血管の複雑な形をAIで自動測定する新ツールを開発 福井大学 | 医薬通信社

2026.07.03

 福井大学医学系部門医学領域の木戸屋浩康教授らの研究グループは、AI(深層学習)と画像処理、グラフ理論を組み合わせ、顕微鏡画像から血管の形を自動で計測するソフトウェア「PAVSAT(パブサット)」を開発した。
 同ツールは、曲がった血管や太さの変化まで捉え、専門家の手作業に近い精度で、高速に大量の画像を解析できるの特徴だ。誰でも使えるオープンソースのソフトウェアとして公開されており、血管の発生、がん、脳血管など、血管に関わるさまざまな研究を加速すると期待される。
 血管は生体にとって不可欠なネットワークであり、その形や枝分かれの様子、血管同士のつながり方を詳しく調べることは、血管が体の中でどのようにつくられ、また、がんの増殖や脳梗塞などの病気でどのように変化するのかを理解する上で、大変重要な手がかりとなる。実際に、血管の微細な構造の数値評価は、病気の客観的な診断や、治療がどれだけ効いているかの判定にも役立つことがわかってきている。
 近年、二光子顕微鏡や光シート顕微鏡といった技術の進歩により、組織の奥深くにある血管まで鮮明に画像化できるようになった。だが、得られた画像から血管の形を数値として正確に測り取る「解析」技術は、画像化の進歩に追いついていなかった。
 その理由の一つが、血管の形の複雑さである。従来の解析方法の多くは、血管を「まっすぐで太さが一定の管」とみなして計算するため、実際の血管がもつ曲がりや太さの変化をうまく捉えられず、重要な情報が失われていた。
 また、手作業や半自動での計測に頼る方法も多く、時間がかかるうえ、測る人によって結果がばらつくという問題もあった。そのため、大量の画像を効率よく、客観的に解析できるツールが求められていた。
 研究グループは、AI(深層学習)と画像処理、そしてグラフ理論を組み合わせた血管解析ソフトウェア「PAVSAT」を開発した。解析は大きく四つの段階からなる。
 第一段階では、「YOLOv8」と呼ばれるAI を用いて、顕微鏡画像の中から血管の領域をすばやく抽出する。このAIには、血管を染色した多数の顕微鏡画像をあらかじめ学習させている。
 第二段階では、抽出した血管の中心を通る線(中心線)をたどりながら、枝分かれの位置を自動的に見つけ出す。第三段階では、血管が曲がっていてもその向きに合わせて垂直方向に太さを測ることで、曲がりや太さの変化を正確に捉える。
 第四段階で、血管網を「節点(枝分かれ)」と「辺(血管の区間)」からなるネットワークとして表現し、血管のつながり方や階層構造といったこれまで難しかった高度な解析を可能にした。
 さらに、大きな画像は細かなタイルに分けて処理するが、その境目で血管を取りこぼしてしまう問題があった。そこで、画像を少しずつ重ねながら処理する工夫を取り入れたところ、見逃す血管を大幅に減らすことができた。
 専門家による手作業の計測と比較したところ、PAVSATは血管の検出率91〜98%、太さの計測精度89〜93%(手作業との差が10 ピクセル以内)という高い性能を示した。自動計測と手作業のあいだに偏りはなく、強い一致(相関係数0.94 以上)も認められた。
 専門家に近い精度を保ちながら、人手では現実的に不可能な規模の画像を高速に処理できる点が、同ツールの大きな特長である。
 PAVSATは、プログラミング言語Pythonで動くオープンソースのソフトウェアとして公開されており、特別な装置がなくても多くの研究者が利用できる。
 血管は、体のあらゆる組織や病気に関わっている。そのため同ツールは、血管が新たにつくられる過程を調べる発生生物学、腫瘍に栄養を送る血管を解析するがん研究、脳の血管網と神経のはたらきの関係を調べる神経科学など、幅広い分野での活用が期待される。客観的で再現性の高い解析が可能になることで、これまで手作業では難しかった大規模な研究も進めやすくなる。
 今後は、平面(二次元)の画像だけでなく立体(三次元)の解析への拡張や、少ない学習データでも新しい組織に対応できるように改良を進めていく。画像化技術がさらに進歩するなかで、同ツールのような解析技術は、複雑な血管データから意味のある知見を引き出すために、ますます重要になる。

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