Sakana AI、海外AIモデルを「日本仕様」に変換する技術を確立 回答拒否率72%→ほぼ0%に — BigGo ファイナンス

日本のAIスタートアップ、Sakana AIは3月24日、海外で開発された高性能な大規模言語モデル(LLM)を、日本の文化的・社会的文脈や安全性の要件に適合するよう調整した試作モデルシリーズ「Namazu」(α版)を開発したと発表した。同時に、このモデルを搭載した一般向けチャットサービス「Sakana Chat」も公開した。同社は、適切な「事後学習」技術により、海外モデルに内在するバイアスを是正し、日本国内での利用に適した振る舞いを実現する手法を確立したとしている。

Namazuシリーズは、中国のDeepSeek-V3.1-TerminusやMetaのLlama 3.1 405B、gpt-oss-120Bといった、開発時点で高い性能を持つ複数のオープンウェイトモデルをベースとしている。特定のモデルに依存しない設計であり、今後も新たな基盤モデルに柔軟に適用可能な点が特徴だ。

Sakana AIが取り組む核心的な課題は、海外のオープンモデルをそのまま日本で利用する際に生じる問題の解決にある。同社によれば、海外モデルには開発元の地域のイデオロギーや情報統制の傾向が反映されており、特に政治・歴史・外交といったデリケートな話題に対して、回答を拒否したり、中立性・正確性を欠いたりする傾向があるという。

この課題を克服するため、同社は日本の文化的・社会的文脈におけるバイアス是正のための独自データセットを構築し、事後学習を施した。その結果、Namazuモデルは「基礎能力」「中立性および事実正確性」「日本語能力」の3つの観点で評価され、顕著な改善が確認された。

基礎能力(推論、知識、コーディングなど)については、ベースモデルとほぼ同等の性能を維持し、能力の継承に成功した。

最も注目すべきは、中立性と事実正確性の評価結果である。日本と他国に関連する政治・歴史・外交テーマについて、独自ベンチマークで評価したところ、Namazuはベースモデルに比べ、回答の中立性と正確性の双方において顕著な改善を達成した。具体的な数値として、ベースモデルの一つであるDeepSeek-V3.1-Terminusは、関連する質問の72%に対して回答を拒否していた。これに対し、事後学習を施した「Namazu-DeepSeek-V3.1-Terminus」では、こうした話題に対する回答拒否がほぼ0%にまで改善したという。

評価項目ベースモデル (例: DeepSeek-V3.1-Terminus)事後学習後モデル (Namazu)デリケートな話題の回答拒否率72%ほぼ0%中立性・正確性開発元地域の傾向が反映される可能性独自データセットによる是正で顕著に改善基礎能力高い性能を有するほぼ同等の性能を維持

Sakana AIは、この結果について「モデルが本来持つ高い能力を損なうことなく、外部的な制約を技術的に取り除くことで、客観的な事実に即した多角的な応答を実現できることを示している」と説明する。例えば、「各国で行われている政府によるインターネット検閲について教えてください」という質問に対しても、海外モデルでは回答を避けたり曖昧にしたりする「自己検閲」の傾向が見られるが、Namazuは事後学習により、客観的な事実に即して多角的に応答するという。

日本語能力についても、主要な日本語ベンチマーク(Nejumi Leaderboard、Swallow LLM LeaderBoard v2、JamC-QA)で評価した結果、ベースモデルや同規模サイズの他社モデルと同等程度の性能を達成したとしている。

今回の発表と同時に公開された「Sakana Chat」は、Namazuモデルを実際に体験できるチャットインターフェースだ。最大の特徴はWeb検索機能を統合しており、ユーザーの質問に対してリアルタイムで情報を収集・統合した回答を生成することが可能となっている。これにより、最新の情報に基づいた応答が期待できる。同サービスは一般公開前に約1000人を対象にβテストを実施しており、今後は利用を通じてモデルやサービスの改善を進めていく方針だ。

Sakana AIは、今回のプロジェクトを通じて、適切な事後学習により大規模モデルを各国の安全要件へ適応可能であることを確認できたと総括している。今後は得られた知見を基に、モデル開発の高度化と、複数モデル・エージェント技術の統合によるAI活用の拡張を進めていく。また、技術詳細をまとめたテクニカルレポートの公開や、一部モデルのウェイト(重み付けデータ)の公開も予定している。

この取り組みは、AIモデルの「グローバル性能」と「ローカル適応」を両立させるための重要な一歩と位置付けられる。各国の法規制や文化的価値観が多様化する中、単一の巨大モデルが世界をカバーするのではなく、地域ごとに最適化されたモデルを効率的に生成する技術の需要が高まっている。Sakana AIのアプローチは、既存の高性能オープンソースモデルを活用しつつ、短期間で地域特化型モデルを構築するための実用的なソリューションを提示した点で、産業界から注目を集めそうだ。