【CREATORS EDGE2026セミナーレポート】生成AI時代、だからこそカメラマンが必要だ――MV『Dive into Tomorrow』制作の舞台裏 | VIDEO SALON.web

2026年9月29日にTODA HALL & CONFERENCE TOKYOで開催された「CREATORS EDGE 2026」。本記事では、その一環として行われたセミナーの模様をレポートする。登壇者はエディター/コンポジターの白戸裕也さん、フォトグラファー/シネマトグラファーの加部壮平さん、フォトグラファーの溝口 拓さんの3人。企画・作詞・楽曲制作、Vコン、画像・動画生成、合成、仕上げまで生成AIをフル活用し、そこに実写撮影を組み合わせることでリアリティを宿したMV『Dive into Tomorrow』は、いかにして生まれたのか? 生成AI時代にクリエイティブの選択肢を広げられる実写撮影の重要性について、実践をもとにした興味深いトークが繰り広げられた。

取材・文●山崎ヒロト

マルチモーダル化している生成AIをいかにして使うか?

白戸:今回は生成AIを使って作った『Dive into Tomorrow』というMVを紹介します。まずは本編とBehind the Scenesの映像をご覧ください。

 

 

 

白戸:どこが生成AIで、どこが実写撮影した部分か、分かりましたか? 解説に入る前自己紹介ですが、僕は普段映像の編集と合成をしている白戸です。最近は生成AIを制作のワークフローに取り入れています。

加部:株式会社カケラの代表をやっている加部です。普段は写真と映像の撮影を行なっています。株式会社カケラは去年の10月に立ち上げたばかりなんですけど、「まだ見ぬ景色を、見に行こう。」というテーマをもとに写真と映像の制作を業務にしてがんばっています。

溝口:株式会社カケラの水口です。と申します。加部と一緒に写真と映像の制作をしています。

白戸:この3人で『Dive into Tomorrow』の制作の舞台裏を語った記事がこちらです。今回は記事に載っていないことをメインに解説しますが、大きく分けると「プリプロダクション」「プロダクション」「ポストプロダクション」「これからの生成AI」の4つ。いろんなことを話しますが、「生成AI×実写撮影でクリエイティブの選択肢を広げられる」ということだけ覚えていただければ、あとは忘れても大丈夫です(笑)。

早速ですが「プリプロダクション」の解説から。そもそもみなさんは生成AIを使っていますか? …会場にいる方はほぼ使っているみたいですね。

加部:じゃあもう解説不要ですね(笑)。

白戸:と、言いたいところですが、使ったことがないという方もいたので、いろんな生成AIの使い方をまとめました。

白戸:テキスト、画像、動画、音声・音楽、コード…さまざまなものを生成することができますし、クリエイティブ作業のほかにも日々のタスクにも使えます。例えば、僕は服のタグを写真に撮って「洗濯する場合にどうすればいい?」という質問をしています。ここでのポイントはマルチモーダル化していて、いろんな使い方ができるということです。そんな生成AIを使った『Dive into Tomorrow』ですが、使用したプラットフォームとモデルは以下になります。

白戸:プラットフォームとモデルの関係が分かりにくいので、寿司屋に例えて説明します。まずプラットフォームが寿司屋(お店)で、そこにいる寿司職人がモデルです。さらにプロンプタトが寿司の注文、生成結果が提供される寿司ということになります。いろんなモデルを使っているなかで、モデル=寿司職人が違えば仕上がりも変わってくるという点に注意しなければいけません。モデルは日々新しくなっていて、先日もKling AIの4.0が発表されたばかり。情報を追いかけるのが大変なんですが、そんななかで『Dive into Tomorrow』ではこのような使い分けをしました。

白戸:プリプロダクションの段階ではChatGPTとClaudeを使ってひたすら壁打ちをしていました。MV制作中の今年6月の頃は、ちょうどClaude Fable 5が発表されたばかりだったので、結構ガッツリ使っています。あと、情報整理と共有にはMiroを使って、このMVの概要や歌詞をメモしつつブラッシュアップしていきました。

