AIで蘇る、中国のマルクス経済学 | World Voice | ダイヤモンド・オンライン

AIで蘇る、中国のマルクス経済学天安門広場に掲げられたカール・マルクスの肖像

Dean Conger/gettyimages


資本主義化した中国は欧米同様のレント・トラップにはまっていったが、AI革命がその流れを変えるというマルクス経済学者が中国で現出している。A Iを製造業に活用する中国では、生産性が上がるにつれ、商品があふれ、交換価値が急落し、資産価格を押し上げなくなり、レント・トラップは消滅するというのだ。世界的ベストセラー『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相はその流れに注目すると同時に、課題を指摘する。


 中国が資本主義を受け入れたことにより、同国の有力大学は、西側で定番とされる教科書を採用して、学生たちに経済とは何かを教えるようになった。中国トップクラスの経済学部の教授は、「マルクス主義に触れるのは形だけという同僚も多い」と私に打ち明けた。「マルクスにまともに取り組んでいるのはごく一部にすぎない」


 こう聞いたのは2年前。しかし今日、AI(人工知能)革命が中国のマルクス経済学にとって力強い追い風となっている。


 中国のマルクス主義者らは以前からずっと、同国が資本主義へと舵を切る中で、欧米の経済ではお馴染みの「レント・トラップ」にはまるのではないかと危惧していた。すなわち、資産価格インフレ、急激な景気減速、景気停滞、産業空洞化、社会的対立の時代である。生産性の高いセクターにおける競争激化によって利益率が低下すれば、リスク加重収益の最大化を求める投資家にとって、レントを生み出す資産の魅力が増大する。


 富のレント志向が強まれば資産価格は上昇し、産業からレント資産への富の移動が加速する。こうしたレント・トラップによって産業は空洞化し、イングランド北部や米国中西部など、かつて製造業で隆盛を誇った地域は衰退する。


 不動産デベロッパー恒大集団の経営破綻により、中国はすでにレント・トラップ寸前の状態にある。同社の破綻は氷山の一角だが、中国経済の奇跡は台無しになりかけた。国内の御用学者たちはそうした懸念を一笑に付し、西側諸国の政府と違って、中国政府は直接投資を通じてレント・トラップを回避する方法を心得ていると信じている。彼らが指摘するのは、[レアメタルなど]重要鉱物やグリーンエネルギー、電気自動車、高速鉄道、半導体、そしてもっと最近ではAIといった成功例だ。


 中国の経済学者としては少数派ではあるが、今もマルクス主義に忠実な人々は、中国政府がいかに有能でもレント・トラップをうまく回避するのは難しいのではないかと懸念している。2025年初頭、私はこうした経済学者の数人から、中国の巨額の貿易黒字は中国と西側諸国の労働者に対する悪質な階級闘争の結果であり、利益を得たのは中国と西側諸国双方の資本家だけだと捉えている、と示唆された。


 中国の新興資本家階級が貿易黒字をもとに積み上げた約170兆元(25兆ドル)もの貯蓄を資産購入に回しているならば、中国でもレント・トラップは避けがたくなる。これに代えて、その貯蓄をたとえばBRICS+諸国やアフリカなど海外に投資すれば、中国は西側諸国の先例のように開発途上国からの余剰利益を吸収するレンティア国家になれるが、これはマルクス主義がめざす目標とは言いがたい。


 また、そうやって貯蓄を海外に送り込むことで、中国の預金者はかつてのドイツの預金者と同じく、いずれは他国の借り手の気まぐれに振り回されることになってしまう。これもやはり魅力的な将来像ではない。


 中国のマルクス経済学者は、主として英米系の経済学者が提案するお決まりの政策にも同じような不安を抱いている。つまり、中国がレント・トラップを回避するには官民ともに国内消費を増大させるべきだ、という考え方である。中国のマルクス主義者は、消費中心主義によって中国が資本主義特有のレント・トラップを持続的に回避できるのか危ぶんでいる。ある経済学者は私に、「ガルブレイスの『豊かな社会』を読んだが、消費中心主義のトレッドミルをどんどん速く回していくというのも、それはそれで地獄だなと悟った」と語った。


 中国のAI搭載ロボットのおかげでマルクス経済学者が表舞台に復帰しつつあるというのは、どういう理屈か。それを理解するには、「余剰価値を生み出すのはただ人間の労働のみである」というマルクス経済学の基本的な教義に立ち戻る必要がある。


 商品の価値は、現時点での技術や専門能力に応じて、それを生み出すために必要な最小労働時間を反映している。資本家が余剰価値を搾取できるのは、唯一、人間からであって、機械からではない。産業機械は非常に有用ではあるが、機械を組み立てた人間がそこに投入する価値を移転しているにすぎない。


 蒸気機関の発明以来、機械が人間の労働を徐々に代替していくにつれて商品の価値は低下していき、利益率は縮小し、レント・トラップは深刻化していった。やがて価値創出を回復するために、資本主義は労働供給を縮小させるための戦争か、人件費を低下させるための重大な危機を必要とするようになった。これがマルクス主義による資本主義批判の定番である。