最先端AI、いわゆるフロンティアAIによってもたらされているブレイクスルーは、実際には一般の人々が本当に必要としているものからわたしたちを遠ざけているんです。仮に米国がフロンティアAIの技術競争に勝ったとしても、中国はわたしたちを叩きのめすでしょう。なぜならば、中国は下位モデルを社会全体に広く行き渡らせているからです。
目指すべきなのは、人々が自由にイノベーションを起こし、型にはまらない発想を発揮できるようにすることです。
フロンティアモデル開発の減速を
──オープンソースソフトウェアはセキュリティリスクになり得ると懸念する声もあります。悪意ある行為者がフロンティアモデルのガードレールを飛び越えられるようになるからです。
これまでわたしたちが目にしてきたサイバーセキュリティ関連の問題は、すべてフロンティアモデルから生まれたものです。ですから、サイバーセキュリティのリスクや病原体を開発されてしまうというリスクは、オープンウェイトモデルの開発を制限すべきという根拠より、むしろフロンティアモデルの開発を減速させるべきだという根拠になります。
──では、オープンソースによって、AIの覇権を握る勢力はもはや支配的ではなくなるとお考えですか?
わたしは未来を予言するようなことはしません。ただ、世界はわたしが望んだ方向に進みつつあるとは言えます。もし大型のフロンティアモデルが、メインフレームやスーパーコンピューターのような存在になったらどうでしょうか──つまり、本当に難しい問題にのみ向けられるものであって、社会全体に広く行き渡るものではない、という位置づけです。
人々は「Pi」のような、オープンソースの(エージェント型)ハーネスをつくり始めています。わたしの非営利団体「AI Disclosures Project」で取り組んでいることのひとつが、「オープンメモリーのためのコンソーシアム」という構想です。
マーク・ザッカーバーグの考え方は、「メタはユーザーを囲い込むことができる。なぜなら、その人のことを最もよく知るAIを提供しているからだ」というものです。
オープンソースのビジョンは、これに対してノーと言わなければなりません。オープンソースなら、モデルを乗り換え、プロバイダーを乗り換えても、必要な文脈をすべて保持し続けることができるのです。
シリコンバレーの反資本主義化
──あなたは最近『Economist』に、イーロン・マスクをはじめとするテック業界のリーダーたちが、自社に対して市場ではなく自分自身の欲求によって戦略を決めてしまうほどの権力を握っている、いわば「反資本主義的」な状態にあるという記事を書きましたね。
一般的に言って、シリコンバレーは反資本主義的になってしまいました。テックリーダーたちは口では「市場原理」と言いますが、2010年ごろにUberとLyftによって、本質的なそのビジネスモデル全体が動き出しました。
VCから資金を得た両社は、乗車料金を補助するために文字通り数十億ドルを費やしたのです。つまり、市場ではなくVCが勝者を選んだということです。それがひな型になりました。すべての資本がそこに積み上がり、ほかの可能な道筋を締め出してしまうのです。
──AIの世界では、すべての資金がごく一部の企業に流れ込んでいますが、どの企業も覇権を握れていないように見えます。
それは、このモデル自体が失敗しているからです。本当の動きはオープンソースの側にあります。ちょうど1990年代初頭、誰もがPCの覇権争いがすべてだと思い込んでいたときに、誰も気づかないうちにウェブがまったく別のところから飛び出してきたのと同じです。
わたしは、本物のAIの未来は、VCによって資金提供されていないところで起きる、イノベーションの発酵のようなものになると思っています──ウェブがVCによって資金提供されたものではなかったのと同じように。