なお、『WIRED』はGoogle DeepMindにコメントを求めたが、記事公開時点までに回答は得られなかった。
「クール」を売るA24
A24は映画界屈指の「センス」を象徴するブランドだ。「ディズニーがノスタルジーを売っているとすれば、A24は創業以来ずっと、『最先端でクールであること』そのものをブランドとして売ってきました」と映画評論家エスター・ローゼンフィールドは語る。
『Backrooms』以前にも、A24は『ウィッチ』『ムーンライト』『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、そして近作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』など、現代アメリカを代表するインディーズ映画を数多く送り出してきた。また、ソフィア・コッポラ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、アリ・アスター、ジェーン・シェーンブルン、セリーヌ・ソン、サフディ兄弟ら、多くの重要な映画作家たちのキャリアを支えてきた。2012年の設立以来、A24作品はアカデミー賞に何十回もノミネートされてきた。いまや予告編の冒頭にA24のロゴが映るだけで、期待が高まるほどのブランド力を持っている。
さらにA24は、キャップやトートバッグ、限定Tシャツなどを身につけて映画好きをアピールする熱心なファンコミュニティを抱えるという点でも、珍しいエンターテインメント企業だ。パラマウント・ピクチャーズのような従来のハリウッドスタジオではあまり見られない現象だろう。A24には、それほどまでに熱狂的な支持者が存在している。
2024年刊行の著書『Derivative Media: How Wall Street Devours Culture』の著者であり、カリフォルニア大学サンディエゴ校のメディア研究者アンドリュー・デワードはこう語る。「A24には非常に優れたマーケティング部門があります。『尖っていて先進的で若者向け』という企業イメージを確立し、ファンダムを築き上げてきました」
一方でデワードは、このDeepMindとの提携を、A24にとって必ずしも意外な展開とは捉えていない。著書のなかで彼は、A24の共同創業者ダニエル・カッツがかつて、環境負荷の大きい資源採掘産業に深く関わるグローバル金融企業Guggenheim Partnersで映画ファイナンスを担当していたことを指摘している。また2024年には、OpenAIにも出資しているThrive CapitalからA24が多額の資金注入を受けたことにも触れている。さらにA24 Labsの責任者スコット・ベルスキーは、ピーター・ティールによる招待制ネットワーク「Dialog」と結びつけられた人物のひとりとして報じられている。
AIが欲しがる「センス」
AIの映画業界への浸透を「避けられない未来」と捉える見方には、どこか既視感がある。少なくともAI企業の関係者や経営層は、しばしばそうした前提で語る。そうなると議論の焦点は、「起こるかどうか」ではなく、「いつ起こるか」へと移行してしまう。抵抗することは無意味だ、というわけだ。
デワードは、グーグルのようなAI企業についてこう語る。「AIを避けられないものとして感じさせようとしているのです。AIがあらゆる場所に存在し、ごく自然なものだと思わせたい。そのために文化さえも利用しているのです」
ローゼンフィールドは、この提携は少なくともグーグルにとって、イメージ改善を狙ったPRだとみている。「グーグルは『あなたたちを通じて自分たちの評判を“洗浄”したい』と言っているようなものです」と彼女は語る。「本格的なアーティストたちがこうしたツールを使って作品を制作しているように見せたいのでしょう。でも実際には、その意味での“本格的なアーティスト”はほとんどいません」