2026年10月7日10時(北米時間)、Microsoftは北米サンフランシスコにあるDogpatch Studioにおいてイベント「Surface October 2026」を開催し、YouTubeのライブストリームも公開した。その中でNVIDIAの最新SoC「RTX Spark N1X」を搭載した「Surface Laptop Ultra」、および小型デスクトップPC「Surface RTX Spark Dev Box」を正式に発表。発売は2026年10月16日だが、すでにプレオーダーがはじまっている。
「とんでもないPCが出てきた!」Surface Laptop Ultraが正式発表
写真:アスキー(アスキー)
Surface Laptop Ultraは、mini-LEDを採用したピーク2000nitの15型「PixelSense Ultra」ディスプレーを搭載。厚みは約19mm(ゴム足含む)で重さは約2kg、冷却力は既存のSurfaceの2.5倍に強化している。USB Type-C充電器は新開発のマグネット式を採用したほか、ボディーの主要部分は分解を前提にした設計など、Microsoftのハードウェア設計に対するこだわりが詰まった1台だ。
Surface Laptop Ultraは大きく2ライン存在する。CPUが18コアでGPUが5120コアなら税込51万3480円(北米では2599ドル)~、CPUが20コアでGPUが6144コアなら税込70万7080円(同3699ドル)~となる。
最も重要な点はメモリー容量だ。AppleのMプロセッサーと同様、メインメモリーとVRAMが一体化したユニファイドメモリーのため、この部分の選択が本命であるAI処理の天井を決定づけるからだ。
LPDDR5Xで最低24GB、最大128GBまでの5段階あるが、CPUのコア数で選択肢に制限がかかる。18コアCPUの場合は24GBか32GBモデルのみ、20コアCPUなら最低32GB、最大128GBモデルが選択可能だ(下表を参照)。
発表会のスライドに出ていた2599ドル(つまり、51万3480円)のモデルは、18コアCPU&24GBメモリー&512GB SSD構成の場合であり、20コアCPU&128GBメモリー&1TB SSDという構成なら109万4280円(!)となる。
Surface Laptop Ultraの18コアCPU版はお手頃感はあるものの、RTX Sparkの目指す「ローカルAIを自環境で動かす」にはだいぶ心細い。20コアCPU版こそがNVIDIAの目指す理想を体現できる選択肢であるといえる。
RTX Sparkに賭けているメーカーはMicrosoftだけではない
前述の価格から、Surface Laptop Ultraは安易に万人にはオススメできない製品であることは確かである。しかし、「新しいPCを」というNVIDIAの理想と野望を具現化した最初の製品であることを考えると、単純に値段の高い・安いで判断しづらい。
また、本稿でRTX Spark搭載ノートPCの性能評価をからめて語ることができたらよいのだが、まだその段階ですらないという状況である。来たるレビューの日(そう遠くないはずだ)までの前菜として、まずはRTX SparkにNVIDIAが込めた理想やMicrosoftの施策をまとめてみることにしよう。
1200億級モデルを動かすための取捨選択
近頃とくに活発なのがローカルAI環境、つまり自分のPC上で動かすAIである。課金することなく存分に利用でき、他人に漏らしたくないセンシティブな情報も自分の制御下でAIに処理させることができるからだ。
だが、ローカルAI環境構築における最大のネックはVRAM搭載量である。本格的に使うとなれば32GBでは全然足りない。AIを本気で使いたければ、金を積んでGeForce RTX 5090どころかRTX PRO 6000を複数枚搭載して、VRAMリッチなPCを組むのがセオリーだ。
VRAMリッチなPCといえば、NVIDIAが出している「DGX Spark」 も選択肢の1つ。RTX Sparkと同じユニファイドメモリーアーキテクチャーを採用しており、メモリーは128GBまたは64GBが選択できる。
 ただし、これは量販店に並ぶような製品ではないし、なによりOSが「DGX OS」というチューニングされたLinuxを使用している。AI開発にはよいが、クリエイティブやゲームといった一般的な使い方には少々ハードルが高い。
一方、ふだん使いのPCには軽快なノート型が選ばれやすい。動画や写真を編集したり、ゲームで遊んだりするためのPCだ。このAI開発用のVRAMリッチなPCと軽快なふだん使いPCとの分断を解消しよう、というのがRTX Sparkの出発点である。
RTX Sparkは薄型軽量ノートPCに本格的なAIモデルをローカルで動かせるスペックを与え、なおかつWindows 11が動作する。NVIDIAのジェンスン・フアン氏は「AI革命をはじめたコンピューター、DGX-1は1PFLOPS(ペタフロップス)でした。そして、価格は2億5千万ドル(a quarter of a billion dollars)で、重さは500ポンドありました。それが今やあなたのノートPCに入っているんです」と語る。
一応突っ込んでおくと、この発言は多分に「ジェンスン・フアン節」が含まれている。この発言におけるDGX-1とは、OpenAIに納品されたP100ベースのものと思われる。P100を8基搭載したDGX-1の演算性能は1台あたり170TFLOPSで、1PFLOPSを超えるには最低6台必要になる。
