「確認いたしました。このサイトが属するワークスペースでは、公開リンクの発行や外部ユーザーの招待が許可されていないため、一般公開を実行できませんでした。現在も非公開状態です。まずワークスペースの管理者(IT部門)が外部共有権限を有効化する必要があります」
要するにこういうことだ。ビジネスインサイダーのIT部門は、たとえ公式に契約している「ChatGPT Enterprise」環境内であっても、従業員がAIエージェントを使って外部に何を実行・公開できるかについて、きわめて合理的・賢明かつ慎重なセキュリティ管理を行っているのだ。
OpenAIが提供するAIエージェント機能において、筆者のDot「alidot」が自動生成したWebサイトのスクリーンショット。Alistair Barr/OpenAI
これこそが、たとえOpenAIのような飛ぶ鳥を落とす勢いのAI企業であっても、エンタープライズ(法人向け)IT市場への浸透を難しくしている職場の複雑性(ガバナンス)の正体だ。そして同時に、既存の法人向けIT製品が強力な顧客維持力と高い収益性を誇る理由でもある。
個人向けテクノロジーとは異なり、法人市場でのシステム切り替えは困難を極める。あらゆる新ツールは、社内の全既存システムの維持・連携に追われる多忙なIT部門の審査を通らねばならない。IT担当者が最も耳にしたくない言葉は「ねえ、僕のDotを使えるようにしてくれる? 『更新エンドポイント』とかいう設定を開放してほしいんだけど!よろしく!!」という呑気な依頼だ。
実務タスクでは「Dot」が真価を発揮した
IT承認のボトルネックは、社会経済全体へのAI浸透・普及を遅らせる要因となっている、職場における根深い課題の一つだ。テクノロジーの普及スピードは、企業文化や社会構造によってまったく異なる速度で進行するという好例である。
AI楽観論者たちは誰もがこのパワフルな新技術を即座に受容すると期待するが、現実の法人ITの世界では、物事は氷河の移動のように遅々としてしか進まない。
ここでもう一つの例を挙げよう。これは、技術的な職場のハードルを一つひとつ取り除いていった先に広がる「現在の限界」と「圧倒的な可能性」の両方を示している。
「Dots」の研修中、私はプロダクト責任者のエンビリコス氏に、社内で日常的に使用しているニュースレター配信ツールをalidotに操作させることができるか尋ねた。現在、この扱いにくいツールは担当編集者が手動で操作しており、alidotがこの入稿作業を爆速で終わらせてくれれば、編集者は本来の原稿編集作業により多くの時間を割けるようになる。基本的にはGoogleドキュメントから複雑なWebフォームへデータをコピペする作業であり、まさにAIが代行すべき典型的な単純作業だ。
そこで私はOpenAIの幹部に対して「もしこのWebニュースレターツールのマニュアルをalidotに読み込ませたら、新しいAIエージェントに作業を完遂させられますか?」と質問した。
「可能です」とエンビリコス氏は答えた。ただし、パスワードセキュリティ管理を含め、この種の社内システムへのアクセス許可についてIT部門の承認を得る必要があるだろうと付け加えた。
10月9日、正式な会社許可を得た私は、自分のDotを社内の複数の業務アプリケーションに連携させた。次に、ニュースレターツールの操作マニュアルを確認するようエージェントに指示し、テスト入稿を実行してみるよう命じた。
私はGoogleドキュメント形式の『AI Insider』ニュースレターの過去原稿をわたし、ニュースレターツールの該当入力欄へすべてのコンテンツを正しく流し込むよう指示した。
通知を表示し、私がそれをクリックしてニュースレターツールのログインパスワードを入力。続いて、alidotは「Okta」による二要素認証のプロセスを案内し、私はスマホで確認した一時的な6桁の認証コードをAIエージェントへ提供・共有した。
週に数時間の業務削減へ
Dotは私に代わってシステムへ自動ログインし、即座に入稿作業に着手した。約5分後、alidotは作成されたテスト用ニュースレターの下書きリンクを送ってきた。私が内容を確認し、担当編集者へ共有した。
編集者はその下書きを確認し、「95%は完璧だ」と絶賛した。ほぼすべてのコンテンツが正しい位置に配置されており、掲載画像、図表、すべてのWebハイパーリンクも正確に挿入されていたのだ。
今後、これによって毎週数時間もの作業時間を削減でき、私たちは本来の取材や記事の編集により多くの時間を振り向けることができるようになる。
これはメタ(Meta)の新しい「Muse」エージェントほど魔法のようには感じられなかったかもしれない。しかし、あちらのサービスが存在するのは制約のない「個人向けWeb体験という魔法の世界」であり、対するalidotは「企業ITの鬱蒼としたガバナンスの藪」をかき分けながら確実に前進しなければならないのだ。
あえて課された「意図的な制御」
私はこの一連の体験についてOpenAIへメールで問い合わせを行った。広報担当者は、もし有料の個人向けChatGPTアカウント上でDotを設定していれば、私が作成したWebサイトは容易に一般公開できていただろうと説明した。
同社はそれ以上の詳細コメントを避けた。しかし研修セッションの中でエンビリコス氏は、OpenAIは「意図的に」制約の多い法人IT環境からDotsを先行立ち上げしたのだと明かしていた。こうした厳格なガードレールこそが、人々がOpenAIの新AIエージェントを試す間、それらを安全に制御下に置くための適切かつ自然なアプローチなのだ。
この技術が現場で運用され、OpenAIが安全に稼働していることを確認できた段階で、同社はこれらのAIエージェントをデジタル世界のより広範な領域へ展開する計画だという。最終的に同社は、このエージェント機能を一般の全ユーザー向けChatGPTへ直接統合したい考えだと同氏は説明した。
これはきわめて慎重なアプローチだ。しかしその反面、「Dots」のローンチがメタの「Muse」ほど魔法のように見えない理由でもある。