以下がSunoで生成した楽曲です。音楽を作る方でしたらステムで組んでいくと思うんですけど、僕はそれができないので、ひたすら生成を繰り返していきました。

白戸:Vコンは線画の状態で作りました。ちなみにここからの制作はGriptape Nodesというソフトで進行しています。ノードをつなげて、可視化しながら制作できるのがすごく便利なんです。Vコンを線画にした理由は、生成AIは最初からきっちりした画が出しやすいから。それやるとあとの工程で融通が利かないというか…。きっちりした画をリファレンスにして別の画像を生成するときも、それを参考にし過ぎてしまう傾向があるんです。なので、イメージが固定化されてしまうことを防ぐためにあえて線画にしました。

 

 

生成AIに実写撮影した素材を組み合わせるワークフロー

白戸:プロダクションの工程も解説します。Behind the Scenesの映像にもありましたが、山梨のパートは実写撮影を行いました。なぜ山梨かというと、溝口の地元だから(笑)。なので、溝口にはロケーションコーディネーター的な役割も担ってもらいました。実際の撮影風景もいくつかお見せします。

白戸:これはどこでしたっけ?

溝口:笛吹川フルーツ公園と八代ふるさと公園という場所です。

白戸:いろんなMVでも使われているのでわりと有名ですよね。そんなオフショットからみなさんに質問です。この美味しそうなチャーハンの写真、これは生成か、実写か、どちらでしょうか?

白戸:会場は生成AIだと思う方が多いみたいですね。正解は実写です(笑)。蓬来軒 本店という老舗なんですけど、やはりロケをすると美味しいグルメや旅自体を楽しめるので、生成だけでは寂しい部分もありますね。別の撮影風景もお見せします。

白戸:商店街のショットはiPhone 15 Pro MaxのProResで撮りました。全体的にめちゃくちゃいいロケになったんですけど、美しいマジックアワーのシーンは「晴れた空」で「甲府盆地の明かりが映っている」という感じで想定していたんですが、いざ行ってみると曇天でしたね。

白戸:実写作品の場合は再撮するしかないじゃないですか。でも、夏の時期は雨が多いし、うまく再撮できないケースも多いかと思います。そういうときに生成AIの出番です。

白戸:生成AIを使えば、ボタンをポチっとするだけで簡単にいい感じの画が出てくる…と言いたいところですが、そういうわけではありません。なかなかいい画が出ないし、細かいコントロールが効かないというのが実情です。実際にカメラで撮っている場合はあと数cm下げるとか、カメラを振るとかできるじゃないですか?

溝口:本当に少しの差で“いい画”になるので、それをプロンプトで指示するのはかなり難しいですね。

白戸:なので生成AIを使った作品の質を向上させるには、しっかりしたディレクションや後工程が必要になります。特にポストプロダクションではそれなりに大変な作業が多かったです。お気に入りのカットを例に出して解説します。

溝口:この塩山駅は、山梨を拠点に活動する田我流さんのMV(『ゆれる』EVISBEATS feat. 田我流)に登場します。僕と白戸が大学生のときにヒットした曲とMVで、思い入れも深かったので、今回の作品でオマージュしています。

白戸:Griptape Nodesの画面を見てもらうと、まず実写撮影した素材から線画のVコンを作り、それに対して「こういう人物を、この構図で入れてほしい」と指示して生成しました。ここまでディレクションすることで思い通りの構図に近い画までコントロールできるようになります。

白戸:東京と山梨のそれぞれのパートでドローン風ショットがあるんですが、東京パートで生成したドローン風ショットをリファレンスにして、山梨の別カットで生成した軽トラの素材を組み合わせて作っています。要するに「東京のドローン風ショットの構図で軽トラを合成して」というプロンプトで指示して画を作る、と。ここで問題になるのが車のナンバープレート。細かい数字は生成画像では描画できず崩れてしまうので、そこはコンポジットするしかありませんでした。Boris FXのMocha Proという平面トラッキングのソフトでナンバープレートを追って、後処理しています。

白戸:もちろん細かく見ると実写撮影した素材から変わってしまっている部分はあるんですけど、生成でもわりと維持はできているかなと思います。生成AIは太陽の位置まで推定できないので、太陽の位置を調べるツールを別途組み合わせて、「この日、この時間帯にはここに太陽がある」と想定しつつ正確な位置に太陽がくるようにプロンプトで指定しました。

白戸:今回、「環境やライティングの変更」「人物のマットの作成」「映像のフィードバック」の3点が生成AIに助けられました。映像のフィードバックというのが分かりづらいかもしれませんが、制作途中の映像をChatGPTにアップして批評してもらったんです。そこでBロールの少なさを指摘されたので、実際にどういうカットを追加すべきか検討して、必要に応じて追加で生成していきました。

AIVFXのメリットとこれからのクリエイターの関わり方

白戸:まとめのパートに移りますが、「これからの生成AI」ってどうなるんでしょうか? 

