「魔法状態の培養」を量子プロセッサ「Willow」で実証、量子ビットのエラーを約40分の1に減らすことに成功 – GIGAZINE


Googleの量子コンピューター研究チームであるGoogle Quantum AIが、量子コンピューターの実用化に向けた重要な技術「魔法状態の培養(Magic State Cultivation)」を実証したと発表しました。Googleの量子プロセッサ「Willow」を用いた実験では、従来の方法と比べてエラーを約40分の1に減らすことに成功したとのことです。

Magic state cultivation on a superconducting quantum processor
https://research.google/pubs/magic-state-cultivation-on-a-superconducting-quantum-processor/

Magic state cultivation on a superconducting quantum processor | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aee7961

Bringing the magic: Google breaks open a bottleneck in quantum computing
https://blog.google/innovation-and-ai/models-and-research/quantum-computing/magic-state-cultivation-quantum-computing/

Demonstrating Magic State Cultivation on the Willow Processor | Google Quantum AI – YouTube


量子コンピューターは従来のコンピューターでは解くことが難しい問題を高速に処理できる可能性を秘めています。しかし、計算に使用する「量子ビット」は外部からのわずかな影響でもエラーが発生しやすく、正確な計算を続けるには「量子エラー訂正」という技術が欠かせません。

量子エラー訂正では、複数の物理量子ビットを組み合わせることでエラーに強い「論理量子ビット」を作ります。ただし、エラー訂正を行うだけではあらゆる計算に必要な操作を実現できるとは限りません。複雑な計算を実行するには、特定の量子操作を可能にする「魔法状態(Magic State)」と呼ばれる特殊な量子状態が必要になります。


魔法状態は量子コンピューターが幅広い計算を実行するための重要な資源です。しかし、エラーの少ない高品質な魔法状態を作るには大量の量子ビットや計算処理が必要で、量子コンピューターの処理能力の最大95%を魔法状態の生成に費やす可能性があるとのこと。さらに、魔法状態は計算に使用すると消費されるため、必要に応じて繰り返し生成しなければなりません。

この問題を解決するため、Google Quantum AIのクレイグ・ギドニー氏らは2024年に「魔法状態の培養」という手法を提案しました。これは最初から完璧な魔法状態を作ろうとするのではなく、まずエラーを含む魔法状態を用意し、測定によって問題のあるものを取り除くことで高品質な魔法状態を得るという方法です。

具体的には量子プロセッサの小さな領域に魔法状態を用意し、複数の量子ビットを使った測定で状態を詳しく調べます。エラーが検出された場合はその試行を破棄し、問題が検出されなかった場合だけ結果を採用します。これが「魔法状態の培養」です。

今回、Google Quantum AIのエマ・ローゼンフェルド氏らは量子プロセッサ「Willow」を使って、魔法状態の培養を実際に行いました。その結果、培養を行わない場合と比較してエラーの発生確率が約40分の1になり、生成された魔法状態で実際に作られた量子状態が目標とする理想的な状態にどれだけ近いかを示す「忠実度」は約99.99%に達したとのこと。

Some magical progress towards “magic state” in quantum!

Our @GoogleQuantumAI team has demonstrated “magic state cultivation” on physical hardware for the first time. The result is a 40x error reduction on our Willow processor vs. previous methods, achieving a state-of-the-art 99.99% logical fidelity.

It’s another step towards useful, error-corrected quantum computers to help solve the hardest problems. The result is published in Science today, watch the video below to see how it works

— Sundar Pichai (@sundarpichai) October 15, 2026

ただし、すべての試行で高品質な魔法状態が得られるわけではありません。今回の実験では、エラーの検出などによって多くの試行が破棄され、最終的に採用されたのは全体の約8%でした。それでも、必要な量子ビットや処理を大幅に削減できる可能性があることから、研究チームは魔法状態の培養を有望な技術と位置付けています。


研究チームは、魔法状態を生成するだけでなく、別の量子エラー訂正方式に移す実験にも成功しています。具体的には、魔法状態の培養に適した「カラーコード」という方式で作った量子状態を、より広く研究されている「表面コード」という方式へ移しました。これは、培養した魔法状態を将来の量子コンピューターで利用するための重要な取り組みです。

一方、今回の成果だけで実用的な量子コンピューターが完成するわけではありません。実験ではエラーの少ない魔法状態を生成できたものの、大規模な量子計算で継続的に利用するには、さらに多くの量子ビットを使った検証や技術的な改良が必要です。


Googleは、今回の研究によって、これまで理論上の提案だった魔法状態の培養が実際の量子プロセッサでも機能することを示せたと説明しています。研究チームは今後、魔法状態の培養をより大規模なシステムに拡張し、実用的な量子コンピューターの実現を目指す方針です。