価格は全部で約80万ドル、重量は約800ポンドなので微妙に数字があっていない。また、DGX-1の演算性能はFP16密行列における性能であるのに対し、RTX SparkはFP4の疎行列における演算性能(DGX Sparkの情報から推察)である点も注意が必要だ。
とはいえ、ユニファイドメモリーを採用し、最大128GBのLPDDR5Xメモリーを搭載することで、1200億パラメーター(120B)も運用できることは、ワークステーション級のVRAMリッチなPCに対抗できるものとして評価はできる。
NVIDIAが公表しているデータによれば、メモリーの帯域は300GB/sec(256bit幅)であり、GeForce RTX 5050(320GB/sec)よりやや細い。トークンの出力スピードはメモリー帯域依存であるため、RTX Sparkはトークンの出力スピードと大規模モデルの運用可能性を天秤にかけ、後者を選んだということだろう。
メモリー帯域の細さはLPDDR5Xのせい、あるいはアーキテクチャーの継承元であるDGX Sparkの仕様からくるものともいえる。ノートPCという形状にする以上、大電力を要求する高速メモリーやメモリーコントローラーにできなかった。あるいはGB10の設計を大きく逸脱し、GDDR6やGDDR67に変更するリスクはとれなかった、といった理由も考えられるが、正確なところは伏せられている。
Arm版Windowsで1200本以上のアプリを検証済み
RTX SparkはWindows 11が動作するが、これはArm版である。RTX Sparkがどれほどすごかろうと、x86向けのWindows上で動作しているアプリが動かなければ意味がない。そこで、NVIDIAは1200本以上のアプリがRTX Spark上で動作し、互換性を保てるか検証している。DirectXはもとよりDLSSやReflexなどのGeForce向けの全機能に対応するとNVIDIAは謳っている。
もちろん、x86向けWindows用に作られたソフト資産の量を考えると、1200本というのは氷山の一角どころの話ではないと思うが、NVIDIAは多量の人的資産を投入している(RTX Spark全体で4000人以上)。Windows向けソフトの大半はx86_64のエミュレーション機能(PRISM)を通して実行されるが、Armネイティブで動作するものも徐々に増えていくことだろう。
Windows用のゲームがRTX Sparkで動くからといって、NVIDIA自身はこれをゲーミングPCとして売るという腹積もりはない、というのは関係者とのやり取りを通じて感じ取ることができた。あくまでゲームはGeForceがイチバン、というのがNVIDIAのブランディング戦略のようだ。
ローカルAIとの結び付きが強固になるWindows
今回のイベントではWindows側の機能強化についても発表があった。それは3つの柱で構成されている。
(1)エージェント向けセキュリティー基盤「MXC」の提供開始
AIエージェントは強力だが、なんの縛りもなく動かすことは危険だ。そこで、MicrosoftはMXC(Microsoft Execution Containers)という仕組みを用意。MXC自体は2026年6月に発表済みの機能だが、今回ようやくGA、つまり一般提供への移行が発表された形だ。ただし、Windows 11における対応エディションについては言及がなかった(ProやEnterprise向け?)。
AIエージェントを封じ込める仕組みの1つとしては、「NVIDIA OpenShell」も存在する。MXCはカーネルレベルの機能で、NVIDIA OpenShellはその上で動作する機能である。MXCはAIエージェントがローカルのファイルやネットワークにアクセスできるか否かを強制する機能で、NVIDIA OpenShellはAIエージェントの使用するセッションメモリーの保持やサブタスクの生成といった部分に関与する。
また、AIエージェントがWindowsのユーザーIDと同じID下で動いていると、ユーザーの操作とAIエージェントの操作が混然としてしまう。そのため、MXC下ではAIエージェント自体に別のユーザーIDて追跡可能にする、などの違いもある。
MXCはLinuxやmacOSにも提供されるが、OSと深く結びついているのはWindows 11だけとMicrosoftは謳う(前述のカーネルレベルの強制執行機能のこと)。MXCによる統一ポリシーのもと、AIエージェントを縛ることができるため、とくに企業のIT管理部門による管理がラクになるというわけだ。
(2)ローカルとクラウドの併用
「GitHub Copilot」には、開発者が提示するタスクの内容や難易度に応じて、背後で動くAIモデルを自動的に選択・組み合わせて実行する「HydraFusion」という機能がある。このHydraFusionが拡張され、ローカルのAIとクラウドのAIの振り分けに対応する(2026年10月15日より提供予定)。
これにより超強力なクラウドサービス上のAIと、課金なく存分に使えるRTX Spark上のローカルAIを効率よく運用できる。機内モードの場合はRTX Sparkだけに限定するが、通信できる状況ならクラウドにも仕事を振るといった運用のほか、夜間はRTX Sparkだけを使ってクラウドAIの課金を回避しつつ思う存分AIに仕事をさせる、というような塩梅だ。
