Boston DynamicsがAmazonで人工知能事業を率いてきたロヒット・プラサド(Rohit Prasad)氏を新たな最高経営責任者(CEO)として招聘した。ロボットハードウェア分野で世界的地位を築いてきた同社がAIソフトウェアの専門家をトップに据えたことで、ロボットとAIを融合した「フィジカルAI」の商用化を加速させる戦略が鮮明になった。
Boston Dynamicsは7日、プラサド新CEOの選任を発表し、彼を対話型AIから生成・マルチモーダルAI、汎用人工知能(AGI)に至るまでAI技術の発展を牽引してきた専門家として紹介した。取締役会の承認を経てこの日正式に就任し、近く同社の取締役会にも加わる予定だ。
今回の人事により、約7カ月間にわたる経営の空白も埋まることになる。ロバート・プレイター前CEOが今年2月に退任した後、最高財務責任者(CFO)が暫定CEOを務めてきた。2019年に就任したプレイター前CEOは、Hyundai Motor Groupによる買収プロセスと「Spot」「Stretch」の商用化を主導した。
プラサド新CEOの経歴は、Amazonの代表的なAIプラットフォームであるAlexaと軌を一にする。2013年にAmazonに入社した彼は、Alexa開発の初期からAI戦略の策定と中核技術の開発を主導した。その後、Alexa機械学習部門の責任者を経て、AlexaおよびAGI部門の上級副社長(SVP)兼チーフサイエンティスト(Head Scientist)として勤務。2023年から昨年までは、Amazonの自社生成AIモデル「Nova」ファウンデーションモデル製品群の開発を統括した。
Boston Dynamicsが注目したのは単なる研究成果ではなく、技術を事業につなげてきた実績だ。同社はプラサド新CEOがAlexaがグローバル消費者向けAIプラットフォームとして定着する過程で中心的役割を果たし、製品・サービスおよび開発者・パートナーエコシステムへの拡大に貢献したと説明した。大規模なグローバル事業の実行経験も備えているとの評価だ。
Amazon入社前は約14年間、Raytheon BBN Technologiesで米国政府および民間部門を対象に機械学習の研究と応用技術開発を担当した。基礎研究から製品化・商用化まで、AI技術の全サイクルを経験したことになる。
フィジカルAI商用化に重点
今回の人事は、Hyundai Motor Groupが推進するフィジカルAI戦略と直結している。Boston Dynamicsは自社のロボティクス技術と新CEOのAI・事業化経験、そして親会社であるHyundai Motor Groupの産業基盤を組み合わせ、知能型ロボットシステムの実際の産業現場への適用と商用化のスピードを高める計画だ。
Hyundai Motor GroupとBoston Dynamicsの関係は2021年にさかのぼる。1992年にMIT教授だったマーク・レイバート氏が設立したBoston Dynamicsは、2013年にGoogleに、2017年にはSoftBankに買収された。Hyundai Motor Groupは2021年6月に約1兆ウォン(約1,200億円)を投じてSoftBankから株式80%を取得して筆頭株主となり、今年7月にはSoftBankが保有していた残存株式まで取得して株式100%を確保した。米国と日本の資本を経てきた同社が、Hyundai Motor Groupの単独体制に再編されたのだ。
具体的には、Hyundai Motor Groupの製造・物流・モビリティ現場をAI・ロボティクス技術の検証空間として活用する。技術開発から検証、商用化まで全段階の実行力を高めることが核心だ。研究開発中心のロボット企業とは異なり、実際の産業現場をテストベッドとして使える点が差別化された競争力として挙げられる。
Hyundai Motor GroupはすでにBoston Dynamicsの電動ヒューマノイドロボット「Atlas」を2028年までに米ジョージア州の製造施設に投入する目標を掲げている。長期的には年間最大3万台のヒューマノイド生産を計画中だ。産業用点検に使われる4足歩行ロボット「Spot」や物流作業用「Stretch」など既存ハードウェアラインアップの商用化拡大にも、AIソフトウェアリーダーの招聘が触媒となる見通しだ。
電動式Atlasは今年1月のCES 2026で改良型が公開された。2026年生産分はすでに全量契約が完了しており、Hyundai Motor GroupのRMAC(Robotics Metaplant Application Center)とGoogle DeepMindに出荷される。2027年からは追加顧客も確保する計画だ。
Boston Dynamicsのロボットラインアップと商用化の現状は以下の通り。
ロボット用途商用化の現状Atlas製造現場用電動ヒューマノイド2026年生産分は全量契約完了。2028年からジョージア州工場に投入、長期的に年間最大3万台の生産目標Spot産業施設点検用4足歩行ロボット2020年発売。2022年から福島第一原発の廃炉作業に投入Stretch物流・倉庫荷役ロボット2022年発売。DHL、GAP、H&M、A.P. Moller-Maersk系パフォーマンスチームなど顧客を確保
プラサド新CEOは「ロボティクス産業が重要な転換点にある中でBoston Dynamicsに加わることができ光栄だ」と述べ、「先端AIとロボティクスを融合して現実世界で意味のある価値を創出し、ロボティクスの適用範囲を産業全般に拡大することで、フィジカルAIの新たな飛躍を導く知能型システムを構築する」と語った。
Hyundai Motor Groupのチャン・ジェフン副会長兼Boston Dynamics取締役会議長は「Boston Dynamicsの業界をリードするロボティクス技術と、グローバル規模でAIを製品化してきたロヒットの能力、Hyundai Motor Groupの製造・物流・モビリティの能力が結合し、実際の産業現場でフィジカルAIを構築・拡張する強力な基盤が整った」とし、「ロヒットが会社を実際の現場におけるフィジカルAIの時代へと導いていくことを期待する」と述べた。
ボストンのネットワークも強み
プラサド新CEOがボストン地域で25年以上活動してきた点も、同社が期待を寄せる部分だ。ボストンは世界的な大学や研究機関、AI・ロボットスタートアップが密集するグローバルロボティクスハブである。Boston Dynamicsは、彼が築いてきた現地の学術・技術ネットワークが今後の核心人材の確保や外部技術協力、グローバル事業拡大において重要な資産になると見ている。
ロボット産業全体でハードウェア中心の開発からAIベースの自律運用へと重心が移りつつある流れの中で、今回の人事はBoston Dynamicsがソフトウェア能力を前面に押し出す転換点と解釈される。同社は新経営陣体制のもとでロボットとAIの融合を加速し、知能型ロボットの性能と活用範囲を拡大していく方針だ。