内視鏡AIで“がん見逃しゼロ”に挑む:AIメディカルサービス──AIで健康に革新をもたらす12の企業 | WIRED.jp

AIをこう使う:
→画像解析解決すること:
→早期がん約2割の見逃し実現すること:
→病変候補の検出精度向上

胃がん、食道がん、大腸がんといった消化管のがんは、世界で最も死亡者数の多いがんである。なかでも胃がんは早期に発見できれば5年生存率が98%に達するとされるが、内視鏡検査では約2割の早期がんが見逃されているという報告もある。この課題にAIで挑んでいるのが、内視鏡専門医の多田智裕が2017年に創業したAIメディカルサービスだ。

内視鏡AIで“がん見逃しゼロ”に挑む:AIメディカルサービス──AIで健康に革新をもたらす12の企業

AIメディカルサービスが開発・販売する内視鏡画像診断支援ソフトウェア「gastroAI」は、内視鏡検査中に病変候補を検出し、医師の診断を支援する。23年12月に製造販売承認を取得し、24年3月から販売を開始した。

多田が人工知能(AI)の分野での起業を決めたきっかけは、ディープラーニングによる画像認識の精度が人間を超えたと16年に知ったことだった。内視鏡検査は胃や腸の中の画像を見ながらがんの有無を判断する、いわば画像認識そのものの作業である。

「AIを活用すれば内視鏡医療をより発展させることができると考え、研究開発を始めました」と多田は語る。当初は内視鏡画像からピロリ菌の感染を判定するAIの研究で世界初の成果を上げたが、ピッチコンテストでの審査員らの助言を受けて、より臨床的意義が高く世界で通用する胃がんの早期検出へと舵を切った。そのコンテストで審査員を務めていたのが、医療機器大手ボストン・サイエンティフィック ジャパンの副社長を経て、後に代表取締役社長として経営に加わる瀧川泰司だった。

AIメディカルサービスの最大の強みは、国内外140以上の医療機関から収集した高精度なデータにある。AIの学習には内視鏡画像だけでなく、がんであることを確定する病理データが不可欠だ。しかも内視鏡は富士フイルムやオリンパスなどメーカーや機種ごとに画質が異なり、各社のデータを満遍なく集める必要がある。新機種が登場すればまた収集をやり直す「終わりのない旅」でもある。「すべての患者情報は有償で収集しなければなりません。病理データ付きの画像をこれだけの規模で集められていることが、わたしたちの宝物なのです」と瀧川は言う。

競合との差別化にも、このデータの質が利いている。欧米諸国で発症率が高い大腸がんの検出AIの分野には各国のメーカーが参入しているが、早期胃がんは病変が平坦で周囲を胃炎に囲まれているため、微妙な変化を捉える開発難度がはるかに高い。しかも胃がんはアジアに多く欧米には少ないことから、日本が蓄積してきた世界最高水準のデータが圧倒的な優位性をもつのだ。

海外展開はシンガポールを足がかりに進めている。ただし、日本の製品をそのまま海外で使うことはできない。日本ではピロリ菌の除菌が普及しているが、海外ではその検査体制が不十分であることから、前がん状態を含めた検出機能が求められるからだ。現在は海外仕様の製品を並行して開発しており、OEM供給というかたちで海外メーカーのプラットフォームにソフトウェアを載せる戦略も視野に入れている。

内視鏡AIで“がん見逃しゼロ”に挑む:AIメディカルサービス──AIで健康に革新をもたらす12の企業

AIはあくまで医師の診断を支援する存在であり、最終判断は人間が下す──。多田はその原則を繰り返し強調する。

「AIが医療現場の隅々まで使われるようになれば、いちばん大きな恩恵は診断精度の均てん化(均質化)です」と多田は言う。医師の技量の差や、朝と夕方の集中力の違いをAIが補うことで、検査の精度も底上げされるという。「ヒューマン・イン・ザ・ループというかたちで、絶対に人が関与する。AIだけで完結するものではありません」