米OpenAIが米政府に対し、同社株式の5%を譲渡する案を協議していることが分かった。英Financial Timesが7月2日に報じ、ReutersやCNBCなど各社が後追いした。同社は3月の資金調達で企業評価額8,520億ドル(約130兆円)をつけており、5%は約426億ドル(約6兆5,000億円)に相当する。他の主要AI企業も同様に株式5%を政府系ファンドに拠出する業界横断の構想で、ワシントンで強まる規制圧力を和らげると同時に、「AIの富を国民に分配せよ」という世論の高まりに応える一石二鳥の狙いがあるとみられる。
アラスカの石油基金がモデル
FTの報道によると、協議はまだ「初期段階の会話」であり、Sam Altman氏がTrump大統領、Lutnick商務長官、Bessent財務長官と直接協議しているという。交渉に詳しい2名の関係者の話として、Altman氏は「国民がOpenAIに金銭的な持ち分を持つことが、AIの恩恵を分かち合う最善の方法だ」と主張しているとされる(CNN)。
OpenAI経営陣が提案しているスキームは、米国の主要AI企業がそれぞれ株式の5%を、政府が管理する専用基金に拠出するというもの。モデルとなるのは、アラスカ州の石油収入を原資に運用し、州民に毎年配当を支払っている「アラスカ・パーマネント・ファンド」だ。株式は売却ではなく寄付の形を取るため、政府側の現金支出は発生しない(The Next Web)。参加候補として米Anthropic、米Google、米Metaの名前が挙がっているが、各社が応じるかは不明で、実現には連邦議会の立法が必要になる可能性もあるという。OpenAIはコメントを差し控え、ホワイトハウスも取材に応じていない。
背景に政府の圧力。モデルのリリースにも介入
今回の提案の背景には、AI企業に対する米政府の関与が急速に強まっている事情がある。Trump政権の要請を受け、OpenAIは先週、最新モデルGPT-5.6の広範なリリースを延期した。その数日前には、Anthropicが政府の命令により、最上位モデルFable 5などへのアクセスを一時停止している。Anthropicはその後、政府との交渉の結果、最上位モデルへの輸出規制が解除されたと発表した(Reuters)。
政府が民間企業の株主になる前例もすでにある。米政府は昨年8月、半導体大手の米Intelに89億ドルを投じて株式10%を取得した。Trump氏は5月、「もっと大きな持ち分を要求すべきだった」と述べたほか、AI大手への政府出資について「美しいことだ。米国民がこの革命のパートナーになる」と前向きな姿勢を示している(CNBC)。
Sanders氏の「50%没収案」に先手
もう一つの重要な文脈が、Bernie Sanders上院議員が6月18日に提出した「American AI Sovereign Wealth Fund Act(米国AI政府系ファンド法案)」だ。大手AI企業の株式に一度限りの50%課税を行い、その株式を政府系ファンドに拠出させる内容で、年間売上2億ドル超のAI企業が対象。現在の企業評価額ベースでファンド規模は推定7兆ドルに達し、当初は国民1人あたり年間1,000ドル超の配当が可能だと同氏は試算する(Sanders議員発表文)。
Sanders氏は「AIは人類の集合知の上に築かれている以上、AIが生み出す富は人類に還元されなければならない」と主張。政府が議決権と各社の取締役ポストを通じて、「国民を傷つける意思決定を阻止する」権限を持つ設計になっている。
つまり構図はこうだ。Sanders氏が「強制・50%・議決権付き」という急進案を突きつける中で、OpenAIは「自発的・5%・寄付形式」という穏健版を先回りして提示した。Altman氏が最近数週間でSanders氏本人とも会談しているとFTは伝えており、急進案が勢いを増す前に業界主導の枠組みで着地させたい思惑が透けて見える。
「AIの富を誰が受け取るのか」が政策の中心テーマに
AIの富の分配論は、いまや業界共通のテーマになりつつある。OpenAIは4月に発表した政策文書で、金融市場に投資していない人を含むすべての市民にAI経済成長への持ち分を提供する「Public Wealth Fund(公共財産ファンド)」の創設を提案済みだ。同文書では週4日労働制や、AIで人員を置き換える企業への課税まで踏み込んでいた(Forbes)。Anthropicも、AIセクターへの課税を原資に米国民へ直接支払いを行う「デジタル配当」を提唱している。
一方で懸念もある。政府はAI企業にとって規制当局であり、顧客であり、捜査機関でもある。その政府が株主として利益を共有すれば、規制の中立性が損なわれるという利益相反の問題だ。またOpenAIは昨年の再編で、非営利財団(株式26%を保有し法的支配権を持つ)と営利のPBC(公益法人)に分かれた複雑な構造になっており、政府保有株をどこに置き、どんな議決権を付与するのかという実務的な難題も残る。
それでも、AIによる雇用喪失への国民的反発が強まる中、「AIの富を誰が受け取るのか」という問いがAI政策の中心に据わりつつあることは間違いない。AIモデルや半導体の性能をめぐる競争の裏で、AI時代の富の分配の仕組みづくりが本格的に動き出した。