「はやぶさ2」が小惑星トリフネへの超接近に成功、“地球防衛”の実証に向けた挑戦の意義 | WIRED.jp

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が、7月5日に小惑星「トリフネ」へのフライバイ(接近・通過)探査に成功した。探査機の状態が正常であることが18時35分に確認され、トリフネの画像とサイエンスデータを無事に取得できたという。

トリフネに最接近したのは18時30分で、中心からわずか800m(計画値)の距離を秒速約5kmという高速で通過した。今回の挑戦は、はやぶさ2の拡張ミッションにおける最初の小惑星探査であり、2012年に小惑星トータチスの表面から約770mまで接近した中国の探査機「嫦娥2号」に匹敵する超接近となった。

はやぶさ2は、2014年12月にH-IIAロケットで打ち上げられ、18年6月に小惑星「リュウグウ」に到着した探査機だ。世界初の人工クレーター形成に成功したのち、20年12月にサンプルを地球へ届けた。以降は拡張ミッション(はやぶさ2♯)として運用が続けられている。

至近距離から捉えたトリフネの姿

探査機の進路確認と撮影を担う望遠の光学航法カメラ(ONC-T)が撮影した画像には、トリフネの姿が鮮明に写し出されている。画像からは、丸みを帯びた2つの岩塊が雪だるまのように連なった姿が確認できる。このことからトリフネは、推定されていたような単一の細長い天体ではないと考えられる。

中間赤外カメラ(TIR)も、トリフネまでの距離約10kmの地点からの撮影に成功した。この画像も同様に2つの岩塊が連なった構造を捉えており、表面温度の分布から表面が温まりやすく冷めやすいか(細かい砂か、岩がむき出しか)や表面の粗さを推定できる貴重な資料となった。ただし、いずれも速報段階の画像であり、詳しい形状モデルは今後の解析によって更新される可能性がある。

中間赤外カメラ(TIR)によって撮影された小惑星「トリフネ」

中間赤外カメラ(TIR)が撮影した小惑星「トリフネ」。約10km離れた地点から撮影した。

Photograph: JAXA/Maebashi Institute of Technology/Chiba Institute of Technology/The University of Aizu/Hokkaido University of Education/AIST

こうした科学機器を使った観測は、まずONC-Tによる観測が6月半ばから開始され、6月20日にはトリフネの姿が約1ピクセルの光点として初めて撮影された。その後もONC-Tによる観測は継続的に実施されたが、その目的は主にカメラ画像と地上からの電波の両方で探査機の位置を割り出す光学電波複合航法に使うためだった。

さらに最接近の1時間ほど前からは、反射光から表面の鉱物組成を調べる近赤外分光計(NIRS3)や、赤外線で表面温度を測る中間赤外カメラ(TIR)、レーザーで天体までの距離を測るレーザ高度計(LiDAR)による観測が直前まで実施された。

現時点では、サイエンス機器で取得されたデータの一部のみが通信によって地上へ伝送された段階だ。残りのデータは、今後の運用を通じて順次地上へ届けられる予定だという。

地球防衛に向けた意義

トリフネの中心からわずか800mという至近距離を正確に通過する技術は、将来的に探査機を小天体へ意図的に命中・衝突させる技術の基盤になるとされている。この難易度について問われた拡張ミッションのチーム長である三桝裕也は、「秒速5kmで接近して1億km先で800m〜1kmの距離を通り抜ける精度は、地球上で例えるなら北海道に設置された1円玉を沖縄からレールガンで射抜くぐらいの難しさです」と、記者説明会で語っていた。