アジャイル開発の普及やセキュリティ診断の内製化が進む中、AIを活用したコード解析ツールへの注目が急速に高まっています。2026年4月30日、AnthropicはClaudeの推論能力を利用する「Claude Security」をパブリックベータとして公開しました。これは従来のSAST(静的アプリケーション解析)ツールのようなパターンマッチングではなく、コードの文脈・データフロー・ファイル間の相互作用をAIが理解して脆弱性を発見する、AIネイティブなセキュリティスキャンツールです。
※ Claude SecurityはEnterpriseプラン契約者のみが利用可能とされており、年間数百万〜数千万円規模の契約が一般的になると思われます。
ラックでは2022年より、SAST(静的アプリケーション解析)とSCA(ソフトウェアコンポジション解析)の先進的プラットフォームであるSnyk(スニーク)を提供しています。そのため最近では、「AIであるClaude Securityを使えば、Snykのような従来から存在するSASTやSCAツールは不要になるのか」といったお問い合わせをいただく機会が増えています。結論から言えば、AIの登場によってSnykが不要になるわけではありません。両者は競合ではなく、それぞれ異なる強みを持つため、組み合わせることでより高いセキュリティ効果を発揮します。
本記事では、アジャイル開発を推進する開発部門や、セキュリティ診断の内製化を進める担当者に向けて、SnykとClaude Securityの違いを比較しながら、それぞれが得意とする領域を解説します。
SnykとClaude Securityの違い
SnykとClaude Securityは設計思想に大きな違いがあります。Snykは「ルールを守らせる厳しいガードレール」、Claude Securityは「一緒に考えてくれる専門家」といったイメージです。
項目
Snyk
Claude Security
役割
ルールを守らせる厳しいガードレール
一緒に考えてくれる専門家
特長
ルールに基づき、既知の脆弱性を見逃さずチェックする網羅性
AIがコードの意味を考え、複雑なロジックの隙間を見つける柔軟性
対象領域
アプリケーションコード、ライブラリの依存関係(SCA)、コンテナ、IaC設定
アプリケーションコード(ロジック)
セキュリティチェックのスピード
非常に高速(CI/CDへの組み込みに最適)
中~低速(深い推論を伴うため)
信頼性・再現性
設定したルールに従い、常に同じ結果を出すため、監査にも有効
ルール外の危険も見抜くが、回答に「揺らぎ」が出ることがある
AI時代でもSnykが不可欠な理由
ラックではAIがどれほど進化しても、企業のセキュリティガバナンスにおいてSnykが不可欠であると考えています。
ソフトウェアサプライチェーンの網羅的な管理(SCA)
現代のアプリケーション開発はゼロからコードを「書く」よりも、様々な外部ライブラリを「組み合わせる」作業が中心です。Snykは数千におよぶ外部ライブラリの依存関係を瞬時に可視化、リスクを特定します。AIであるClaude Securityはコードを「読む」ことを得意としている一方で、膨大なパッケージの依存ツリーを「管理・追跡」するデータベース機能は持っていません。
監査に耐えうる「再現性」の保証
ISMSやSOC2などの監査では、「いつ」「誰が」「どの基準で検査したか」という客観的なエビデンスが求められます。Snykは独自のセキュリティデータベースに基づいたルールでスキャンするため、いつセキュリティチェックを実行しても同じ結果が出ます。これは監査において、セキュリティチェックの結果に問題がないことを証明するエビデンスとして有効です。
一方Claude SecurityではLLM(大規模言語モデル)の性質上、同じコードをスキャンしても、タイミングによって指摘内容が変わる可能性があるため、監査のエビデンスとしては信頼性が不足する場合があります。
インフラとコンテナの包括的な保護(IaC / Container)
脆弱性はアプリケーションのコードだけではありません。Snykはコンテナ内のOSパッケージの不備や、Terraform/Kubernetes等のIaC(Infrastructure as Code)設定ミスもカバーします。数GBのバイナリを高速スキャンし、インフラのベストプラクティスを網羅的にチェックする能力は、現時点でClaude Securityの範疇を超えています。
組織全体の「ガバナンス」と可視化
数百のマイクロサービスを抱える企業において、個別のAIとの対話で全体のリスクを把握するのは困難です。一方Snykのダッシュボードは組織全体のセキュリティ脆弱性の状況やリスクスコアを可視化し、「どのチームに修正プログラムを適用すべきか」という判断を支援します。
