Tecnologia e Cuore「DS-TC52B」
テクノロジア・イ・クオーレ(Tecnologia e Cuore)と、ちょっと舌を噛みそうな聞きなれないメーカーのスピーカーを聴く機会を頂きました。ですが、どこか見たことがありそうで、音も聴いたことがあるような……。ちょっと不思議な新しいメーカーのスピーカー「DS-TC52B」(ペア437,800円)をご紹介します。これ、ホントにイイんですよ。
DIATONEの遺伝子を継承するスピーカー
舌を噛みそうな社名は、イタリア語で「技術(Tecnologia)と心(Cuore)」という意味なのだとか。2023年11月に大阪で誕生しました。創業者の佐藤さんは元・三菱電機のエンジニアで、DIATONE 70周年記念モデル「DS-4NB70」を企画された方なのだそうです。DS-4NB70については、当時の記事をご参照ください。
不肖はこのスピーカーについて詳しくは知らないのですが、写真で見る限りかなり似ている様子。なるほど、見たことがある気がしたのは、そういうことだったのですね。
ですがウーファー口径はDS-TC52Bの方が小さく、それゆえエンクロージュアも174×210×302mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。ですが持ってみると5.1kgと意外と重く、木のぬくもりと共に「コレはイケそうだな」という手応えアリアリです。

サランネットはマグネット式
ちなみにエンクロージャーは30mm厚のロシアンバーチの積層合板で作られているそうで、表面には綺麗な突板とクリアー塗装がなされています。サランネットはマグネット式なので、表面にダボ穴がなくスッキリすべすべです。
背面。バスレフポートはやや上の方に配置
バスレフポートは背面の上側、ややオフセットした位置に配置されています。左右チャンネルを並べると、左右対称ではありませんでした。このオフセット具合に、何か音響的な秘密があるのでしょう。
ターミナルはシングルワイヤリング接続専用
スピーカーターミナルはシングルワイヤリング接続専用。ターミナルポストは大型の真鍮製。カーボン材が巻かれていて高級感があります。シッカリとした造りで、太いスピーカーケーブルもシッカリと取り付けできそうです。
13cm径ウーファーユニットの振動板
13cm径ウーファーユニットの振動板は、三菱電機が開発したカップ積層型カーボンナノチューブ「CSCNT」と数種類の樹脂を配合した「NCV-R」という聞きなれない素材が使われているとのこと。
なにやら金属を凌ぐ伝搬速度でありながら紙と同等の内部損失をあわせ持つという素材だそうです。「三菱の社員じゃないのに使えるの?」というと、キチンと使用許諾契約を結んでいるとのこと。磁気回路にはネオジム磁石が奢られています。
3cmコーン型ツイーター
3cmコーン型ツイーターの振動板もNCV-R。こちらも磁気回路にネオジム磁石を使用しています。
これらのユニットを結ぶネットワーク回路には、コダワリの部品がいっぱい。コイルは空芯コイルを使うことが多い中、直流抵抗(DCR)低減のためアモルファスコアの特注品をウーファー側に使用(ツイーター側は空芯コイル)。
コンデンサーも一般的には400V以下の耐圧コンデンサーが使われることが多いなかで、誘電吸収の低減や低ESR(等価直列抵抗)化が図られることから、800Vという高耐圧品をセレクトしているとのこと。内部配線材は英国CHORD社やアコースティックリバイブのTriple C単線が使われているそうです。
素材に対するコダワリがいっぱい詰まった小さなDS-TC52B。技術(Tecnologia)の方はわかりました。では、心(Cuore)の方はどうなのでしょう。聴いてみることにしました。
日本人の琴線に触れる音
ネットワークプレーヤーはオーレンダー「A1000」、プリメインアンプはオーラ「VA200 Stingray」
試聴は拙宅で行ないました。ネットワークプレーヤーにaurender「A1000」、プリメインアンプにAuraの「VA200 Stingray」を用意。DS-TC52Bの取扱説明書によると「壁からの距離は50cm~1.5m、スピーカー間の距離と聴取位置は1.5~3mが目安」とのこと。なので、左右と後ろの壁から1m、スピーカー間隔は1.5mにセット。試聴距離は1.5mとしました。

