Claude Codeのセミナーが増え続けている。SNSには「月100時間の余白が生まれた」「もうコードは人間が書く時代じゃない」といった投稿が並ぶ。どこかで見た光景だ。仮想通貨、NFT、ChatGPT。名前が入れ替わるだけで、構造は変わらない。
先に立場を明かしておく。私はClaudeという生成AIを3年使い、今年4月にその実用書を出した。利害のある書き手である。
■道具のほうは、今年に入って性格が変わった
Claude Codeは、ターミナルで動くエージェント型のコーディングツールとして始まった。今はデスクトップアプリ、Web、スマホアプリでも動く。自然言語で指示すると、ファイルを開き、書き換え、保存し、Git操作まで自分でやる。ブラウザで使うClaudeが主に「相談相手」として使われるのに対し、Claude Codeは「作業者」として働く。
その作業者が、今年に入って一段と自律的になった。5月のアップデートで、達成条件を書くとそれを満たすまで自分でターンを回し続ける「/goal」コマンドと、複数セッションを1画面で管理する「Agent view」(研究プレビュー)が加わった。複数のエージェントを束ねるAgent Teamsも、実験的機能として用意されている(既定では無効)。そして、Claude Codeと同じ仕組みは、デスクトップ版のCoworkを通じて非エンジニアにも届いている。
つまり、間違えたときの被害の出方が変わった。相談相手として使えば、間違いは人の目を通ってから外に出る。作業者として任せれば、間違いはそのまま実害になる。そして、自走する作業者の間違いは、人が気づく前に積み上がる。今年2月に「Claude Code Security」の名で限定公開され、4月に「Claude Security」としてEnterprise向けの公開ベータに移った脆弱性検出機能が示すのは、作る速さだけでなく、壊れた箇所を見つける仕組みが同時に必要になったという現実である。
■セミナーのほうは、看板と中身が違う
先日、「Claude Codeの裏側を大解剖する」と銘打たれたオンラインセミナーを視聴した。SNSでシェアすれば無料で参加できるという触れ込みで、参加者は相当な数にのぼっていた。
始まると、講師の自己紹介と人生哲学が続いた。次は「自分のOSを作ろう」という話だ。自分の思考パターンを体系化してAIに入れれば、自分と同じ出力をするAIができるという。24時間の音声を録音してAIに食わせている、iPhoneで撮った音声が自動でポッドキャストになりSNS投稿まで生成される、といったエピソードが披露された。
さらに「AI時代こそパソコンの前を離れて体験を積め」「最新情報を追うのはやめたほうがいい」と続いた。半分ほどで視聴をやめた。そこまでの間、Claude Codeの「裏側」にも「大解剖」にも、一度も届かなかった。
一般論としては一考の価値があるのかもしれない。だが、ファイルを自分で書き換える道具の解説としては、ピントが外れている。筋トレをしないまま「筋肉の作り方」を売っているのに近い。
■なぜ「AI×自己啓発」は何度でも繰り返されるのか
AIは「よくわからないがすごそう」という曖昧な期待を集める。自己啓発は「あなたも変われる」という万能の文脈を持つ。AIは成果が見えにくく、自己啓発は成果を感じさせるのが得意だ。この2つが結びつくと、技術の中身がなくても「価値がありそうな空気」が成立する。受講者は学んだ気になり、主催者は満足度の数字を得る。
「シェアすれば無料」の仕組みも巧い。参加者を宣伝媒体にしながら、関心の高い見込み客を集め、高額の個別コンサルや継続講座へ誘導する。かつての情報商材と構造は同じだ。これは教育ではなくマーケティングだと、私は判断している。
Claude Codeは自然言語で指示できる。それは事実だ。しかし、自然言語で指示が出せることと、自然言語で正しい仕様が書けることは別の能力である。仕様を書く力は、プログラミングの基礎と地続きだ。
道具が自走するようになった分、この差の意味は重くなった。生成されたコードの品質を判断し、セキュリティの穴を見極め、本番に出すかどうかを決めるのは人間だ。達成条件を書けば満たすまで走る道具は、達成条件が間違っていれば、間違いを満たすまで走る。ブレーキの位置を知らないまま、以前より速い車を走らせることになる。
■必要なのは、相変わらず地味な2つの力だ
1つは、自分の業務の設計図を描く力だ。「なんとなくこうしてほしい」という曖昧な指示を、AIが誤解しない手順書に落とし込む。これができなければ、どれだけ高性能なエージェントも的外れに自走する。
もう1つは、AIの出力を批判的に検証する力だ。AIは自信満々に間違える。その間違いに気づけるかどうかは、自分の専門知識にかかっている。
どちらも地味で、一朝一夕には身につかない。だが、中身のない講座を売る側にとって最も不都合なのは、あなたがこの2つを身につけることである。
セミナーの申し込みボタンを押す前に、自分の仕事を1つ選び、その手順を他人に渡せる文章で書いてみてほしい。書けなければ、どの道具を手にしても結果は変わらない。書けたなら、その手順書がそのままClaude Codeへの最初の指示になる。明日やるべきことは、講座を探すことではない。手順書を1枚書くことだ。
尾藤克之(ITコラムニスト、作家)