SnykがClaudeを統合
AIの普及でソフトウェア開発がかつてない速度で進化した結果、生成されるコード量は急増し、脆弱性も「量」「速度」「複雑さ」のすべてが従来のセキュリティ対策の想定を超え始めています。
これまでの脆弱性管理は、セキュリティ担当者や開発者がアラートを確認し、内容を判断して修正することを前提としていました。しかし、AIにより大量のコードが量産される現在では、検出されるアラートの数も爆発的に増加しています。人手による確認や修正では開発スピードに追いつかず、セキュリティがビジネス上の大きなボトルネックとなる可能性があります。
そこでSnykは、「正確な脆弱性データベース」という強みにClaudeという「AIによる高度な推論」を融合させる戦略を打ち出しました。2026年5月、AnthropicのClaudeモデルを「Snyk AI Security Platform」に組み込み、AI時代の超高速なソフトウェア開発に対応するための「AI主導セキュリティ強化」を発表※しています。
※ Snyk Embeds Anthropic’s Claude to Advance AI-Powered Security for Software Development | Snyk
Snykが実現しようとしているのは、具体的には以下の3点です。
1. 「発見から自動修正」までをAIで自動化
AIの登場によって開発スピードが加速し、人間が目視でセキュリティチェックを行うやり方では、開発スピードに追いつけなくなっています。SnykはClaudeを組み込むことで、マシンスピードでの修正、高精度な推論の活用により、このボトルネックを解消しようとしています。
2. AIネイティブ開発(AIエージェントなど)に対応した、包括的なセキュリティ
ソフトウェア開発は、人間がAIアシスタントを利用する段階から、自律的に動くAIエージェントやMCPサーバーがコードを書き、デプロイする時代へと移行しつつあります。Snykは、この新しい開発形態そのものを守る基盤になろうとしています。
具体的には、AIモデルやAIエージェント、MCPサーバー、データセット、サードパーティ製AIツールなどのAI資産を継続的に可視化・管理します。稼働中のAIエージェントに対する疑似攻撃(レッドチームによるテスト)を行い、プロンプトインジェクションや情報漏えいの検証、AIツールのサプライチェーンリスクの監視を実施します。
さらに、AIが外部ツールを呼び出す(Tool Call)際には、被害が発生する前に実行時ポリシー(ランタイムポリシー)を適用し、リスクのある処理を実行前にブロックする仕組みも提供します。
3. セキュリティチームと開発チームのワークロードを軽減
Snykの調査によると、本番環境のコードの65〜70%がAIによって生成され、その約半分に脆弱性が含まれるとされています。さらにAIモデルを1つ導入するごとに、周辺のソフトウェアコンポーネントが約3倍に増加するというデータがあります。
※ 2026 State of Agentic AI Adoption | Snyk
これほど急激に増えるコードやコンポーネントを、従来のやり方でセキュリティチームや開発チームが監視・修正しようとすれば、チームは疲弊してしまいます。そこで、セキュリティを開発の後にチェックする面倒なゲートにするのではなく、コード生成の段階から自動でセキュリティが組み込まれる仕組みにすることで、セキュリティチーム、開発チームの負担を増やすことなく安全なコードを継続的に提供できる開発基盤の実現を目指しています。
さいごに
法規制への対応や監査、ソフトウェアサプライチェーンの管理といった企業の説明責任を支える「守りのインフラ」として、Snykの重要性は変わりません。一方で、Snykが「問題あり」と判定した後の修正PR(Pull Request)作成や、人間では見落としやすい複雑なロジックの問題を短時間で見つけ出すことは、AIが非常に役に立ちます。AIかSASTか、どちらかを選ぶのではなく、Snykの正確で再現性の高いセキュリティ基盤に、Claudeの高度な推論能力を組み合わせることで、ガバナンスと開発スピードを両立できるようになります。
AIによる開発が当たり前になるこれからの時代に求められるのは、AIに置き換えることではなく、AIを前提にセキュリティを再設計することです。SnykとClaudeを組み合わせたハイブリッドなアプローチは、その新しいスタンダードになっていくでしょう。
プロフィール

鈴木 真人
主にアプリ開発プロセスにおけるセキュリティや、クラウドセキュリティを実現するソリューションの提案に取り組んでいます。DevOpsに「+セキュリティ」する方法について、今後も発信を行っていきます。