日立製作所が2027年度に要件定義からテストまでの生産性を2023年度に比べて30%向上させる取り組みを推進している。
実現のカギを握るのが、2026年7月に発表したシステム構築の工程ごとに用意した専用AIエージェントと、それらを組み合わせて開発するためのAI駆動型SIプラットフォーム「Agentic AI Integration Platform」になる。既存システムのモダナイゼーションを含め、全プロジェクトに適用し、売り上げ3兆円超規模のデジタルシステム&サービスの約4割を占めるSI&サービス事業の次なる発展につなげ、進化させる考えだ。
SI事業は生成AIの進化によって、根本的なビジネスモデルの変革を迫られている。コーディングからテスト、設計、さらに要件定義へと適用範囲が全工程に広がり、生成AIはエンジニアの開発支援ツールから、AIエージェントが自律的に連携してシステムを構築する新たな段階に入った。
日立は2024年5月に「Hitachi GenAI System Development Framework」を発表し、生成AIを活用したシステム開発の標準化にいち早く取り組んだ。今回のプラットフォームはそれをもう一段進歩させたものになる。最大の違いはAIエージェントベースにしたこと。従来はエンジニアがプロンプトを入力して各工程の支援を受けるレベルだったが、新プラットフォームは複数のAIエージェントが協調・並列して自律的に動作する。
つまり、特定の工程を切り取ってAI化するだけでなく、システム開発のプロセス全体をAIエージェントたちが連携しながら推進していく仕組みにした。ミッションクリティカルな大規模システム開発にも適用できるようにしたという。生成AI特有のハルシネーションやセキュリティリスクを制御する機能を備え、開発規模の大小を問わず、適切なツールを選択して適用できる柔軟性を持っているという。
さらに過去の事例をナレッジ化し、エンジニア約3万5000人のうち約5000人を、ユーザーに張り付いて企画から稼働、運用までを支援する「日本版FDE(Forward Deployed Engineers)」チームの一員にし、ユーザーが求める成果と効果を達成する体制を敷く。AI戦略を練るAI&ソフトウェアサービスビジネスユニット AI CoE Head of AI CoEの元山厚氏によると、日本版FDEチームとは、米Palantir Technologiesが提唱する高度なAI技術と業務知識を併せ持ち、顧客企業の現場に入り込んで課題の発掘から課題解決、プロトタイプ作りを素早く実行する、いわばスーパーマン型FDEとは異なる。
日立は本場FDEをそのまま日本に持ち込むのではなく、顧客のドメイン知識に深い洞察を持つコンサルタント、高度な技術力を持つAIエンジニア、データサイエンティスト、そしてAIの生産性を管理できるプロジェクトマネージャーらがチームとして顧客の構想段階から入り込み、データを分析し、「次はこんなサービスを展開してはどうか」などと提案、実現させるチームを編成する。AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットでアプリケーションサービス事業部 テクノロジートランスフォーメーション本部 本部長を務める立川茂氏によると、工程ごとに高い技術力やノウハウを持つエンジニアがチームになって、目標達成に向けて取り組むという。
実は、限られた工程で生産性が200倍に向上した事例がある。だが、日立は2024年度から2027年度までに全工程の平均30%の生産性向上という目標を掲げ続けている。立川氏は「プロジェクトにはAIを適用しやすい領域と、そうでない領域が混在している。これら全てをカバーした上で、要件定義からテストに至る全工程を平均して30%引き上げる。これは以前からの目標だが、今回のプラットフォームによって、より確実に、より楽にその目標を実現できる」と述べた。
生成AIの性能向上からすると、30%の生産性向上は小さいように思える。だが、顧客にもたらす価値はあるという。顧客の要望に応えるITリソースが不足し、断った案件があったが、開発工数の圧縮で、浮いた人材を他に振り向けることが可能になる。
その一方、従来の3分の1の期間でシステムが完成するようになったら、SI企業の収益は3分の1に減少してしまう。顧客企業のそんな要求に、立川氏は「人に価値が出てくる部分については、きっちりと対価をいただく」という。
例えば、ダウンタイムなど稼働率を主要評価指標(KPI)とし、それに基づく報酬を得る成果報酬型の契約モデルなどの構想を持っている。現状は顧客側、SI企業側ともに価値に見合う金額を明示できていない。しかし、AI駆動開発が当たり前になる数年後を見据えれば、ビジネスモデルの変革は避けられないだろう。
エンジニアも求められるスキルが大きく変わる。コーディングのみを行うエンジニアの需要は減る。その一方で、「AIをどう組み込み、どう設計すれば最大の事業効果を生み出せるか」を描ける人材の価値は高まる。そんなエンジニアにリスキリングし、AIアーキテクト集団を形成する。それがSIビジネス勝者への1つの道になるのだろう。

(左から)元山厚氏、立川茂氏

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。
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