AI軍拡競争はどこから始まったのか?進路を左右したサンフランシスコの約50人、巨大AI企業を動かした決断の舞台裏 【生成AI事件簿】ケビン・ルース著『The AGI Chronicles』が描くOpenAI、グーグル、アンソロピックの10年(1/4) | JBpress (ジェイビープレス)

【生成AI事件簿】ケビン・ルース著『The AGI Chronicles』が描くOpenAI、グーグル、アンソロピックの10年

小林 啓倫

小林 啓倫
経営コンサルタント

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2026.10.12(月)

経営 IT・デジタル

現在の生成AIの基盤となったトランスフォーマーを開発したのはグーグルの研究者だった(写真:AP/アフロ)

 1943年、マンハッタン計画の一団が乗り込んできたニューメキシコ州ロスアラモスで、芝生の椅子に腰掛け、町に入ってくるトラックの列を眺めている──。米国のテクノロジージャーナリスト、ケビン・ルースは、AI業界を取材してきた自らの立ち位置をそうたとえる。

 2026年10月6日、そのルースの新著『The AGI Chronicles』(AGI年代記)が出版された。人間と同等以上の知能を持つ「AGI(汎用人工知能)」をめぐる競争の内幕を、150人を超える関係者への取材で描いたノンフィクションである。ルースは刊行に合わせたWIREDのインタビューで、重要な決定のすべてを下したのは「サンフランシスコのおよそ50人」だったと語った。その50人は何を決め、私たちに何を残したのか。

(著者がChatGPTで生成)

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ベイブリッジの渋滞で生まれた「年代記」

 ルースはニューヨーク・タイムズ紙でテクノロジー担当コラムニストを務め、同紙のポッドキャスト『ハード・フォーク』をケイシー・ニュートンと共に担当していた人物だ。Axiosの報道によれば、2人は新会社「マシン・ゴッズ・メディア」を折半出資で設立し、米公共ラジオNPRと組んで新番組「マシン・ゴッズ」を2026年10月に始める。AIを誇大宣伝と切り捨てることも、手放しで持ち上げることもしない「AIリアリズム」が、2人の掲げる立場である。

 前述のWIREDのインタビューによれば、執筆を決めたのは2025年の初め、サンフランシスコのベイブリッジで渋滞に巻き込まれていたときだった。人類を救うか滅ぼすかもしれない超知能の開発競争が、当たり前の風景に見えるようになっている。それなのに、この奇妙な10年を書き残そうとしている人は誰もいない。ベイエリアで取材を重ねるうちに、いま起きていることの記録が消えてしまうのは「悲劇だ」とルースは感じるようになった。

 こうして約1年をかけて書かれた448ページの本書は、2017年夏、OpenAIの共同創業者イリヤ・サツケバーが、グーグルの研究者たちが考案した「トランスフォーマー」(現在の生成AIの土台となった技術)に目をつける場面から始まる。そこから2026年初頭まで、OpenAI、グーグル(ディープマインド)、アンソロピックの3社を軸に、AGI開発競争の舞台裏を追っていく。

 2023年11月のアルトマン解任劇、2025年1月のDeepSeekショック、最大5000億ドルを投じる「スターゲート」計画──。私たちがニュースで断片的に見てきたさまざまな出来事が、一本の線でつながっていく爽快感を、本書は与えてくれる。