明るくレゾリューションの高いハイスピードサウンド。美味しい岩清水を口に含んだ時に似た清涼感と甘さを感じます。不思議なのは、文頭に記したとおり、どこか懐かしさというか、肌合いがシックリくること。
DIATONEのスピーカーは、ベテランのお宅で拝聴した1990年代のモデルか、自作箱に入れたP-610(ロクハン)しかなく、記憶の中のそれらとDS-TC52Bの音は大きく異なるように思うのですが……。きっと日本人が作るスピーカーだからこそ、日本人の琴線に触れるのでしょう。
リッキー・リー・ジョーンズのPOPPOP
1曲目はボーカルチェックでよく聴く、リッキー・リー・ジョーンズのPOPPOPからジャズバラードの「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」をチョイス。音源はQobuzのハイレゾです。
リッキー・リー・ジョーンズの「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」
スピーカーがそっと甘く美しい音世界を描くという印象。可愛らしい歌声を、軽いギターと深く沈むベースが色どりを添え、純粋でフレッシュな印象を際立たせます。音の消え際もとてもとても綺麗で、きっと誰もが「イイ音を聴いたなぁ」と感心されること間違いナシ。
ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」
編成の大きな音楽を聴いてみましょう。ステレオサウンドの11.2MHzのDSD音源を収録したハイレゾBD-ROMシリーズから、ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」を聴いてみることにしました。
ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」
まさに観えるかのような三次元的音響空間が出現! 「謝肉祭の市場」は、明るく煌びやかな音色で魅了されっぱなしです。
情報量の多さには思わず笑ってしまうほどで、ツイーターとウーファーの音のつながりがとてもよく、金管楽器の鋭さと弦楽器の切れ味がバツグンで聴き応え十分。陽性の音色と相まって、これまた「イイ音を聴いたなぁ」と心底思いました。
デスクトップでも使える!?
デスクトップにも設置してみた
この小さなスピーカーを、PCモニターの両サイドに置いてみたところ、これがアリよりのアリの大アリ! むしろ、こちらの方がシックリ来るのでは? と思えるほどなのです。
というのも、小音量時のリニアリティがバツグンである上に、ツイーターとウーファーのユニット間距離が短いことや振動板素材が同じことから、よりフルレンジ的な良さが引き立つのです。この時、ツイーターの高さを耳と同じ位置にするのが肝要です。
LINNのMAJIK DSM
ということで、LINNのネットワークプレーヤー内蔵プリメインアンプであるMAJIK DSM(第三世代)とつなげてみたところ、陽性のキャラクター同士が相乗効果を生み、愉しさ最大級。
AURAのプリメインアンプは増幅段にMOS-FETを用いるためか暖色系のもちっとした音触で、それはそれでいいのですが、DS-TC52BはクラスDアンプのようなスッキリサッパリ系のクラスDアンプの方が合うのかな、と。こうした組み合わせって難しいですが、それゆえ「オーディオって面白いなぁ」と想い、やめられない止まらないわけです。

映画が大ヒットしているマイケル・ジャクソンから、YouTubeの公式チャンネルで公開されているBADのミュージックビデオを鑑賞しました。
Michael Jackson – Bad (Official Video)
冒頭のドラマ部分は、モノクロームの映像とマイケルの演技により緊張感いっぱいのシーンが続きます。そのセリフや周囲のざわめきを余すことなくヒリヒリと伝えます。優れたスピーカーは音楽だけでなく、ドラマや映画の鑑賞にもピッタリです。
映像に色がつき、切れ味鋭いビートと共に楽曲がスタート。ショートフィルムは、ジミー・スミスの長いオルガンソロをはじめとして、シングル盤とは異なるバージョンで魅力がいっぱい。当時最新のワークステーションであるシンクラビアをフルに活用したサウンドデザインを、DS-TC52Bは気持ちよく表現します。
圧巻は演奏後のアカペラパート。マイケル・ジャクソンのカッコ良さ、声質の良さ、足でリズムを録る音を、後を引かずにスパッと鳴らします。そう、この曲は切れ味がよくないとね。
このスピーカーを作った佐藤岳さんは、きっと絶対、音楽が好きで好きでたまらない人なんだろうな、と思います。海外勢に押されてスピーカーを作る国産メーカーが少なくなっている中において、テクノロジア・イ・クオーレの存在はとても貴重。なにより海外製にはない肌合いの良さに、心底惚れたのでありました。
三菱電機でDIATONEを手掛けてきた佐藤岳さん