OpenAIのCodex/ChatGPT Work向けデバイス「Codex Micro」
OpenAIとWork Louderが共同開発した「Codex Micro」を購入した。13個のメカニカルキーにジョイスティック、ダイヤル、タッチセンサーを備え、価格は230ドル(送料込みで約46,000円)。見た目は左手デバイスの一種だが、実際に使うと、単なるショートカットではない。AIエージェントの仕事を手元に可視化し、自分の働き方まで変えろと迫ってくる装置だった。
13個のキーを備えた「AIエージェントの司令塔」
複数のAIエージェントに仕事を任せ、その進行状況を監視し、必要になったら介入する――。そんな「並列ワーク」を補助するためのデバイスが、OpenAIがリリースしたハードウェア「Codex Micro」だ。
OpenAIの物販ブランド「Supply Co.」とWork Louderのコラボレーションから生まれた限定製品で、13個のメカニカルスイッチのほか、4方向ジョイスティック、回転式ダイヤル、タッチセンサーを搭載する。USB Type-CとBluetoothに対応し、WindowsとmacOSで利用できる。Codexという名前だが、一般的なタスク向けのChatGPT Workでも利用できる。


左から上部、側面、背面
中心となるのは、タスクと連動する6つの「Agent Key」だ。タスクを投入すると青、入力が必要になるとオレンジ、完了して未読の状態になると緑に光る。画面を開かなくても、どの仕事が動き、どこで人間を待っているのかがわかる。
タスクの状態によってAgent Keyの色が変わる
ほかのキーからは承認、拒否、会話の分岐、音声入力などを実行できる。ジョイスティックには新しいチャットやフォルダーを開く操作などを割り当てられ、ダイヤルでは推論レベルを変更できる。OpenAIが「エージェント型ワークのコマンドセンター」と呼ぶ通り、複数のAIを手元で扱うための物理的な操作盤である。
・OpenAIの公式製品ページ
白いままの5つのキーが、仕事のムダを指摘してくる
使い方は簡単だ。USB接続ならPCに接続するだけで認識し、デスクトップ版のChatGPTアプリで認識され、利用可能になる(他のアプリで利用する場合は「input」アプリも必要)。
ChatGPTのデスクトップアプリで利用可能
例えば、ChatGPT Workに調査タスクを入力し、ウィンドウを最小化する。すると、Codex Microの上部のAgent Keyが青く点滅し始める。画面からChatGPT Workは消えても、AIが裏で働いていることは手元の光でわかる。
しばらくすると、青だったキーが緑に変わる。少し重めのメカニカルキーを、カチ、カチと2度押しする。すると該当するChatGPT Workのウィンドウが前面に開き、結果を確認できる。するとステータスが確認済みになり、キーの色も白に変わる。

