業務文脈を理解し、自ら処理を進める「AIエンジン」への大きな一歩、「kozokaAI受注エージェント」 ~藤井 星多氏 株式会社kozokaAI 代表取締役社長 – アイマガジン|i Magazine|IS magazine

藤井 星多氏
株式会社kozokaAI 代表取締役社長
株式会社MONO-X 代表取締役会長

MONO-Xを率いてきた藤井星多氏は、AIエージェント事業に専念するため新会社を設立し、その半年後となる今年4月、第1弾製品となる「kozokaAI受注AIエージェント」をリリースした。同氏はこれまでにも、独自のビジョンのもと、「PHPQUERY」や「API-Bridge」を自社開発し、成功へ導いてきた実績を持つ。同氏に、AIエージェント市場にかける思いと今後の目標、さらに事業戦略について聞いた。

 

人が“翻訳者”として介在する業務を
AIによって構造化し、再設計する

i Magazine(以下、i Mag) 最初に、MONO-XからAI事業を切り離してkozokaAIを設立した経緯からお聞かせください。

藤井 オムニサイエンス(現MONO-X)では、2021年にIBM iユーザー向けのIBM Power Virtual Server移行支援事業と、API連携サービス事業を立ち上げました。当時のIBM i市場では、クラウド移行や外部システムとのAPI連携はまだ一般的ではなく、新規性と市場性の両面で大きな可能性があると考えていたのです。実際、それらのサービスは市場ニーズとも合致し、事業として順調に成長していきました。今後も一定の成長率を保ちながら、安定的に拡大していくと見ています。

ただし、事業の成長性は、立ち上げから1年もすればある程度見えてきます。そうした中で私は、企業価値をさらに飛躍させていくためには、既存市場の延長線上だけではなく、新しい市場そのものを生み出す領域への投資が必要だと感じるようになっていきました。

そんなことを考えていた2022年末に、ChatGPTが登場しました。私はかなり大きな衝撃を受けました。これは単なる業務効率化では終わらず、基幹業務そのものの構造を変える技術だと感じたのです。

その頃から私は、既存事業を成長させながら、生成AI領域の事業を「次の成長エンジン」とする構想を持ち始めていました。当時、社内には次のようなことを発信していました。

・RPGとオープン言語の障壁は消滅するのではないか
・開発という行為自体が大きく変わり、将来的には“開発”そのものが消滅に近づくのではないか
・業務システムそのもののあり方が根本から変わるのではないか

i Mag 今まさに、多くの人が感じ始めていることですね。

藤井 はい、実際にそうなりつつあるかと思います。そして2023年の段階で、AI時代を見据えて会社そのものを変えていく必要があると考え、社名をオムニサイエンスからMONO-Xへ変更する意思を固めました。これは単なるリブランディングではなく、人月型の開発支援事業から脱却し、プロダクトとAIを中心とする会社へ舵を切るという意思表示でもありました。

i Mag そして実際にSES事業を売却されました(2024年3月)。それは経営リソースを次の成長領域へ集中させるための施策だったのですね。

藤井 その通りです。そして2025年にAIエージェント事業への投資を本格化し、より幅広い企業へAIサービスを提供する、AIネイティブな新会社としてkozokaAIを立ち上げました。

i Mag 社名には、どのような思いを込めているのですか。

藤井 kozokaAIという社名には、「非構造化データを構造化する」という事業領域と、その思想を込めています。

お客様企業の現場には、FAX、メール、PDF、画像、映像、音声、会話など、コンピュータがそのままでは理解できない情報が膨大に存在しています。従来の業務システムは、それらの曖昧な情報を人間が1つひとつ「コンピュータが理解できる形」に翻訳することで成り立っていました。だからこそ、大量の入力作業が発生していたのです。

しかし、その状況はLLMの登場によって大きく変わろうとしています。AIが曖昧な情報を理解し、判断し、自律的に処理できるようになってきたからです。つまり、「入力する」という行為そのものを不要にできる可能性が見えてきたのです。

人間が“翻訳者”として介在し続けなければ成立しなかった業務そのものを、AIによって構造化し、再設計していく。それがkozokaAIの目指す世界です。

AIエージェント事業と
FDE支援サービスの2つを展開

i Mag 具体的には、どのようなビジネスを展開しているのでしょうか。

藤井 事業としては、多くの企業に共通する汎用性の高い定型業務を自律的に遂行するAIプロダクト群を開発する「AIエージェント事業」と、お客様ごとの課題に応じたAIエージェント実装や既存システムとのシームレスな連携を支援する「FDE支援サービス」の2つを展開しています。

