安価な中国製に対抗する米国勢とエヌビディアの支援、問われる技術自律
![]()
著者フォロー
フォロー中
2026.8.19(水)
米ハーバード大学から名誉理学博士号を授与されたジェフリー・ヒントン氏(5月28日、写真:ロイター/アフロ)
8月上旬にかけて、最先端のAIモデルを巡る米中間の対立が新たな局面を迎えた。
強力なAIの出力を利用して小型モデルを学習させる「モデル蒸留」を巡り、中国企業による技術の無断抽出を非難する米国と、不正利用を否定する中国との間で摩擦が表面化している。
一方、米国のスタートアップ企業は、安価な中国製オープンモデルに対抗するため、独自のオープンウェイトモデル開発を進めている。
だが、米ベンチャーキャピタル(VC)の資金がクローズド型モデル開発企業に集中しており、資金調達の難航が課題となっている。
「モデル蒸留」を巡る無断利用疑惑と米中対立
そもそも「モデル蒸留(model distillation)」とは、「AIの父」と呼ばれるジェフリー・ヒントン氏らが2015年に提唱した概念である。
大規模な「教員モデル」が出力した回答や推論プロセスを学習教材として用い、その知識の本質を抽出・凝縮し、効率的な「生徒モデル」を開発するものである。
これは、従来から学術研究分野で広く活用されてきたが、昨今は非公開型(クローズド)モデルの機能を無許可で再現する手法として議論を呼んでいる。
(関連論文)「Distilling the Knowledge in a Neural Network(arXiv)」
米アンソロピックや米オープンAIは、中国AI企業が組織的に、両社のモデルから機能を抽出していると指摘している。
さらに米ホワイトハウスのマイケル・クラツィオス科学技術政策局長は、中国の月之暗面(ムーンショットAI)が開発した大型モデル「Kimi K3」について、アンソロピックの「Claude Fable(クロード・フェイブル)5」を蒸留した情報(証拠)があると述べた。
これに対し、中国企業側は無許可での機能抽出や不正利用の事実を否定している。
こうしたなか、米政府は、高度な推論プロセスの流出は知的財産や安全保障に直結するとし、警戒感を強めている。
規制下で計算資源を確保する中国勢
米政府による先端半導体の輸出規制が続くなかでも、中国企業は計算資源の確保と大型モデルの開発を進めている。
英ロイター通信によると、ムーンショットAIは出資元である中国アリババ集団との協定を通じ、米エヌビディア(NVIDIA)製GPU(画像処理半導体)の旧世代シリーズ「Hopper(ホッパー)」約2万基の計算クラスターを利用している。
加えて、東南アジアを経由し、エヌビディアの現行最先端シリーズ「Blackwell(ブラックウェル)」へのアクセスも試みているとされる。
ムーンショットAIが7月に公開した「Kimi K3」は2兆8000億のパラメーターを持つオープンウェイトモデルであり、米国の最先端モデルに迫る性能をアピールしている。
中国勢が安価で高性能なモデルを配布する背景には、米国の技術圏に対抗し、自国主導のエコシステムを拡大する狙いがある。