ソフトバンクグループ×OpenAIが挑む「エンタープライズAGI」–SB OAI Japanの次世代戦略の画像(ZDNET Japan)
ソフトバンクグループとOpenAIの合弁会社であるSB OAI Japanが設立されて約1年が経過した。「クリスタル・インテリジェンス」構想を掲げ、日本企業のAI化を推進する同社は、急激に変化するAI市場の中で現在どのような戦略を描いているのか。ソフトバンクグループ内で進む大規模な実証実験の裏側、注力する「Patching as a Service」、そして日本企業のレガシーシステム刷新に向けたロードマップなどをSB OAI Japanの最高サイバーセキュリティ責任者(CCSO)を務める金澤謙悟氏とCEO室室長の一色健人氏に聞いた。
個別最適から「全体最適」へ。エンタープライズAGIの実現
SB OAI Japan設立の目的は、企業における「エンタープライズAGI(汎用<はんよう>人工知能)」の実現にある。単に最新のAIツールを導入するのではなく、AIが企業内のあらゆるシステムやデータを横断し、自律的に連携する世界を目指している。
一色氏は「OpenAIとともに取り組みたかったのは、企業内でAIが縦横無尽に動く世界観を、誰よりも早く作ること。それこそがクリスタル・インテリジェンス構想であり、いわばエンタープライズにおけるAGIを作りたかった」と合弁会社を立ち上げた背景を話す。
このビジョンを実現するため、SB OAI Japanはまず、ソフトバンクを「実験場」として活用。ソフトバンクグループ 代表の孫正義氏によるトップダウンの下、作り上げたプロダクトは自社で徹底的に使いこなす「カスタマー・ゼロ」を実践する。
一色氏は「これまでのアプローチでは、このユースケースでは『ChatGPT』を使い、別の業務では『Claude』を使うといった部分最適に陥りがち。しかし、個別の最適化だけでは、企業全体の経営としてワークしない。あらゆる業務や部門において、AIが全体で連携し、企業経営全体で最適化される世界をどう作るかが非常に重要」と、日本企業のAI導入における課題を指摘する。
「ソフトバンクグループでは、あらゆるスタッフがAIの力をきちんと使える状況を作るという孫代表の大号令の下、全社員がAIエージェントを使える環境を用意している。社内では、AIを使って何ができるかの知見をためるため、継続的に『AI活用のユースケースコンテスト』を実施するなど、現場発の業務連携のアイデアを吸い上げている」(金澤氏)と語り、トップダウンとボトムアップの両面でAI導入を推進する。
日本市場のリアルな壁、欧米のベストプラクティスは通用しない
OpenAIの技術があるにもかかわらず、なぜ日本市場に特化した合弁会社が必要だったのか。そこには、日本企業のIT環境が抱える特殊な事情がある。
一色氏は「欧米のスタートアップが、トライ&エラーを繰り返しながら次々と新しい技術を導入していくのに対し、日本企業はリスクやセキュリティを見極めながら、慎重に採用を進める。そのため、欧米で成功したベストプラクティスを日本にそのまま持ち込んでもきちんと機能しない」と日米の違いを話す。
そこでSB OAI Japanは、OpenAIが「AIモデル(頭脳)」の開発やトレーニング部分を担い、ソフトバンクは導入支援を徹底。日本企業が求める手厚いサポートを実践するほか、既存システムの連携作業や経営層の意識改革の伴走まで請け負う。この役割分担により、日本企業における新技術導入を進める構えだ。
フロンティアAIが変えるサイバー攻撃と「Patching as a Service」
現在、SB OAI Japanが注力しているのが「Patching as a Service(パッチング・アズ・ア・サービス)」と呼ばれるセキュリティ領域のソリューションだ。
2026年の春ごろ、Anthropicが「Claude Mythos」を使って検証したところ、ウェブブラウザーアプリやOSなどから多数の脆弱(ぜいじゃく)性を発見したことが話題を呼んだ。
このニュースを受け金澤氏は「私たちも同様に社内システムを診断したところ、これまで見つけられなかった脆弱性を多数発見した。今後、攻撃者がAIを利用すれば、今の防御では到底耐えきれない」と、サイバー空間における脅威の激化を挙げる。
従来の脆弱性診断は「パターンマッチ法」が主流で、既知の脆弱性パターンに当てはめて網羅的に探し出す手法だった。しかし、SB OAI Japanが提供するAIを用いた診断は、自律推論モデルを活用している。
「これにより、システム全体の構造を理解し、実際の業務の流れの中でどのように機能するかをシミュレーションできる。複数の要素を掛け合わせて分析することで、プログラムコードを見ただけでは分からない脆弱性を見つけられる」と説明する。
見つかった脆弱性がどれだけクリティカルなリスク(攻撃可能性)を持つか絞り込めるほか、「どう修正すればよいか」というソースコードの修正案までAIがレコメンドする点も特徴。SB OAI Japanでは、金融機関や製造業など3000社に、この診断と対応の提供を進める。
真の狙いはレガシーシステムのモダナイゼーション
新たなテクノロジーを活用したセキュリティ対策を提供する一方、SB OAI Japanが目指すのはレガシーシステムのモダナイゼーションだ。国内企業の多くはシステムインテグレーター(SIer)にカスタマイズを依頼した独自のレガシーシステムを抱える。
「脆弱性を潰しても、人が手を加えながら作ってきたシステムである以上、そこからまた新たな脆弱性が生まれてしまう。古いインフラストラクチャーの上でシステムを動かしている限り、インフラ自体の脆弱性もついて回る。これを永遠に繰り返し対応し続けるのが幸せなのか。そうではない」(金澤氏)と、AIを活用したシステムの根本的な刷新を見据える。
その背景には、「AIエージェントが連携し、業務を効率化するクリスタル・インテリジェンスの世界観を作るには、ITインフラがモダナイズされていなければならない。AIを使ってレガシーシステムを刷新し、AI時代に適応したITプラットフォームへお客さまを導く。これが重要なポイントになる」と、クリスタル・インテリジェンス構想の推進のためにもモダナイゼーションは欠かせないとした。