その中で特に注力しているのが、非構造化データをAIによって構造化する領域です。2026年4月にリリースした「kozokaAI受注AIエージェント」では、その構造化の精度を高めるため、プロンプトの設計や、修正データや販売履歴データなどをAIに参照させる仕組み、さらには人が最終確認した内容を次回以降の処理へ反映するヒューマン・イン・ザ・ループの仕掛けや、高精度化したデータを他社システムや外部サービスと連携させる機能の開発に取り組みました。

私たちは、この一連の処理フローは受注登録業務に限らず、多くの企業業務に共通すると考えています。たとえば、見積作成時の商品特定業務や、仕入先からの納品書と発注内容の照合などにも同様の仕組みを適用できます。つまり、このAIエージェントがもつ構造化・学習・連携の仕組み自体が、将来的には既存の業務アプリケーションを置き換えていく可能性を秘めているのです。そうした展望のもと、現在はまず受注業務の領域から展開を進めている段階です。

業務文脈を理解し、判断し、
処理まで進める「AIエンジン」の開発へ  

i Mag 単なるAI-OCRではなく、その先まで見据えているのですね。

藤井 私たちが目指しているのは、従来型のアプリケーション開発を「AIを使って効率化すること」ではありません。LLMを中心に据え、「自律的に判断・実行するAIを業務へ組み込むこと」です。言い換えれば、業務文脈を理解し、判断し、処理まで進める「AIエンジン」を構築したいと考えています。その先にあるのは、単なる入力業務の自動化ではありません。最終的には、基幹システム前工程の人が担ってきた入力・確認・照合作業をAIへ移管し、人がより本質的な業務に集中できる世界を目指しています。

ただし、その実現には、単純に非構造化データをAIに投入するだけでは不十分です。重要なのは、AIが実務の中で継続的かつ自律的に機能するための「エージェンティックなアーキテクチャ」です。

そのためには、帳票や音声などの非構造化データを読み取るだけでなく、マスターデータや過去履歴、修正履歴を踏まえて業務文脈を理解する「セマンティックレイヤー」が必要になります。こうした仕組みが動的に連携することで、初めて実務の中で継続的に機能するAIエージェントが実現できると考えています。

私たちは、AIに対して人がチャットなどのインターフェースを通して逐一指示を出して仕事をさせる世界ではなく、AI自身が自律的に仕事を進めることで「人間の介在を最小限に抑える仕組み」こそが、本質だと考えています。

未来への投資と
現実的な収益化を両立する

i Mag 「kozokaAI受注AIエージェント」に対するユーザーの反応はいかがですか。

藤井 正式リリース前に複数のお客様でPoCを実施し、さまざまな評価をいただきました。従来からFAX受注処理にAI-OCR製品を利用されていたお客様からは、「従来製品では約80%程度だった読み取り精度が、kozokaAI受注AIエージェントでは85%まで向上した」という評価をいただいています。そのほかのお客様からも、読み取り精度の向上に加えて、RPA不要・座標指定不要によるツール運用負荷の軽減に加え、業務処理全体の効率化につながったという評価をいただきました。

i Mag 今後の計画について教えてください。

藤井 当社は今後も、よりエージェンティックな領域への投資を継続していきます。その一方で、私は現在のAI市場の成長フェーズが、このまま続くとは考えていません。AIの進化のスピードは、多くの人が想像する以上に速く、1つの投資フェーズが回収段階へ移行する前に、すでに次の投資フェーズが始まっています。しかも、その変化の波は一度きりではなく、何段階にもわたって押し寄せています。

だからこそ今、重要なのは「未来への投資」と「現実的な収益化」を両立することだと考えています。当社としては、まず受注領域において確実に企業価値を構築し、着実に収益化を進める。その一方で、次の時代を見据えた技術投資も止めない———そのバランスを非常に重視しています。

i Mag kozokaAI受注AIエージェントに大きな期待を寄せているのですね。

藤井 AI時代には、プロダクトを「作れること」だけでは差別化が難しくなります。重要になるのは、顧客の業務現場に入り込み、実際に使われ続ける形で届け切る力です。どれだけ優れたAIを開発しても、顧客に届かなければ価値にはなりません。逆に、強い販売網や顧客基盤を持つ企業がAIを手にした瞬間、一気に市場を獲得していく構図が生まれると見ています。そして今後は、販売力・顧客基盤・データ・技術を持つ企業同士の連携や合従連衡も、さらに加速していくはずです。

今のAI業界は、まさにカンブリア紀です。毎日のように新しい技術や企業が生まれています。そして、おそらく2020年代のうちに各領域の勝者は徐々に定まり、オセロの角が埋まるように市場構造が形成されていくはずです。

その中で私たちは、まず「製造業・流通業における受注業務AI」の領域で、No.1を目指します。そしてその先に、受発注を起点とした基幹業務全体のAIエージェント化を進めていきたいと考えています。

撮影:広路和夫

 

[i Magazine 2026 Summer掲載]