また、Windows MLと「llama.cpp」を統合することも発表。Windows MLはこれまでONNX Runtimeをベースにしていたが、ONNX形式に変換したモデルの提供はllama.cppのGGUF形式より遅れがちだった。そこで、llama.cppをWindows MLに取り込み、キャッチアップのスピードを早めたとのこと。
さらに、llama.cppを統合することで、ONNXでは一般的ではない極端な量子化モデル(1.6bitなど)がWindows MLで利用できる地平が拓ける。「大きなモデルをローカルで動かす」というRTX Sparkのコンセプトを、llama.cppとWindows MLの統合が後押しするものと考えられる。
ただし、llama.cpp本家が持つスピード感と、Windowsの保守性の両立が難しいことは素人目にもわかる。Windows MLにllama.cppが統合されても、本家に対するある程度のタイムラグは不可避だろう。そして、この統合はエンドユーザー向けというよりも、自分のアプリにローカルAIを組み込みたい開発者向けの機能である。
(3)プロンプトでWindowsを操作する時代へ
3つめはWindows 11の検索窓の強化だ。起動したいアプリの名称を検索して起動する、あるいはファイルを探し出すために使っている人も多いと思うが、この検索窓から数千のクイックアクションを実行可能になる。ダークモードに切り替える、SMSを送信する、ウインドウ配置を変更する、といった機能をプロンプト入力で実行できるわけだ。NVIDIAの「Project G-Assist」をもっと汎用化させたもの、といってもよいだろう。
つまり、RTX Sparkを使ってWindows 11上でローカルAIを動かせるようにする、というNVIDIAの理想をMicrosoftはOS面でもサポートする、というわけだ。
まとめ:業界をあげた盛り上がり。だが一抹の不安も残る
NVIDIAが新しいハードを立ち上げ、さらにMicrosoftをはじめとする主要なPCメーカーが各々工夫を凝らしたRTX Spark搭載ノートPCをリリースする(MacBook Proライクなデザインが多い点は実に残念ではあるが)。そして、MicrosoftはローカルAIの動作基盤として、より信頼できるものに進化させている。まさに業界をあげたお祭りだ。
製品のコンセプトそのものは納得できる。ChatGPTやClaudeといった最先端の「フロンティアAI」はすごいが、本格的に使おうとすると課金が問題になり、センシティブなデータの情報漏洩というリスクも無視できない。ローカルAIは能力的にフロンティアAIよりやや劣るが、RTX Sparkの初期投資を除外すればAIエージェントが使い放題で、リスクも低い。
しかしながら、RTX Sparkは安泰というわけではない。VRAMが12GB以上のゲーミングPCでもローカルでLLMを動かすことのできる「Strata」といったソリューションが注目を集めている。当初、StrataはQwen3.8-Flash-Nextとその派生モデルだけしか動かなかったが、GLM-5.3-Flashまでも同様に動くようになってきた。
RTX Sparkは、Strataが対応していないモデル、とくに全パラメーターを毎回使うようなモデルを実行できるという点では、十分なアドバンテージはある。しかし、今後はStrataのようなソリューションも進化するだろう。この進化のスピード次第では「普通のPC+Strataで良い」となることも十分想定される。
そして、このRTX Sparkの「立つ瀬」を危うくしている要素が、製品構成と価格設定だ。まず宣言しておくが、価格が高いのは昨今の半導体事情を考えると仕方のないところ。メモリーを多く搭載すれば高額になることは避けられない。
だが、18コアCPUモデルはメモリー上限が32GBと、既存のPCと大差ない。PRISMでx86_64とArmの互換性が確保されているとはいっても、わざわざメモリーの少ないArm環境に移行するメリットはない(macOSはこの点をかなりうまくやれていたと感じている)。
RTX Spark+メモリー32GBでオンラインでのAI利用が前提になってしまえば、「なんのためのRTX Spark?」という話になる。RTX Sparkの旨味を味わうなら最低48GB、理想論をいえば64GBか128GBに絞られる。そうなると約76万円以上の出費は不可避だ。AIに親和性の高い企業には喜ばれるだろうが、一般ユーザーに爆売れするようなPCではないだろう。
とはいえ、「とんでもないPCが出てきた!」が正直な感想だ。すでに「ローカルAIをWindows環境で」と謳っているPCは多数存在する。たとえば、Ryzen AI Max+搭載PCはHPやマウスコンピューターといった有名メーカーが販売している。GeForceの場合、ディスクリートGPUが前提になるので選択肢がなかったので、RTX Sparkはこの市場に切り込む製品だ。価格は高いが、十分に期待できる製品である。
COMPUTEX 2026でSurface Laptop Ultraの開発チームが「発熱がすごい」と語っていたことを考えると、フルロード時にどんなふうに動くのか興味はつきない。RTX Sparkで自分が利用するアプリがどこまで動くかは、実機に触れられるようになってからの検証になるが、NVIDIAの宣伝通り動くのであれば、まさに「とんでもないマシン」が出たことになる。
実際のRTX Spark搭載ノートを試す日が楽しみでならない。