白戸:いま起きていることとして、進化がとにかく速いです。新しいモデルが次々と登場していますし、一貫性の担保や長尺の生成も可能になってきました。もちろんその分クレジットは食うんですけれど…(笑)。あと、生成をよりコントロールできるワークフローもどんどん出てきています。例えば、BlenderやCinema 4Dといった3DCGソフトでカメラワークを作る、みたいなことです。あるいはHiggsfieldなどに実装されているんですが、まず低解像度でドラフトプレビューを作ってそれを高解像度で再生成する機能。CodexやClaude Codeを使って自分で映像制作のためのツールを作っちゃう人もいます。

加部:できることがめちゃくちゃありますね。

白戸:今回ご紹介したのは「AIVFX」という潮流です。AIを使って実写映像の一部を生成・変換・補完するVFX技術のことで、例えばクロマキーなしで被写体を分離できたり、曇天を晴れにするようなリライティングしたりする、と。これによって予算構造にも変化が生じています。スタジオや機材、工数を圧縮することで違うところにお金が分配されるようになりました。また、試行錯誤が高速化することで、単純に試行回数が増えて品質は上がる、と考えることもできるかもしれません。トライアンドエラーが前もってできるのがAIVFXの特徴です。

小規模チームの“戦闘力”も向上すると思います。今回のMVも実際に撮影しようと思ったら特機やドローンなどを手配する必要がありますが、生成AIを使えば少人数でハイクオリティな画作りが可能です。

白戸:そんな生成AI時代を、写真と映像を撮影する仕事をしているふたりはどう考えますか?

加部:撮影条件からの解放というのがめちゃくちゃ助かります。「明日雨か。ロケあるけど、どうしよう…」みたいなことはよくあるんですよ。いままでは無理やり“晴れ”にするために強めの照明を焚く必要がありましたけど、「いや、ここはAIを使って晴れにしましょう」という転換ができるようになります。つまり撮影の予備日を設ける必要がなくなる、と。最近こういったケースは多くなっていますし、僕としては助かるな、と。現時点でAIは構図、アングル出しが完璧ではないので、そこらへんはまだまだカメラマンが必要かなと思いますけど。

白戸:加部さんは半年ぐらい前までAIのことは知らなかったですもんね。

加部:最近はクライアントにも「ここはAIでいきましょう」と提案するまでになりました(笑)。

白戸:どちらかだけじゃなくて、どっちも知っているほうがいいじゃないですか。ハイブリッドな作り方を知っていることがこれからの時代すごく大事だと思います。

溝口:僕は、人間がどのようにクリエイティブに関わるか、ということを考えています。今回のMVでは、生成AIで作ったキャラクターに「地元に根ざしたラッパー」という人物像を持たせましたけど、そこの土地に生きているラッパーというのはどういう存在なのか? そういう存在をすべてAIで作ることも可能だったと思うんですけど、実写撮影したのはその土地の空気も含めて表現したかったんです。

僕は山梨出身なので、この土地はこういう空気があって、こういうものが存在しているというのが自分の感覚としてあるじゃないですか。生成AIに助けてもらいつつ、自分のクリエイティビティをうまく掛け合わせることで、より良いものに昇華させる…これが大事なんじゃないか、と。あくまで生成AIは手段であり、ツールとして捉えていけば、僕たち写真を撮る人間、動画を作る人間はまだ生き残っていけるのかなと思います。

白戸:めちゃくちゃいいこと言うじゃん(笑)。

溝口:いや、普段から思っていることなんですよ。

白戸:時間になったので今日はここまでにします。まとめとして、冒頭でもお伝えしましたが、「生成AI×実写撮影でクリエイティブの選択肢を広げられる」ということだけを覚えて帰ってください。