タスク実行中は青、完了(未確認状態)になると緑になる
もちろん、追加の指示を出して再び最小化すれば、キーはまた青く光る。また、タスクにユーザーの判断や入力が必要な場合はオレンジに光る。こうした一連の操作を繰り返すことでタスクを進めていくわけだ。
ところが、キーを眺めているうちに、ひとつ気になり始めた。「たったひとつしかキーが青くなっていないのは、ムダじゃないか?」。
6つのAgent Keyのうち、働いているのはひとつだけ。残り5つの白いキーを見ると、まるで仕事を与えられず、部屋の隅でぼんやり立っている5体のロボットに見えてくる。すると、それだけの働き手を用意しながら、ひとつのタスクが終わるのを待っている自分だけが、古い働き方に取り残されているような、何とも居心地の悪い感覚になってきた。
AI時代になって働き方が変わったと言われるが、自分の働き方はまだ変わっていない。そう、5つの白いキーから無言で指摘された気がした。
並列化できなかったのではない。していなかった
もちろん、AIエージェントなら、複数タスクを並列に実行できて当たり前である。そうわかっているつもりでも、実際にAgent Keyがひとつしか青くなっていない状況が可視化されると、ひとつのタスクを投入し、結果を確認してから次へ進むというスタイルが身についてしまっていることに気づかされる。おそらく、その方が楽だからだ。
筆者はフリーランスのライターとして、そろそろ30年になる。複数の記事を抱え、取材、調査、検証、執筆、図版、校正を細分化し、締め切りや生活時間に合わせて進めることには慣れているつもりだった。これをChatGPT Workのタスクに割り当てれば、並列でタスクを実行することができる。
しかし、実際にはそうしてこなかった。並列化すればより多くの案件を受注し収入を増やすことはできるが、正直、それよりも「楽であること」を自然に選んでいたわけだ。できると知りながら、知らず知らずのうちに慣れた直列型の進め方を選んでいたことになる。
Codex Microによって、この状況と正面から対峙せざるを得なくなった。青く光るキーの数によって自分が今取り組んでいる仕事の「量」が可視化され、白いキーばかりになるとAIエージェントを効率的に活用できないことを認識させられる。
この状況が続くと、「そっちはマダか?」、「もっと仕事をさばけるぞ」、「どうした?」とCodex Microに言われているような気分になってくるわけだ。
「時短」ではなく、同時にこなせる案件が増える
従来の生成AIで実感しやすかったのは、ひとつの作業が速く終わるという「時短」の効果だ。しかし、複数のAIエージェントを並行して動かしてみると、インパクトは時間よりも量に現われる。タスクの分担と人間が確認するタイミングがうまくかみ合えば、自分の能力が2倍、3倍に拡張されたように感じられる。
例えば、筆者の仕事で言えば、まず締め切りの近い原稿を見直すために校正作業をChatGPT Workへ投入する。別のキーとして新しい企画のための製品仕様と公式資料の収集を依頼し、さらに別のキーにはテストの結果データや画面、検証ログの整理を依頼、さらに取材の文字起こし論点を拾う仕事を割り当てる。そのうえで、自分は構成を考えたり、AIには任せにくい感想や評価部分を書いたりする。
Codex Microは、この流れの中で「タイミングをうまくかみ合わせる」ための進行役として機能する。青く点滅していたキーが緑に変われば、手を止めやすい区切りで2度押しし、結果を確認する。十分なら次の工程へ渡し、足りなければ追加指示を出して再び最小化する。入力待ちのオレンジが見えれば、そこで初めて人間の判断を差し込む。常にChatGPT Workの画面を監視する必要はない。原稿のためのキーボードの脇で、着々と仕事が進んでいることだけがわかる。
Codex Microがあると複数のタスクの進捗をうまくかみ合わせることができる
もちろん、タスクの状況はChatGPTアプリや画面上の通知でも確認可能だが、メイン作業のデスクトップから、こうした通知を消すことで、一時的に意識から消すことができる。物理キーの光は、通知のように作業へ割り込まず、それでいてタスクの存在を完全に忘れてしまうことを防げる。このバランスが絶妙だ。
仕事を適切に分解する能力が求められる
ただし、AIへ次々とタスクを投げるだけでは仕事は回らない。Codex Microを使うほど、事前の計画が重要であることがわかってきた。ひとつの依頼に調査、判断、執筆、校正まで詰め込めば、実行時間が長くなり、途中で何を確認すべきかも曖昧になる。逆に細かく分けすぎれば、指示と確認の回数ばかりが増える。
筆者の場合は、成果物をそのまま依頼するのではなく、人間の判断なしで進められる単位まで切り出すことが重要だとわかった。例えば「製品レビューを書いて」ではなく、「公式情報から仕様と制約を抽出する」、「計測ログを条件別に整理する」、「競合製品との差分候補を挙げる」と分ける。それぞれに参照資料と完了条件を与え、戻ってきた結果を自分が記事の構成へ組み込む方が効率的だとわかってきた。
Codex Microの6つのAgent Keyは、同時に6件を走らせるためのノルマではない。こうした並列作業のコツを身に付けるための補助器具、もしくは自分が無理なく判断できる量を見極めるためのメーターと言える。最初は2件、慣れたら3件と増やし、緑やオレンジがたまり始めたら新しい投入を止める。この程度のルールでも、並列化はかなり安定する。
2~3件の並列で初めて、オレンジや緑がたまり始めたら人間側に余裕がなくなっていることがわかる
考えなしにタスクを増やせば、成果物が一斉に完成し、人間側にレビュー待ちの行列ができる。前提がずれたまま関連タスクを走らせれば、手戻りも増える。AIより先に、人間の判断能力が限界を迎えることになる。
作業を終え、確認待ちの緑で光るキーが増えていくと、昨日まで、仕事を与えられず、部屋の隅でぼんやり立っている5体のロボットたちが、今度は完成した成果物を手に、筆者の周りを取り囲んでいるように見えてくる。「こちらの確認はまだか」、「次へ進めていいのか」と、せかされているように思える。
なので、人間はプレーヤーとして自分のコアの作業を並行させつつ、AIエージェントをマネジメントすることが重要になってくる。筆者の仕事の場合なら、原稿を書くというコアの仕事は人間が維持し、並列化しやすい資料収集、ログ解析、比較表作成など、互いに依存しない仕事をいかにAIエージェントに振り分けるかが重要になる。このあたりは、人間の同僚と一緒に仕事をするのと変わらない印象だ。
つまり、白いままのAgent Keyもムダだが、すべてのキーを青く光らせることだけに固執すると、人間がオーバーフローに陥り、逆に効率が悪くなることになる。
4万円の左手デバイスを買う意義
Codex Microは、普通の左手デバイスとしてよくできている。レイヤー1はCodex Micro用だが、レイヤー2とレイヤー3で自由にキーやダイヤル、ジョイスティックの割り当てを変更できる。コピー&ペーストやアプリ起動を登録すれば、一般的な左手デバイスとしても使えるし、PremiereやIllustratorなどのプリセットも用意されている。

3つのレイヤーでキーマップを変更可能。特定のアプリ向けのプリセットも用意される
ただし、それだけならもっと安いマクロパッドで代用できる。
230ドル(日本円で4万円以上)を支払う意味は、AIエージェントの状態を可視化し、プレーヤー兼マネージャーとして、自分の仕事の組み立て方まで見直させられる点にある。
開発元の「Work Louder」という名前からは、仕事の過程を可視化し、チームで共有する「Working Out Loud」を連想する。ところが、個人で使えば、人間のメンバーは自分しかいない。AIへ仕事を割り振るのも、進捗を確認するのも、続きを判断するのも自分だ。
使い始めた当初、白いままのキーからは「もっと働け」と言われているように感じた。しかし、実際に複数のタスクを走らせてみると、すべてのキーを青く光らせればよいわけではないこともわかった。緑やオレンジのキーがたまれば、今度は人間側が仕事全体を止めてしまう。
Codex Microが迫ってくるのは、単純に仕事量を増やすことではない。どの仕事をAIに任せ、どこで自分が判断し、いくつまで同時に動かすのかを考えろ、ということだ。
つまり、13個のキーが発しているメッセージを正確に言い直すなら、「もっと働け」ではなく、「もっと上手に仕事を回せ」なのかもしれない。便利な左手デバイスの姿をしながら、長年かけて固まった働き方そのものを問い直してくる。Codex Microとは、そういう少し恐ろしいデバイスなのである。